著者
中澤 操
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会会報 (ISSN:24365793)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.975-985, 2022-06-20 (Released:2022-07-02)
参考文献数
84

約440万年前, ヒトの祖先は樹上と地上の両方で生活していたとみられ, このころに出現した大菱形中手関節 (鞍状関節) は母指対立を可能とし, 手で道具を使う生活が発展していった. 大脳に言語中枢のブローカ野が出現したのは約250万年前といわれる. 音声言語が使われるようになるためには喉頭下降や舌の運動性向上などの解剖学的・神経学的条件が整うことが必要で, それは約40万~約20万年前になって初めて出現した. 今世紀の脳 fMRI 研究から, 音声言語と手話言語の脳内表出中枢はほぼ同部位であることが証明されている. これらの事柄をつなぎ合わせると, われわれの祖先は先に音声言語以外の何かを言語として使っていたはずで, それは手話であったと推測される. その後喉頭下降が起きて徐々に音声言語に置き換わっていったのであろう. 20世紀末, 小児難聴に関しては診断機器や補聴器・人工内耳が大きく進歩し, 難聴児の音声言語獲得において多くの恩恵が与えられてきた. 一方, 21世紀に入り WHO の ICF (国際生活機能分類) や国連の障害者権利条約に見られるように, 音声言語も手話言語も同等に扱うこと, 難聴児や養育者に選択肢を与えられること, 療育・教育の専門家を育成することなどが社会に求められるようになった. 本稿では, 難聴児やその家庭が日本手話を第一言語 (コミュニケーション言語) として選択する場合に, どうやって日本手話から日本語の読み書きにつなげたらよいのか, 言語聴覚士や教師の人材育成をも視野に入れつつ歴史的背景を振り返りながら考察する.
著者
日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会 守本 倫子 益田 慎 麻生 伸 樫尾 明憲 神田 幸彦 中澤 操 森田 訓子 中川 尚志 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.121, no.9, pp.1173-1180, 2018-09-20 (Released:2018-09-29)
参考文献数
29
被引用文献数
6

背景: ムンプスワクチンは副反応である無菌性髄膜炎が注目を集め, 任意接種となっているため, 接種率は40%近くまで低下し, 周期的に流行が繰り返されている. ムンプス難聴は難治性であり, ワクチンで予防することが唯一の対策であるが, そのことは広く知られていない. そこで, 本調査では近年のムンプス難聴患者の実態を明らかにすることを目的とした. 方法: 2015~2016年の2年間に発症したムンプス難聴症例について全国の耳鼻咽喉科を標榜する5,565施設に対してアンケート調査を行い, 3,906施設より回答を得た (回答率70%). 結果: 少なくとも359人が罹患し, そのうち詳細が明らかな335人について検討した. 発症年齢は特に就学前および学童期と30歳代の子育て世代にピークが認められた. 一側難聴は320人 (95.5%), 両側難聴は15人 (4.5%) であり, そのうち一側難聴では290人 (91%) が高度以上の難聴であり, 両側難聴の12人 (80%) は良聴耳でも高度以上の難聴が残存していた. 初診時と最終聴力の経過を追えた203人中, 55人 (27%) は経過中に聴力の悪化を認め, うち52人 (95%) は重度難聴となっていた. 反対に改善が認められたのは11人 (5.0%) のみであった. 結論: ムンプス流行による難聴発症は調査された以上に多いものと推測され, 治療効果もほぼないことから, 予防接種率を高めるために定期接種化が望まれる.
著者
日本耳鼻咽喉科学会福祉医療・乳幼児委員会 守本 倫子 益田 慎 麻生 伸 樫尾 明憲 神田 幸彦 中澤 操 増田 佐和子 森田 訓子 中川 尚志 西﨑 和則
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.122, no.9, pp.1221-1228, 2019-09-20 (Released:2019-10-02)
参考文献数
11

乳幼児の自覚的聴力検査から得られる情報は重要であり, 可能な限り信頼性の高いデータを短時間に得る必要がある. これらの検査技術の困難度, 信頼度が年齢 (3歳未満, 3~6歳, 6歳以上の3群に分類) や発達レベル (定型発達, 発達障害, 知的発達障害の3群に分類) から受ける影響を, 聴力検査にかかった時間および検者が声かけなどに対する反応などから感じた聴力検査結果との整合性を「検査信頼度」として評価, 検討を行った. 研究参加施設は大学病院, 総合病院, クリニックなど15施設である. 検査の信頼度は, 3歳未満では知的発達障害児で41%, 定型発達児58%, 発達障害児50%と知的発達障害児が有意に低かった. 3~6歳では定型発達児88%, 発達障害児75%, 知的発達障害児73%であり, 6歳以上では発達障害児と定型発達児はどちらも90%以上であったが, 知的発達障害児のみ77%であった. 検査にかかる時間も3歳未満では, 発達による差異は認められなかったが, 3~6歳未満および6歳以上においては, 発達障害児と定型発達児に比べて知的発達障害児の検査時間は有意に長かった. 6歳未満の児への聴力検査には技術と時間がかかること, 発達障害・知的発達障害があるとさらに検者の検査にかける時間や高度な技術が必要となることが明らかになった.
著者
水野 知美 中澤 操 佐藤 輝幸 高橋 辰 山田 武千代
出版者
一般社団法人 日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.52-58, 2019-02-28 (Released:2019-03-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

要旨: 秋田県で新生児聴覚スクリーニング (Newborn hearing screening: 以下 NHS と略) が開始されてから17年が経過し, 2012年からは受検率が94%を超えている。 NHS システムを構築する中で, NHS 後も聴こえに関心を持ち続けるための啓発や, 関係機関との連携ができ, NHS 後に難聴児が発見された場合の対応も確立されたと考えられる。 今回の調査で, 聴力型により NHS では発見できない難聴児がいること。 遅発性や進行性の難聴児がかなりの数存在することが示唆され, NHS パス後も引き続き聴覚に気を配り, 関係機関との連携を強化していく必要性が示唆された。 今回画像診断が不完全な症例が含まれたことや, 今後遺伝子診断をする例の増加が予測されること, 先天性サイトメガロウィルス感染症のフォローアップ例が増えている事などから, 今後は遅発性及び進行性難聴の原因について明確にしていく必要性があると考えた。