著者
阿南 あゆみ 山口 雅子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.183-195, 2007-06-01 (Released:2017-04-11)

我が子の障害を受容する過程には, 子供の障害の内容や親の要因, さらに社会的要因など様々な因子が複雑に絡み合い, その受容過程は決して単純なものではない. 障害受容に関連する様々な要因の中で, 子供の障害の種類と程度は親の受容過程にもっとも大きな影響をおよぼすと考えられるが, 先行研究では様々な疾患を「障害」という一つの枠組みに捉えたものが多い. また子供と親が今後障害と共に生きて行く言わば出発点となる障害告知は, 障害の種類により時期や内容が異なり, 我が子の障害受容過程に多大な影響をおよぼすと考えられる. さらに母親と父親の受容過程は異なると考えられるが, 先行研究の多くは「母親」を対象としており, 「父親」を対象としたものが少ない. 今後の研究課題として障害の種類と程度を勘案した詳細な分析や告知の在り方に関する研究の集積が必要である. また母親だけではなく父親の受容過程やその家族・社会に関する研究を行う必要がある.
著者
北條 暉幸 中島 民治
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.265-268, 1985-09-01 (Released:2017-04-11)

北九州市とその郊外に住む23人の女子学生の足型の計測学的研究である. 彼等の両親は福岡県人である. 約20年前に計測された北部九州の非都会的環境(農村など)に在住した2つの異なった集団とこれらの女子学生の間に, 足長(足型の長さ)に関して有意の差は存在しなかったが, 女子学生の身長は最も高く, また足指数(足型の長さに対する足型の幅)は小さく足型は細長い形であった. これらの足型の特徴は, 都会的な生活と世代間の相違によるものと考えられる.
著者
平川 晴久 林田 嘉朗
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.117-129, 2002-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
3 2

低酸素によって引き起こされる自律神経系と循環系の反応、および暴露直後にみられる心拍の反跳現象について解析を行った. 血圧測定用カテーテル, 心電図そして腎交感神経活動記録用電極を慢性に植え込んだWistar ratを用い, hypocapnic (Hypo), isocapnic (Iso), hypercapnic (Hyper) hypoxiaの暴露を行った. Isoでは, 血圧及び心拍数は変化しなかったが, Hypoでは, 血圧は低下し心拍数は増加, Hyperでは, 血圧は上昇し心拍数は低下した. 腎交感神経活動はいずれにおいても増加した. IsoとHyperの終了直後, 心拍数は一過性に増加した. この心拍反応は, 腎交感神経活動の反応とは相関しなかった. このことより, この心拍の反跳現象は, 交感神経よりもむしろ副交感神経系のメカニズムによるものと考えられた. 低酸素時の循環反応は動物により異なると考えられているが, 類似した条件において行われた実験においては種差に関わらず, その結果は, ほぼ一致するものであった.
著者
藤野 昭宏 Tar Ching Aw 大久保利晃 加地 浩
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.37-44, 1998-03-01 (Released:2017-04-11)

英国における産業医学教育の現状を日本と比較しながら紹介した後, 英国と日本における卒後産業医学教育システムについて比較検討を行った. 産業医学専門医制度(英国王立内科医協会産業医学部門専門医制度と日本産業衛生学会専門医制度)における, 全研修期間, 臨床研修期間, 産業医学研修期間, 専門医試験方法および合格率に関して比較したところ, 前者の方がより多くの産業医の専門的訓練が要求される研修システムであり, また産業医学的臨床実施能力の訓練を重視していることが示唆された. また, 英国の産業医デイプロマ制度とこれに相当する日本の医師会認定産業医制度との比較では, 前者の資格取得のためには, 講習会の受講・基礎的実習のみならず, 試験に合格することが義務付けられていた. 日本の認定産業医制度においても, 試験制度の導入は今後の検討すべき課題あると考えられる.
著者
ホー ヨン キム サンフン イ スッキ キム ヒョンア
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.249-258, 2017-12-01 (Released:2017-12-16)
参考文献数
31
被引用文献数
8

多発再発性症状を伴う後天性の病態である,多種化学物質過敏症(MCS)はその多様な環境要因との関連性について研究が行われている.本研究は韓国の公共施設の勤労者と一般人の多種化学物質過敏症の自己申告有症率に関係する要因について調べた.公共施設の勤労者(530名)と一般人(500名)を対象にQuick Environmental Exposure Sensitivity Inventory(QEESI)質問票を用いてMCSの有症率とその危険度を調べた.被験者の人口統計的情報,シックビルディング症やシックハウス症ないしアレルギー(SBS/SHS/Allergy)についての被験者の理解,および家庭ないし職場での出来事についての情報も得た.QEESI質問票の評価点について公共施設の勤労者と一般人の間で,統計的有意差はなかった.MCSの全有症率は14.4%で,二群間で統計的有意差はなかった.全MCS危険度については,被験者の21.8%が “very suggestive”と分類されたが,これも二群間で統計的有意差はなかった.性別と被験者のSBS/SHS/ Allergyの認識がMCSの有症率と危険度の選別基準に影響する.韓国ではMCSの鑑別基準や処置法がないことを考慮すると,本研究結果はMCSの今後の対処法を確立するために活用できる.
著者
中野 信子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984-03-01 (Released:2017-04-11)

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
岡井(東) 紀代香 石河 暁子 安友 小百合 岡井 康二
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.311-324, 2009-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
4 10

中国や日本では古来より乾燥した温州みかんの皮を「陳皮」と称して循環器系疾患や呼吸器系疾患の予防や改善の目的で漢方薬・生薬・薬膳料理などに利用してきた. 本研究ではこれらの陳皮の薬理効果の作用メカニズムのひとつとして抗酸化・ラジカル消去活性に注目して分析した結果, 陳皮の冷水・熱水抽出液にきわめて強い抗酸化・ラジカル消去活性が認められた. そこで水抽出液をエタノール可溶性画分と沈澱画分に分けたところ, 主要な活性はエタノール可溶性画分に認められた. そこでその活性本体に対応する水溶性・低分子性物質としてアスコルビン酸とクエン酸を仮定してそれらの陳皮水抽出液中の濃度を測定し, その濃度に対応する両者の抗酸化・ラジカル消去活性を分析したところアスコルビン酸は強い1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去活性を示したが, リノール酸の過酸化脂質の生成に対する作用は弱かった. ところが, クエン酸は逆にDPPHラジカル消去活性は弱かったが, リノール酸の過酸化脂質の生成に対して強い抑制作用を示した. さらにクエン酸は微量金属とアスコルビン酸によるリノール酸の過酸化脂質の生成の促進を消去・抑制することを見出した. 以上の実験結果により陳皮の水抽出液の示す強い抗酸化・ラジカル消去活性はアスコルビン酸とクエン酸がお互いにそれぞれの作用を補完するとともに一方の物質の酸化促進作用を他の物質が消去・抑制するためであることが示唆された.