著者
久場 博司
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.211-217, 2016

<p>要旨: 我々が音の来る方向を聞き分ける (音源定位) 際には, 左右の耳に達する音のマイクロ秒レベルの時間差 (両耳間時差) が, 脳の聴覚神経回路で検出される。 この聴覚神経回路には, 音の周波数に応じた分子・細胞レベルでの様々な分化がみられる。 例えば, 聴神経からの時間情報を中継する蝸牛神経核では, シナプスの伝達様式とイオンチャネルの発現量が異なることにより, 周波数帯域間での神経活動の時間揺らぎの違いが補正され, 正確な時間情報の伝達が可能になる。 一方, 左右の蝸牛神経核からの時間情報を比較することで, 時間差情報の検出を行なう神経核では, イオンチャネルの発現量と局在が異なることにより, 周波数帯域に応じた入力頻度の違いに関わらず正確な時間情報の比較を行うことができる。 このように, 脳の聴覚神経回路の形態と機能は, 音の周波数に応じて異なり, このことにより正確な両耳間時差の検出が実現されている。</p>
著者
栗原 房江 廣田 栄子
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.669-678, 2012 (Released:2013-03-07)
参考文献数
17

2001年に, 保健医療従事関連法における国家資格取得要件が絶対的な欠格条項から, 相対的記載に改正された。そこで, 本研究は聴覚障害をもつ保健医療従事者 (医師, 歯科医師, 薬剤師, 保健師, 助産師, 看護師, 准看護師, 診療放射線技師, 臨床検査技師, 言語聴覚士) 56名の就労に関する実態を調査し, 改正当初と比較して8年の変容と就労環境整備に向けた課題を検討した。その結果, 保健医療専門職および就労先は増加していた。また, 医療施設に就労する者のうち80dBHL以上の例は57.9%であり, 聴力要因による就労状況の差は認められなかった。また, 聴覚障害に起因する転職経験者の割合に改善傾向はみられない, 就労環境における合理的配慮の限界等, その実態は厳しく, 情報保障環境の未整備も指摘された。そのため, 欧米の就労例を参照して本調査結果を考察し, 具体的な就労支援方法に関する検討が望まれた。
著者
土井 礼子 北野 庸子 中川 雅文
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
Audiology Japan (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.55, no.6, pp.679-691, 2012-12-28
参考文献数
17

聴覚障害児と家族に対する支援として, 情報通信技術 (Information and Communication Technology: 以下ICT) を活用し, 遠隔支援プログラムサイトを構築した。聴覚障害児の親と言語聴覚士 (以下ST) を対象に遠隔支援プログラムサイトの評価を行った。各対象者にはサイトに接続してもらい, プログラムのわかりやすさ, 資料や映像のダウンロードなどの機能の使いやすさ, 映像内容, 指導内容, 遠隔支援の有効性について回答してもらった。肯定的な回答と否定的な回答に分けて二項検定を行ったところ, 聴覚障害児の親は48/53の, 言語聴覚士は47/53の質問項目において肯定的な評価が過半数以上であることが有意に示された。今後, 利用者のICTへの精通度, 対面の個別言語指導との併用などの検討が必要と思われたが, 遠隔地や海外滞在者を対象に支援を行う際に, 有効に活用できる可能性が示唆された。
著者
西山 彰子 村上 匡孝
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.213-221, 2003-06-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

ステロイド治療で不変, もしくはステロイド減量に伴って聴力閾値上昇を認めた急性感音難聴112例にイソソルビド投与を行い, 改善が認められた54例について以下の結果を認めた。 1) 26例が急性低音障害型感音難聴であった。 2) 28例は低音3周波数の合計が70dB以上でかつ高音域の閾値上昇も認めた。 3) イソソルビド開始後, 平均3日で自覚症状改善を認めた。 4) イソソルビド減量に伴う聴力変動を40%に認めた。 5) 減量時の聴力変動はイソソルビド増量のみで改善する場合とステロイド併用が有効である場合があった。
著者
城間 将江 菊地 義信 河野 淳 鈴木 衞 加我 君孝
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.755-764, 1998

人工内耳装用者における音楽的要素の知覚度を調べる目的で, (1) リズム弁別, (2) 音程の弁別, (3) 楽器音の音色識別, (4) 旋律の知覚, (5) アカペラ歌唱の知覚テストを作成し施行した。 対象は成人中途失聴者16名で, 14名がNucleus 22, 2名がClarion人工内耳システムの使用者であった。 各テストの平均正答率は, リズムが90%, 音程は51.8%, 音色は25.8%であった。 旋律は11.8%と低い正答率であったが, 同旋律のアカペラ歌唱では71.4%に改善した。 なお, 語音聴取率と旋律の知覚率との相関は低く, 人工内耳機器間による差も無かった。 本研究から, 現在の人工内耳システムは強度の時間情報伝達は良好でリズムや語音の知覚には適しているが, 微細なスペクトルエンベロープの弁別が必要な楽音の知覚には不十分であることが示唆された。
著者
中山 博之 荒尾 はるみ
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.704-713, 1994
被引用文献数
1

