著者
三瀬 和代 白馬 伸洋
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.549-555, 2022-12-28 (Released:2023-01-18)
参考文献数
15

要旨: 成人・高齢難聴者の傾向と課題, 文章追唱法を用いた補聴器聴覚リハビリテーションの実際とその効果について概要を述べた。難聴による日常生活や社会生活における支障度を基準に,成人期では軽度難聴や一側性難聴への対応,老年期では適切かつ有用な補聴器活用への対応が必要である。高齢難聴者では, 周波数分解能や時間分解能などの聴覚機能の低下に加え, 認知処理速度や注意, ワーキングメモリの低下によって, 言語聴取がさらに困難になることも補聴器装用の障壁となりやすい。高齢難聴者が補聴器を活用して言語聴取能やコミュニケーションを改善するためには, 個人の残存する聴覚機能を向上させ, 聴覚情報を最大限に活用可能とする体系的な聴覚リハビリテーションが必要と考える。高齢難聴者の補聴支援として, 聴覚リハビリテーションの重要性が広く認知されることに期待したい。
著者
三瀬 和代 白馬 伸洋 暁 清文 田原 康玄 伊賀瀬 道也 小原 克彦 三木 哲郎
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.671-677, 2011 (Released:2012-02-09)
参考文献数
11
被引用文献数
2 1

当院の老年内科が「抗加齢ドック」を実施しているのに呼応し, 当科でも2009年12月に「聴力ドック」を立ち上げ, 抗加齢ドックと連携して予防医学的観点から加齢性難聴の研究を始めた。聴力ドック開始から7か月間に, 抗加齢ドック受診者216名のうち96名 (44.4%) が聴力ドックを受診した。聴力ドックの受診は60歳代から増加する傾向にあり, その受診理由は「難聴の自覚」が最も多かった。抗加齢ドックで実施している脈波伝搬速度 (PWV) や頸動脈内膜中膜複合体肥厚度 (IMT) の結果と周波数ごとの聴力レベルとの関係を重回帰分析したところ, PWVでは8kHzの聴力レベルと, IMTは4kHzと8kHzの聴力レベルと有意な関連が認められた。この結果は, 高齢者の高音域聴力低下に動脈硬化が関与していることを示唆する。
著者
三瀬 和代 白馬 伸洋 田原 康玄 暁 清文
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.269-275, 2013-08-30
参考文献数
12
被引用文献数
1

要旨: 当科では, 老年内科による抗加齢ドックと連携した聴力ドックを実施している。2009年12月から2012年5月までの間に聴力ドックを受診した212名のうち, 耳疾患の既往がなく気骨導差が小さく, かつ鼓膜所見に異常のない205名の良聴耳205耳を検討対象とし, 加齢変化における聴力の性差および, 聴力の性差に関与する因子について検討した。聴力の性差について有意差検定を行ったところ, 4000Hz, 8000Hzの聴力は男性が女性に比べ有意に低下していた。難聴のリスク因子である糖代謝 (HbA1c) も加え, 各周波数の聴力レベルと頸動脈内膜中膜複合体肥厚度 (IMT) およびHbA1cとの関係について, 交絡要因である年齢も含めて性別で重回帰分析を行った。その結果, 男女ともHbA1cはいずれの周波数の聴力レベルとも有意な関連を認めなかったが, IMTは男性で4000Hz, 8000Hzの聴力レベルと有意な関連を認めた。加えて, IMTも男性が女性に比べ有意に高値を示した。IMTは動脈硬化の指標とされているので, 男性の高音域聴力悪化の要因の一つとして動脈硬化の関与が示唆された。
著者
田口 亜紀 兵頭 政光 三瀬 和代 城本 修
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.372-378, 2006-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
12
被引用文献数
17 13

近年, 音声障害の自覚的評価方法として, アメリカで提唱されたVoice Handicap Index (VHI) が注目されている.われわれは, VHIの日本語版を作成して音声障害患者に対して使用し, その有用性について検討を行った.対象とした音声障害症例は163例で男性79例, 女性84例であった.VHIスコアの平均は男性34.5, 女性41.6で女性のほうが高い傾向を示した.男性では40歳代以下のスコアが50歳代, 60歳代のスコアより低い傾向を示したが, 女性では年齢による差があまりなかった.疾患別では機能性発声障害, 反回神経麻痺, 声帯萎縮・声帯溝症の症例でスコアが高い傾向を示した.大部分の疾患では, 機能的側面および身体的側面のスコアが感情的側面のスコアより高かった.音声障害の治療後には, 多くの例でスコアが減少し, VHIは患者自身の音声障害に対する自覚度の把握, 適切な治療法の選択, および治療効果の評価を行ううえで有用と考えられた.
著者
飴矢 美里 西窪 加緒里 三瀬 和代 本吉 和美 兵頭 政光
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6Supplement4, pp.S249-S255, 2006-11-20 (Released:2013-05-10)
参考文献数
11

本研究では嚥下機能の加齢に伴う生理的変化について、健常高齢者47名 (男性10名、女性37名;年齢60-87歳、平均68.9歳) を対象として検討した。自己記入式問診票では、「飲んだり食べたりする際にむせることがある」が30%、「飲み込もうとする前にむせる」が23%、「以前と比べて食べたり飲んだりしにくい」が13%などであり、高齢者では潜在的な嚥下障害の存在が示唆された。嚥下内視鏡検査では喉頭蓋谷・梨状陥凹の唾液貯留、声門閉鎖反射・嚥下反射の惹起、3nteの着色水嚥下後の咽頭クリアランスを0-3の4段階にスコア化して評価した。その結果、スコア2および3の嚥下機能低下を示した例がそれぞれ19%、13%、25%に認められた。嚥下造影検査では、舌骨および喉頭挙上距離には加齢による変化がなかったものの、咽頭通過時間および喉頭挙上遅延時間が延長した。これらの変化は70歳以上の高齢者において、より顕著であった。以上より、高齢者では咽頭期を主体とする嚥下機能が低下することが示された。
著者
田口 亜紀 三瀬 和代
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.163-166, 2013-07-20

当科では1999年より音声治療を本格的に開始し,現在は医師1名,言語聴覚士3名で週に1回行っている.診断,治療方法の選択,終了のタイミングも医師とSTが同席し,相談のうえ決定している.初診時には,ST立ち会いの下,声帯や発声時の状態を詳細に観察した後,音声機能検査,Voice Handicap Index等の検査を追加する.症例の病態,患者の音声に対する不満や要求を確認したうえで,その症例にあった音声治療法を医師とSTが話し合って決定する.今回のパネルディスカッションでは音声治療の適応や,疾患について紹介した.さらに当科での音声治療の終了基準について話し,音声治療の長期化を避ける必要があることを述べた.最後に,音声治療終了にあたり,医師・STの役割について述べた.