- 著者
-
三澤 毅
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1996
近年、原子炉の大型化や高燃焼度化に伴い原子炉の安定性に関する議論が盛んになってきている。本研究ではこの原子炉の安定性、すなわち原子炉に加えられた外乱に対する原子炉の振る舞いに関する研究を行うために、新たな高次摂動理論(Modified Explicit Higher Order Perturbation Method、MHP法)を導出した。このMHP法は、原子炉内での中性子の拡散方程式を固有値方程式として解き、その結果得られる高次モード固有関数を用いて摂動が加わった後の中性子束を関数展開する手法により、摂動後の中性子束分布および反応度の変化を求めるという理論である。MHP法の特徴は、これまで困難とされてきた中性子エネルギーを多群化した場合での高次摂動理論の解析を可能にすることであり、これにより初めて高次摂動理論を実際の原子炉の解析へ適用できるようになったといえる。引き続きこのMHP法を検証するために、エネルギー多群での多次元拡散方程式に基づく高次モード固有関数解析コード(NEUMAC-3)、およびMHP法解析コード(TWOPERT)を開発し、最も簡単な2次元の1領域体系に摂動が加わった際の中性子束分布および反応度の変化を、MHP法により求める計算を行い、厳密計算との比較を行なった。その結果、MHP法を用いることにより、摂動に対する中性子束分布及び摂動反応度の変化をこれまでの1/100程度の非常に短時間で、しかも精度良く求めることができることが分かった。さらにMHP法を実機の大型発電用原子炉(PWR)に適用し、制御棒挿入の摂動に対する中性子束分布等の変化の解析を行った結果、予め高次モード固有関数を求めておくことにより、MHP法用いて実機のPWRでの様々な摂動に対する振る舞いを短時間で精度良く求めることができることが分かり、MHP法を実機の原子炉の安定性解析に用いることができる見通しがついた。