著者
冨永 紘平 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

西南日本内帯の秋吉帯に分布するパンサラッサ海起源の海山型石灰岩には,石炭紀最後期–ペルム紀再前期に北方型要素を伴う造礁生物群集が記録されている.Nakazawa et al. (2011) は,それをもとにパンサラッサ海の熱帯–亜寒帯地域でのゴンドワナ氷床の発達に伴った寒冷化の影響を議論した.しかしながら,この群集が当時のパンサラッサ海の中でどれくらいの地理的な広がりを持っていたのかは明らかにされてこなかった.本研究では,ジュラ紀付加体コンプレックス中に分布する叶山石灰岩において堆積相および生相を記載し,それをもとにパンサラッサ遠洋域における北方型群集の空間的な広がりを考察する.叶山石灰岩は関東山地の秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックスの蛇木ユニットに属しており(Kamikawa et al., 1997),蛇木ユニットの泥岩からは前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている(久田・岸田, 1987).叶山石灰岩からは後期石炭紀Moscovianから中期ペルム紀Wordianのフズリナ化石が産出しているが(例えば高岡, 1977),本研究で扱った叶山鉱山内のセクションからはDaixina sokensisや “Pseudofusulina” kumoasoanaなど概ね石炭紀末のGzhelianを示すフズリナ化石が得られている.また,叶山石灰岩南縁付近の泥岩中には玄武岩のブロックが含まれており,海洋島玄武岩と類似した全岩化学組成を示す.叶山石灰岩は明灰色,塊状の石灰岩で,algal bafflestone(MF1),microbial bindstone(MF2),crinoidal packstone-rudstone(MF3),fusuline packstone(MF4),wackestone-mudstone(MF5),bioclastic grainstone(MF6),oolitic grainstone(MF7)の7種類の微岩相が識別された.生物による結合組織が観察されるMF1,MF2は,石灰藻AnthracoporellaやPalaeoaplysinaが生息時の姿勢を保った状態で保存されており,石灰質微生物であるArchaeolothoporellaやTubiphytesによって結合されている.生物骨格の間を埋める堆積物は,石灰泥のほか生砕物,ペロイドを含み,セメントが発達する空間も存在する.MF3–5は石灰泥を豊富に含む堆積物であり,ウミユリ骨片やフズリナを中心とした生砕物を含む.一方で,MF6とMF7は石灰泥を欠き淘汰の良い砂サイズの粒子の間にはセメントが発達する.叶山石灰岩には外洋に面した礁斜面が崩壊・再堆積したことを示す巨大な角礫状のイントラクラストや混濁流による級化構造が存在しないことから,いずれの岩相も背礁環境の堆積物に相当すると考えられる.MF1–5は礁湖堆積物に相当し,MF1とMF2は礁湖にパッチ状に存在する石灰藻や微生物によるマウンドであると考えられる.一方で, MF6とMF7は,波浪の影響を受ける砂堆堆積物である.叶山石灰岩のMF1,MF2の産状から,AnthracoporellaおよびPalaeoaplysina等の石灰藻がバッフラー,ArchaeolithoplrellaやTubiphytesといった石灰質微生物がバインダーの役割を果たしていたであろう.これらの群集は秋吉石灰岩のPalaeoaplysina-microencruster群集(Nakazawa et al., 2011)と類似している.石炭紀末から前期ジュラ紀にかけてのイザナギプレートの移動速度(Müller et al., 2016; Matthews et al., 2016)に基づくと,叶山石灰岩はパンサラッサ海を5,000 km以上移動してきたことになる.秋吉帯ペルム紀付加コンプレックスの泥岩の年代は中期–後期ペルム紀のWordianからWchapingian(260–270 Ma)であるとされており(Kanmera et al., 1990),秋吉石灰岩は石炭紀末から沈み込みまでの期間はわずか40万年程度であると推定できる.よって,石炭紀末には叶山石灰岩よりも沈み込み帯により近い場所に存在していたと推定される.本研究により,秋吉帯の海山起源石灰岩だけでなく,秋吉石灰岩と離れた位置に存在した叶山石灰岩からも Palaeoaplysinaから成る造礁生物が見られた.このことから,Palaeoaplysina-microencruster群集は石炭紀最後期からペルム紀再前期にかけてパンサラッサ海に広く分布した群集であったと考えることができる.
著者
藤川 将之 中澤 努 上野 勝美
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.125, no.8, pp.609-631, 2019-08-15 (Released:2019-12-27)
参考文献数
99
被引用文献数
2 1

