著者
一戸 正勝
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.5-10, 2003 (Released:2008-10-07)
参考文献数
12
被引用文献数
5 3

最近,FAO/WHO 合同食品添加物専門家会議ではフザリウム毒素類のうち,デオキシニバレノールに関して安全性評価がなされ,それを受けた形で,わが国でも小麦のデオキシニバレノールに係わる暫定的な基準値が設定されるにいたっている1).現在,麦類,トウモロコシを含む穀類のデオキシニバレノールやニバレノールの汚染は,主としてFusarium graminearum(テレオモルフ Gibberella zeae)が,穀類の赤カビ病(麦類ではscab,トウモロコシではGibberella ear rot, pink ear rot)の植物病原菌として圃場で多発,被害をもたらすことによって発生することは世界共通の認識となっている.このカビ毒生産菌=植物病原菌の関係は,他のマイコトキシン類の自然汚染とトリコテセン類やゼアラレノンのような赤カビ毒素による自然汚染とを区別して考慮すべき重要な点である.すなわち,腐生性のAspergillus やPenicillium の生産するマイコトキシンの汚染が一定のロット内において粒単位の局在性を示すのに対し,赤カビ毒素類では植物病原菌であるために,圃場内の試料に広く分布することになるからである.このことは当然のことながらマイコトキシン類の分析用試料の調製法(サンプリング法)に影響を与える.本稿では,赤カビ毒素の生産菌が植物病原菌であること,赤カビ病の多発が穀類の生育期における気象条件と深く係わっていることを改めて認識することが,今日のデオキシニバレノール規制に対応するにあたって重要な視点であると考え,概説することとした.
著者
一戸 正勝
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1994, no.40, pp.11-14, 1994-12-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
14

穀類に着生してカビ毒汚染をもたらす菌類にはムギ類,トウモロコシの赤かび病にみられるような収穫前の圃場における植物病原菌に区分されるものと,米粒の収穫後の貯蔵,輸送時に発生する病変米の原因になるような貯蔵性菌類に区分されるものとがある.圃場におけるイネ病原菌がカビ毒汚染に関与したと想定される例は1950年代に発生した赤かび被害米粒の摂取による食中毒事件以外にはない.食品衛生学の歴史のうえで米(米粒)に着生するカビが問題視されたことは第二次世界大戦以前からあったが,社会問題にまでなり,その後の我が国のカビ毒研究の発端となったのは貯蔵性菌類による黄変米事件である. 1993年の東日本を中心とする異常気象によるイネの大冷害は外国産米の緊急輸入という事態をもたらし,その安全性をめぐって新聞,テレビをおおいに賑わしたのは黄変米以来のことである. そこで,これまでの我が国における米のカビに関する研究の歴史を概観することにより,それらの研究成果から学ぶことの多いことを期待すると共に,現在の輸入米,国産米のカビおよびカビ毒の問題にいかに対処すべきか考えたい.
著者
高橋 治男 植松 清次 大泉 利勝 森 悦男 柳堀 成喜 一戸 正勝
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1995, no.41, pp.53-59, 1995
被引用文献数
3

Trichothecium roseum causes pink mold rot of muskmelons and tomatoes cultivated in greenhouses, and also produces trichothecin, a 12, 13-epoxytrichothecene. To clarify the pathogenicity and trichothecin production of T. roseum, mycological examination was carried out in 8 greenhouses in Chiba Prefecture. The contamination of muskmelon and tomato fruits with trichothecin was also examined. Trichothecium roseum was isolated from almost all of the moldy or discolored muskmelon and tomato fruits, as well as tomato stem dumped near the greenhouse. The fungus was found in the air of a greenhouse in which many moldy tomato fruits were present, but in none of the soil samples from the greenhouses tested. In an inoculation test, T. roseum isolated from muskmelon and tomato invaded and decayed the flesh of matured muskmelons. Moreover, almost all the isolates of T. roseum tested produced trichothecin on Czapek-Dox broth supplemented with 0.2% corn steep liquor cultured for 21 days at 25°C. Trichothecin was detected in moldy muskmelon and tomato fruits collected in the greenhouses.
著者
秋山 綾乃 広瀬 大 小川 吉夫 一戸 正勝
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.55, pp.45, 2011

