著者
山本 勇次
出版者
大阪国際大学
雑誌
国際研究論叢 : 大阪国際大学紀要 (ISSN:09153586)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.73-84, 2013-01-31

日本人の危機管理意識の脆弱さは、元内閣安全保障室長の佐々淳行氏によって、日本列島の地理的条件、外的緊張と、その反動としての弛緩とを繰り返す歴史的条件、それに「熱しやすく冷めやすい、忘れっぽい淡白な」国民性に理由付けられている。それに対して、井沢元彦氏は、「マイナス予測によるコトダマ反作用の法則」との視点から説いている。またこの問題は、日本人の「転向」研究から丸山正雄や橋川文三は、神道的裸身に外来思想を「着せ替え人形」のごとく着たり脱いだりする日本人の「理論信仰」と「実感信仰」との乖離的共存性からも説明されるであろう。筆者は、マーチとサイモンが言う「認知的合理性の限界」という視点から、この問題を論考してみたい。即ち、日本人は科学的実証で説明不能な現象には感覚的実証ですましてしまうところがある。この日本人の感覚的実証性の底には、神道的な「神頼み」のひとりよがりが流れている。だから日本人は、悪い予測を論じあって周囲の不安を煽るよりも楽観的・希望的観測に賭けて嵐の通り過ぎるのを待とうとする習性が古代から続いている。昨今の「竹島」や「尖閣列島」をめぐる領土問題にしても、日本人の対応は、危機管理意識の脆弱さ、あてのない楽観主義が見え隠れしている。 Japanese weakness in crisis management consciousness has already explained by Atsuyuki Sasa, former Chief of the Cabinet Security Council, as part of the Japanese national character. Motohiko Izawa also clarified this weakness in terms of the law of reaction of the spirit of language (kotodama) to a negative prediction. This problem was also attributed by Masao Maruyama and Bunzo Hashikawa to a crippling of theoretical faith and real faith. In this paper I would like to explain Japanese weakness in crisis management consciousness by means of March and Simon's "limits of cognitive rationality." The Japanese tend to depend upon a sensual positivism whenever a scientific positivism is incapable of elucidating a phenomenon. At the bottom of this sensual positivism there seems an individualistic trust in spiritual beings as shown in Shinto belief. This is why the Japanese are inclined to wait for typhoons to go away instead of ringing alarm bells by stating annoying opinions on the issue to the public.
著者
山本 勇次 坂野 晶司 石井 明 鈴木 千鶴子 池上 清子 溝田 勉 藤田 大輔
出版者
長崎大学
雑誌
長崎大学熱帯医学研究所共同研究報告集
巻号頁・発行日
vol.17, 2005

熱帯性疾患が頻発する地域は,概して経済的にも開発途上国がそのほとんどである。もっとも近年のSARSや鳥インフルエンザの流行が示すものは,ヒトやモノの移動が盛んになることにより経済先進国や地域も対象となり,例外ではないことが判明した。とりわけ,対策や予防を計画・実践する場合には,国境を越えた協力が必要であり,かつ行政や民間活動との連携が大切になる。従って,当課題の下では,途上国の現場に上記の観点から深く係わりをもった共同研究者が,それぞれ扱ったケースを紹介し合い,関係の密な社会環境要因を摘出し,検討かつ診断することを目的とした。
著者
江口 信清 藤巻 正己 ピーティ デヴィッド 山本 勇次 村瀬 智 瀬川 真平 池本 幸生 石井 香世子 四本 幸夫 古村 学
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、社会的弱者が、不利益をもたらされがちであった観光現象を逆手にとって、自立化・自律化の途を進み、かつ近代化の過程で喪失してきた自信やプライド、そして「伝統」を回復することはできるのだろうか。社会的弱者の自立的な生き方に観光がどのような意味を持つのかについて、世界の多様な地域の事例の比較分析し、考察をすることにある。比較研究の結果、少なくとも4つの結論を得た。(1) 途上国における社会的弱者は、観光にかかわるだけでは自立しえないであろう。(2) 外部で作られた観光の概念やスタイルと現地の人たちの理解するそれらの間には、しばしば齟齬がある。(3) 自生的なリーダーとこの人物を支えるフォロワー関係の存在が、観光開発の成否やコミュニティの福祉の改善に大きくかかわる。そして、(4) 女性の役割がたいへん重要であるということである。