著者
鴨野 幸雄 名古 道功 井上 英夫 五十嵐 正博 定形 衛 岡田 正則 西村 茂
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、在日韓国・朝鮮人の人権保障を視野に入れながら、日韓関係に絞り、「従軍慰安婦」を中心にした戦後補償問題をさまざまな角度から考察し、その解決へ向けた展望を論じたものである。研究成果は以下の通りである。1.1965年の日韓協定締結時と現代とは日韓関係を取り巻く状況は大きく異なり、日韓両国民が成熟した市民社会に向けて確かな歴史認識を持つようになり、戦後補償問題の解決は、政府間の問題だけではなく、国民的和解と交流と協力のための問題でもある点が明確化した。2.歴史研究及び聞き取り調査によって、「従軍慰安婦」の実情と具体的施策、今日まで深刻な問題とされている根本的な理由、そして緊急になされるべき課題としての生活保障の重要性が明らかとなった。3.日韓協定締結のプロセスを、特に政治的経済的要因に基づき批判的に検討して、少なくとも個人補償が未解決である点が確認された。4.法律上の問題点につき、裁判所は、関釜判決を除き、時効を理由としたり、また原告が援用する関連国際法の適用も否定して、請求を退けているが、こうした諸判決を、緻密な憲法、行政法及び国際法等の観点から両検討し、国家の責任を根拠づけ得る法律的可能性とともに、ドイツと比較しつつ、「戦後補償法」制定など立法的解決の必要性が指摘された。5.政府レベルでの解決が遅々として進まない中で、相互理解に向けて多様なレベルでの交流を深めていく重要性に鑑み、それぞれの市民意識がアンケートなどに基づき分析され、その課題が提起された。在日韓国・朝鮮人問題の解決も、日韓の市民意識を変化させるために重要な課題であり、それは、同化政策ではなく、民族のアイデンティティを重視した解決策が重要である。6.1998年金大中大統領訪日に際しての日韓共同宣言で日韓関係が新たな段階に入ったとの認識を踏まえて、韓国及び日本の双方から、戦後補償問題の解決及び相互理解に向けた課題と展望が明らかにされた。
著者
木下 秀雄 嶋田 佳広 上田 真理 武田 公子 名古 道功 吉永 純 根本 到 瀧澤 仁唱 布川 日佐史 嵯峨 嘉子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

SGB2の実施状況に関する多面的調査を計画通り実施し、2011年には給付受給者自身に対する直接インタビューを行った。2010年ドイツ連邦憲法裁判所基準額違憲判決について、移送決定を行った担当裁判官であるヘッセン州社会裁判所判事のボルヒャート氏との意見交換を行った。2010年9月23日に、ドイツ・ダルムシュタット大学で日独比較研究シンポジウムを持ち、成果を、W. Hanesch, H. Fukawa, Das letzte Netz sozialer Sicherung in der Bewahrung, 2011, Nomos, 319として公刊した。
著者
名古 道功
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1 本研究においては、計画年休の実態調査と比較法研究を行った。(1)実態調査では、10の企業及び労働組合から聞き取り調査をした。そこで明らかとなったのは次の諸点である。(1)計画年休は大きく全社一斉型、事業場一斉型そして個人別付与型に区別される。(2)連休は、大型化しているところは少ない。(3)個人別付与型においては、i年休取得時季の指定ないしは奨励をしている場合がある。ii取得日の決定方法は労働者が計画表に記入し、それを職制が調整する。労働者の希望取得日が重なった場合の優先基準を定めているところがあるがわずかである。(4)計画年休に関する労働協約ないしは労使協定の法的拘束力は一斉型で背定されるが、個人別付与型ではそれが否定されている。(6)計画年休の変更は原則として禁止されている。 (2)次に、比較法研究は文献により行った。特にドイツでは、(1)法律において連休の単位(最低2週間)、優先基準、変更事由などが明記されている。(2)取得日の決定にあたっては、事業場における労働者の代表組織である経営協議会が関与している。(3)病休制度などが充実しており、年休を本来的目的にそって利用できる環境にあるなどが明らかになった。2 以上の研究から解明された点のなかで特に重要なのは、以下の事項である。(1)計画年休に対して正当な評価が与えられるべきである。(2)一斉型よりは、個人別付与型のほうが労働者個人の年休権の充実という観点からしてすぐれている。(3)労基法上の計画年休に関する規定は不十分であり、少なくとも、連続取得、優先基準を明記するとともに、労働者の過半数代表についての法整備を進め、労働者の意向を十分に反映させる手続を完備しなければならない。(4)病休制度などを創設していく必要がある。
著者
和田 肇 唐津 博 矢野 昌浩 本久 洋一 根本 到 萬井 隆令 西谷 敏 脇田 滋 野田 進 藤内 和公 名古 道功 古川 陽二 中窪 裕也 米津 孝司 有田 謙司 川口 美貴 奥田 香子 中内 哲 緒方 桂子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、1980年代以降、とりわけ1990年代以降を中心に労働市場や雇用、立法政策あるいは労働法の変化の足跡をフォローし、今後のあり方について新たな編成原理を探求することを目的として企画された。この4年間で、研究代表者、研究分担者および連携研究者による単著を4冊刊行している(和田肇『人権保障と労働法』2008年、唐津博『労働契約と就業規則の法理論』2010年、藤内和公『ドイツの従業員代表制と法』2010年、西谷敏・根本到編『労働契約と法』2011年)。その他、100本を超える雑誌論文を発表し、研究グループによる学会報告が5回、国際シンポが5回(日独が2回、日韓が3回)行われている。とりわけ最終年度には、それまでの成果のまとめを中心に研究を遂行した。(a)労働者派遣法の体系的な研究を行い、2112年秋の書物の出版に向けて研究を積み重ねた。個別テーマは、労働者派遣法の制定・改正過程の分析、労働者派遣に関する判例・裁判例の分析、労働者派遣の基本問題の検討、比較法分析である。現段階で作業は約8割が終了した。(b)不当労働行為法上の使用者概念に関する最高裁判例が相次いで出されたこともあり、その検討を行った。これは、企業の組織変動・変更に伴う労働法の課題というテーマの一環をなしている。(c)労使関係の変化と労働法の課題というテーマに関わって、現在国会で議論されている国家公務員労働関係システムの変化に関する研究を行った。その成果は、労働法律旬報や法律時報において公表されている。特に後者は、この問題を網羅的・総合的に検討した数少ない研究の1つである。以上を通じての理論的な成果としては、(1)労働法の規制緩和政策が労働市場や雇用にもたらした影響について検討し、新たなセーフティネットの構築の方向性を示し、(2)非典型雇用政策について、労働者派遣を中心としてではあるが、平等・社会的包摂という視点からの対策を検討し、(3) 2007年制定の労働契約法の解釈問題と理論課題を明らかにし、(4)雇用平等法の新たな展開の道筋を付けた。当初予定していた研究について、相当程度の成果を出すことができた。