著者
手塚 和彰 村山 真維 岩間 昭道 中窪 裕也 木村 琢麿 金原 恭子 野村 芳正 柿原 和夫
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

経済の国際化(グローバル化)は、日本を含む先進国の経済構造と雇用構造を根本的に変えることとなった。第一は、使用者と労働者の関係が、両者のほかに、派遣業者や職業紹介業者などが介在し、二面構造から、三面構造へと変化した。この構造をどのように法的に整備するのかに関しては、労働法的規制の少ない英米と、規制を、労使関係(労使の交渉、協約)により強めて来たドイツ、フランスなど大陸諸国も欧州のグローバル化により規制緩和を進めている。我が国も、いわゆるバブル経済の崩壊後、製造業をはじめとして、リストラを進め、正社員の減、従来の年功序列による賃金体系を業績評価による体系に変更した。他方、パートタイマーや派遣労働者はますます比重を高めてきている。第二に、このような雇用構造変化は、日本の先端技術・技能における我が国の国際競争力を低下させている。従前の研究開発システムは、従業員発明制度の不備もあって、新規開発に遅れ、付加価値をつけることのできない企業を低迷、倒産の危機に追い込んでいるが、この点でも本研究は学界に先鞭をつけた問題提起を行なうこととなった。第三に、本研究は、人口、雇用の将来予測を独自に行い、このような少子高齢化の中での、労働市場、雇用の将来でのあり方を探った。とりわけ、高齢者の雇用と年金のあり方を探り、今後の我が国の雇用のあり方とそれを支える法制につき具体的な展望を行なった。さらに、WTO体制の元に進捗する経済のグローバル化と、人口減少にともない、外国人労働者の導入が現実的な課題となってきている。実際に、現在200万人の外国人が日本で就労しているが、その社会的な受け入れの体制や、法制度上の問題は極めて多い。この点に関しても本研究は先端的な分析と方向付けをすることができた。
著者
中窪 裕也 野田 進 中内 哲 柳澤 武 矢野 昌浩 丸谷 浩介 吾郷 眞一 井原 辰雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、わが国の雇用保険制度の現状と課題を考えるための素材として、失業保険制度の国際比較を行ったものである。対象国として、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、中国の5か国を取り上げている。本研究において行った活動は、次の4点である。第1に、基礎的な作業として、わが国の雇用保険制度の内容を精査したことである。この間、雇用保険法の2007年改正も行われたが、それを含むいくつかの事項について、論考を発表した。第2は、本研究の本体にあたる、5か国の失業保険制度の研究である。各国について、書籍やインターネットで入手できる資料をもとに基本調査を行ったうえで、担当者が現地を訪問し、ヒアリング調査と資料収集を行った。その内容は、研究成果報告書の中に収められている。各国ごとに制度の様相はさまざまであるが、欧州諸国における早期再就職の促進に向けての失業認定や給付の再編、アメリカにおける州法の多彩な内容、中国における制度創設と定着の努力などが分析されている。第3は、関連事項として、日本および各国の最低賃金制度についても検討を行ったことである。両制度は、労働者にとって就労時の所得保障と失業時の所得保障という形で連続するものであるが、各国における最低賃金制度の概要を、上記の研究成果報告書の中に織り込んだ。第4は、以上を踏まえたうえで、わが国の雇用保険制度(および最低賃金制度)について、体系的な現状分析と将来の方向性の検討を行ったことである。これに関しては、日本労働法学会の114回大会のシンポジウムで報告する機会が与えられ、「労働法におけるセーフティネットの再構築-最低賃金と雇用保険を中心として」というタイトルの下に、6名が報告を行った。このときの報告内容とシンポジウムでの討論の模様は、日本労働法学会誌111号(2008年)に収められており、本研究の一部をなす。
著者
吾郷 眞一 柳原 正治 野田 進 中窪 裕也
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

国際労働法の分野においてある程度市民権を持ちつつある「企業の社会的責任」(CSR)が実定法として機能する余地はあるのかどうか、という問題意識を出発点とし、国際公法と国内労働法の二つの観点から実態を分析し、帰納的手法を用いてCSRの法的位置づけを行った。国際公法の視点からソフトローの一つとして、あるいはまた実定法を補完するものとして一定の役割を果たすと同時に危険性もはらむものであることがわかった。
著者
和田 肇 唐津 博 矢野 昌浩 本久 洋一 根本 到 萬井 隆令 西谷 敏 脇田 滋 野田 進 藤内 和公 名古 道功 古川 陽二 中窪 裕也 米津 孝司 有田 謙司 川口 美貴 奥田 香子 中内 哲 緒方 桂子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、1980年代以降、とりわけ1990年代以降を中心に労働市場や雇用、立法政策あるいは労働法の変化の足跡をフォローし、今後のあり方について新たな編成原理を探求することを目的として企画された。この4年間で、研究代表者、研究分担者および連携研究者による単著を4冊刊行している(和田肇『人権保障と労働法』2008年、唐津博『労働契約と就業規則の法理論』2010年、藤内和公『ドイツの従業員代表制と法』2010年、西谷敏・根本到編『労働契約と法』2011年)。その他、100本を超える雑誌論文を発表し、研究グループによる学会報告が5回、国際シンポが5回(日独が2回、日韓が3回)行われている。とりわけ最終年度には、それまでの成果のまとめを中心に研究を遂行した。(a)労働者派遣法の体系的な研究を行い、2112年秋の書物の出版に向けて研究を積み重ねた。個別テーマは、労働者派遣法の制定・改正過程の分析、労働者派遣に関する判例・裁判例の分析、労働者派遣の基本問題の検討、比較法分析である。現段階で作業は約8割が終了した。(b)不当労働行為法上の使用者概念に関する最高裁判例が相次いで出されたこともあり、その検討を行った。これは、企業の組織変動・変更に伴う労働法の課題というテーマの一環をなしている。(c)労使関係の変化と労働法の課題というテーマに関わって、現在国会で議論されている国家公務員労働関係システムの変化に関する研究を行った。その成果は、労働法律旬報や法律時報において公表されている。特に後者は、この問題を網羅的・総合的に検討した数少ない研究の1つである。以上を通じての理論的な成果としては、(1)労働法の規制緩和政策が労働市場や雇用にもたらした影響について検討し、新たなセーフティネットの構築の方向性を示し、(2)非典型雇用政策について、労働者派遣を中心としてではあるが、平等・社会的包摂という視点からの対策を検討し、(3) 2007年制定の労働契約法の解釈問題と理論課題を明らかにし、(4)雇用平等法の新たな展開の道筋を付けた。当初予定していた研究について、相当程度の成果を出すことができた。