三歳児健診用ささやき声聴取検査 (愛知県方式) を考案し, 3-21歳の104名を対象に純音聴力検査との比較を行った。 本検査の特徴は, 主に1kHzと4kHzに, それぞれ音響的特徴を有する検査用語を用いていることである。 その結果, 低音障害型や高音急墜型などの特殊な聴力型の難聴の検出が容易となり, 1・2・4kHzの3周波数平均聴力が20dBを越える難聴の検出が, ほぼ可能となった (95%)。 したがって本検査は, 「軽・中等度難聴児の検出」 という愛知県三歳児聴覚検診の第一の目的を十分に果たせるものと思われる。 ただし, 正しいささやき声を出せず小声 (有声音) になる母親が2割程度おり, この比率を減少させていくことが今後の課題であろう。 しかし, 小声であっても内緒話程度の強さであれぼ, 0.5・1・2・4kHzの4周波数平均聴力が40dB台の三歳児健診対象児は少なくとも50%以上検出されるものと推察され, 母親が家庭で行うささやき声聴取検査の意義は大きいと考える。
著者
南場 淳司 阿部 尚央 井上 卓 武田 育子 新川 秀一
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.70-77, 2011 (Released:2011-04-16)
参考文献数
12

労災認定において詐聴, とくに誇大難聴が存在することは広く知られているところである。今回我々は2006年1月から2009年12月までの4年間に当科を受診し騒音性難聴の労災認定を希望した14症例を対象として, 従来施行してきた検査に加えて聴性定常反応検査 (ASSR) を行った。詐聴の診断はASSR閾値と純音聴力閾値を比較し, 純音聴力閾値がASSR閾値よりも高い場合を詐聴とした。結果は14症例中7例 (50%) を詐聴と診断し, その7例いずれも難聴の存在自体は明らかであり誇大難聴と考えられた。詐聴と診断した7例中6例は, 従来行ってきた検査からも詐聴と診断可能であり, ASSR検査結果と一致した。これまで騒音性難聴の意見書作成の際に, 詐聴の判断に苦慮するケースを少なからず経験してきたが, ASSR検査を行うことによりこれまでよりも正確に詐聴の診断ができる可能性が考えられた。
著者
山岨 達也 越智 篤
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.52-62, 2014-02-28 (Released:2014-11-06)
参考文献数
46

要旨: 加齢に伴う聴覚障害では, 末梢聴覚, 中枢聴覚, 認知の三つの機能が複合的に障害されている。老人性難聴では聴力は高音域から閾値上昇し, 難聴の進行は年と共に加速し, 個人差が大きいことが知られる。語音明瞭度は聴覚レベルに応じて悪化するが, 高齢になるほど聴力レベルよりも悪化する傾向にある。耳音響放射や聴性脳幹反応は主に聴力レベルに応じて障害されるが, 年齢自体の影響も見られる。Gap detection などで評価できる時間分解能も加齢により悪化する。難聴のために日常生活上の会話に不自由を感じる場合には補聴器装用が治療の第一選択となる。補聴効果が無くなった場合は人工内耳が高齢者においても有用であるが, 装用開始年齢が高齢であるほど術後の聴取成績が悪い傾向にある。加齢に伴う聴覚障害に対しては不要な強大音曝露の回避や動脈硬化の予防や治療などが有用と考えられる。また聴覚に基づく認知訓練が時間分解能の改善に役立つ可能性も示唆されている。
著者
佐々木 亮 欠畑 誠治 武田 育子 木村 恵 新川 秀一 松原 篤
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.198-205, 2015-06-30 (Released:2015-09-03)
参考文献数
23

要旨 : 突発性難聴に対する副腎皮質ステロイド (以下, ステロイド) の鼓室内投与による治療の報告は約10~15年間で数多くみられるようになってきた。しかし, 治療や聴力改善の基準が統一されていないことや症例数が少ないことなどから, その効果は明らかなものではない。我々は突発性難聴に対する治療として短期間連日デキサメサゾン鼓室内注入療法 (IT-DEX) を第一選択として行っている。CO2 レーザーによる鼓膜開窓をステロイドの注入ルートとして用い, 原則として単独治療を行っている。本治療を行った96例における治癒率は39.6%であった。また, 厚生省研究班による突発性難聴に対する単剤投与の有効性の検証に症例の基準を合致させて IT-DEX 単独初期治療の効果を検討したところ, 対象症例27例中治癒は20例, 治癒率は74.1%となり, 厚生省研究班の単剤投与の成績と比較しても良好であった。症例数が少ないことが問題と思われ, 多施設での検討などが必要ではないかと考えられた。