山口県中西部に位置する美祢市には,日本最大級のカルスト台地として知られる秋吉台が分布する.秋吉台は前期石炭紀~中期ペルム紀にパンサラッサ海大洋域の海洋島頂部で形成された生物礁起源の秋吉石灰岩からなり,そこには約8000万年間の気候・海水準変動が記録されている.本巡検では,海洋島の基盤となった玄武岩,後期石炭紀の現地性礁石灰岩,前-中期ペルム紀のフズリナ化石層序に基づく地層の逆転構造,前期ペルム紀オンコイド石灰岩,前期ペルム紀干潟相堆積物を観察し,現地討論を行う.また,秋吉石灰岩の代表的な堆積相を理解するため,秋吉台科学博物館所蔵の大型研磨石板標本の観察を行う.あわせて秋吉台上および秋芳洞を自然地理学的な視点から観察し,カルスト化作用とその特徴について理解する.
著者
上野 勝美 Tamara I. NEMYROVSKA
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.117, no.5, pp.919-932, 2008-10-25 (Released:2010-04-27)
参考文献数
22
被引用文献数
7 8

To better understand and update knowledge of the stratigraphy and foraminiferal and conodont faunal successions of Bashkirian-Moscovian (Pennsylvanian/Upper Carboniferous) boundary intervals in the Donets Basin of Ukraine, we studied the C21 to C26 suites (Limestones F to L) of the following eight stratigraphic sections located in the eastern part of the basin. These are the Karaguz, Volnukhino, Kriven'ky Yar, Rudnya, Zolotaya, and Malonikolaevka sections in Lugansk county and the Soroch'ya and Kholodnaya sections in Donetsk county. Among them, the Malonikolaevka section, which is located about 35km southwest of Lugansk and is documented for the first time in this study, provides important data on the faunal successions of the Bashkirian-Moscovian boundary interval, ranging from Limestones I2 to K3. Both the conodont and fusuline faunas record the appearances in the basal part of the C25 (K) Suite of several new taxa that are more characteristic of the early Moscovian. These forms include Declinognathodus donetzianus at the top of K1 in conodonts and Eofusulina triangula, E. trianguliformis, and a large Neostaffella species (N. vozhgalica) at K2 in fusulines. Thus, the K1-K2 interval is very promising as the potential position of the formal Bashkirian-Moscovian boundary in the Donets Basin. The data from the Malonikolaevka section, together with those from other sections in the present study, would be significant for future investigations of the Task Group to establish a GSSP close to the existing Bashkirian-Moscovian Boundary organized in IUGS Subcommission on Carboniferous Stratigraphy (SCCS).
著者
上野 勝美 黒田 潤一郎 宇野 康司 鎌田 祥仁 久田 健一郎 原 英俊 荒井 章司 チャロエンティティラット タスィニ チャルシリ パンヤ カンパヴォン ケオ ヴィライカム カムセン チャンタヴォンサ ホントン 宮東 照
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

東南アジア主要部(タイ,ラオス)において,後期古生代-前期中生代のパレオテチス海洋プレートの沈み込みに伴う島弧-縁海系の発達・崩壊過程を,野外調査および層序学,地質年代学,岩石学,古地磁気学,等の手法を用いて検討した.パレオテチス海洋底の沈み込みで形成された火山弧と背弧海盆閉鎖域は,タイ南東部-北部(クレン,ランパン,チェンライ,ナン地域)からラオス北部(ウドムサイ,ルアンナムタ地域)へと連続することが初めて示された.その結果,当該時期の東南アジア主要部には,現在の日本列島と同様の,巨大海洋のプレート沈み込みとそれにより形成された島弧火山帯,その背後に発達した背弧盆という古地理が復元できた.
著者
杉山 哲男 長井 孝一 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成11年度,12年度で合計2回,延べ約50日間,雲南省西部で野外調査を実施し,多くの地質学的新知見を得るとともに,多数の化石,岩石試料を採集した。これまでに明らかになったことを要約すると,1)Baoshan地塊の上部古生界は,温暖な下部石炭系,氷河起源の異常礫(ダイアミタタイト)を含む寒冷な砕屑岩相と浅海-陸上噴出の玄武岩からなる下部ペルム系,温暖だが単純な動物相からなる中部ペルム系から構成されている。2)Baoshan地塊のゴンドワナからの分離は,Woniusi玄武岩の噴出時期に相当し,前期ペルム紀であることを化石によって確認した。3)Baoshan地塊の下部石炭系化石群は,中国南部や西欧の動物群と共通要素を持ち,下部ペルム系には小型単体サンゴなどからなる寒冷な環境に適応しうる動物群が産出する。また,中部ペルム系には温暖なTethys海要素と共通な化石群を含むが,東南アジアのSibumas地塊や東アジアのCimmerian陸塊と共通の化石も多く含まれている。4)これらを総合すると,石炭紀前期には温暖な陸棚浅海に位置していた同地塊は,石炭紀後期にゴンドワナ大陸とともに寒冷化,旋回南下し,ペルム紀前期に寒冷域でリフティングによってゴンドワナから分離北上を開始し,ペルム紀中期には中緯度付近まで北上していたというシナリオが,化石,堆積相からも強く示唆されることが明らかになった。5)西側に隣接するTengchong地塊の上部古生界についても,Baoshan地塊と共通要素を持っていることが明確になった。6)東隣のChangning-Menglian縫合帯には,海山型の炭酸塩buildupsが多数分布しており,今後詳細な検討が不可欠であることが明らかになった。