ブルーチーズは, 代表的なカビ付け成熟型チーズのひとつで, その生産には<I>Penicillium roqueforti</I>が用いられている.生産過程でのこの菌の添加は, 特有の臭いとテクスチャーを生むことになる.ブルーチーズとして有名なのは, ロックフォールト(フランス), フルム・ダンベール(フランス), ゴルゴンゾーラ(イタリア), スティルトン(イギリス)などで, 今日では, これらの他にもデンマーク, ドイツ, スイスなどのヨーロッパ諸国において, また, 日本においても<I>P. roqueforti</I>を用いたカビ付け成熟型チーズが生産されている.これら多様な原産地と製法の相違は, いくつかの遺伝的に変異した<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズ生産に用いられていることを予想させる.本研究では, 市場で入手した34種のブルーチーズの各々から<I>P. roqueforti </I>を分離し, beta-tubulinのイントロンを含む部分塩基配列(447塩基対)を基にその遺伝的変異を近隣結合法により解析した.分離された34株は, 2つのクレードに分割され, 一方のクレードは, 4種のロックフォールから分離された4株を含29株から成り, もう一方のクレードはフルム・ダンベールから分離された1株を含む5株から成っていた.ロックフォールとフルム・ダンベールの2つは, 最も古くから生産されているブルーチーズで, その歴史はローマ時代にまで遡るといわれている.これら古くから生産されている2つのチーズの生産で異なる系統の菌株が使用されていることは興味深い.ただし, これら2つの系統間で異なる塩基配列数は2塩基のみで, 近縁の<I>P. roqueforti</I>がブルーチーズの生産に用いられているものと考えられる.ブルーチーズの風味やテクスチャーの相違は使用する原乳や共存する微生物の相違によってもたらされると思われる.
著者
一戸 正勝 斉藤 朋子 岡野 清志
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.109-114, 2001-07-31
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

イラン産の輸入ピスタチオナッツについてアフラトキシン生産性を有する<i>Aspergillus flavus</i>の汚染状況について調査研究を行った.輸入港において,検査対象となった生ピスタチオナッツおよび生産地が特定された生ピスタチオナッツについてアフラトキシン生産菌の分布状況を調査したところ,行政検査でアフラトキシン陽性となった試料では<i>A. flavus</i>のアフラトキシン生産菌の比率が高く,陰性試料では<i>A. flavus</i>の検出量が多い場合でも生産菌の比率が低かった.種実の内果皮と仁に分けて菌分離を行ったが,個々の検査粒により異なっており,一定の傾向はみられなかった.イラン国内のピスタチオ生産地域により,アフラトキシン生産菌の分布が異なっていた.
著者
成田 紀子 鈴木 明子 菊池 裕 一戸 正勝 池渕 秀治 田中 東一 沢田 純一
出版者
Japanese Society of Mycotoxicology
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.1992, no.36, pp.39-44, 1992-12-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2

Seeds of Job's tears (Coix lachryrna jobi var. ma-yuen) are commonly used as herbal drug and health food in Japan, but mycotoxin contamination such as aflatoxin and zearalenone (ZEN) on Job's tears products is often problematic. Thus, a mycological examination on 35 samples of raw seed materials and commercial products of Job's tears was carried out. Aspergillus flavus, Curvularia spp., Bipolaris coicis, Fusarium pallidoroseum (=F. semitecturn), F. equiseti and F. moniliforme were detected as predominant fungi in the samples. Of the Fusarium species isolated, F. pallidoroseurn was most dominant. ZEN producing ability of these Fusariunn isolates on seeds of Job's tears in cultures was measured by HPLC analysis. The isolates of F. pallidoroseum, F. equiseti and F. moniliforme produced ZEN, with maximum yields of 55, 244 ng/g, 137 ng/g and 54 ng/g, respectively. Among tested 12 samples of the commercial Job's tears products, ZEN contamination was found in 3 hulled seeds (21; 25; and 44 ng/g), 2 crucked products (6; 29 ng/g) and 3 powdery products (23; 46 and 116 ng/g).
著者
岡野 清志 富田 常義 久米田 裕子 松丸 恵子 一戸 正勝
出版者
マイコトキシン研究会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.107-114, 2008-07-31
被引用文献数
1 4

わが国に輸入される生落花生のうち,主要輸入国の試料について,年間,約2,300-3,000 検体について2002 年から2006 年までのアフラトキシン(AF)検査の結果をとりまとめた.5年間の調査期間において,中国,南アフリカ,米国およびパラグアイ産の落花生についてAFB<sub>1</sub>,B<sub>2</sub> が検出されるものとAFB<sub>1</sub>,B<sub>2</sub>,G<sub>1</sub>,G<sub>2</sub> が検出されるものと比較するとともに,わが国のAFB<sub>1</sub> 単独10 μg/kg 規制した場合と,国際的に採用されているB 群,G 群AF を総量15 μg/kg で規制した場合を想定して検査試料数に対する規制値を超える試料の比率を集計した.結果として,試料数の多かった中国産落花生ではAFB<sub>1</sub> 単独規制では0.4-0.8 %が規制値を超え,AFBG 総量規制では0.4-1.1 %が規制値を超えていて,ほとんど同様であった.南アフリカ産落花生でも同様で,AFB<sub>1</sub> 単独規制では0.3-1.0 %,AFBG 総量規制で0.3-1.2 %が規制値を超えていた.輸入落花生由来菌につき,AF汚染の原因となる<i>Aspergillus</i> section <i>Flavi</i> に所属する菌について形態的,AF およびシクロピアゾン酸の産生性,heteroduplex panel analysis(HPA)による識別を検討したところ,中国産AFBG 検出試料の汚染原因は<i>A. parasiticus</i> であったのに対し,南アフリカ産AFBG 検出試料から分離した菌株には<i>A. prasiticus</i> のほかに小型の菌核を多数形成し,AFBG 群を産生する非典型的な<i>A. flavus</i> が存在した.この菌種はsection <i>Flavi</i> に関するHPA においてAfF4 に属する菌株であった.