著者
内田 佳那 丹治 敬之
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.13-25, 2023-05-31 (Released:2023-11-30)
参考文献数
20

本研究は、漢字の読み書きに困難のある小学6年生の発達性読み書き障害児1名を対象に、 遠隔形式による漢字の読みと意味、漢字形態の想起を促す書字指導プログラムの効果を検討することを目的とした。また、学習の定着を目指した家庭学習を実施し、学習効果の長期維持を検討した。その結果、漢字書字の正答数の向上と、おおむね介入から2か月後までの学習効果の維持が認められた。社会的妥当性では、学習方法の適合度、母親の負担度、参加児の学習意欲の変化に対し、肯定的な評価が得られた。本研究の成果から、漢字の読字と書字の困難、語彙の低成績を示す子どもには、漢字の書字指導に加え、漢字の読みと意味の指導の有効性が指摘できた。さらに、学習の定着には、不十分な学習内容の反映、子どもが意欲的に学習に取り組める方法での家庭学習機会の設定が効果的であると考えられた。
著者
丹治 敬之 野呂 文行 有路 佳子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.239-250, 2015-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究は、ひらがな拗音の読みに困難を示す2事例を対象に、拗音読みの習得状況に応じて指導法を選択し、その指導効果を検討した。参加児は、拗音表記を清音表記として誤読する事例、読み音が類似する拗音間で誤読する事例の2名であった。前者の事例には、拗音表記の読み方略を促す指導法を実施し、後者の事例には、各拗音の正確な読みを促す指導法を実施した。その結果、両事例ともに拗音文字の読み、拗音を含む文字単語の読みの成績が改善された。本研究より、拗音を清音表記として誤読する事例では、清音表記と拗音表記の弁別を求める指導が有効であり、読み音が類似した拗音間で誤読する事例では、拗音部分が語頭にある単語の語頭音を抽出させて読む指導が有効である可能性が示唆された。今後は、各指導法が他事例でも有効かどうかに関する外的妥当性の検討、および指導効果がもたらされるための諸条件の検討が求められる。
著者
丹治 敬之 横田 朋子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.526-541, 2017 (Released:2018-02-21)
参考文献数
25
被引用文献数
4 8

作文を書くことに困難を示す発達障害の子どもは少なからず存在する。近年,作文の自己調整方略学習(SRSD)モデルを用いた教授法が注目されている。本研究は,特別支援学級に在籍する小学3,4年生の自閉症スペクトラム障害(ASD)児童6名を対象に,SRSDモデルを用いた小集団介入の効果を検証した。1群事前事後テストデザインを用いて,物語作文の要素数,物語作文内容の質的評価の変化を介入前後で比較した。その結果,物語作文の要素数では5名,物語作文内容の質的評価では4名において,高い介入効果量が確認された。介入効果の背景には,作文のプランニング方略やセルフモニタリング方略の学習があり,方略使用の有効性の認知も影響することが示唆された。また,従来のSRSDモデルにはない接続詞の学習,対象児の好みを反映させた教材,方略模倣のためのビデオ教材,シールによる自己評価,仲間同士の学び合いも,介入効果を支えていたと考えられた。一方で,わずかな介入効果に留まった児童もおり,個に応じた教材や学習環境の工夫は更なる改善が必要であった。本研究の結果から,対象児の作文方略知識の学習状況や,障害特性に合わせた作文のSRSDモデルの展開について考察した。
著者
岩本 佳世 丹治 敬之 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.1-13, 2016-03-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
25

本研究は、自閉スペクトラム症幼児に対する刺激等価性の枠組みを用いた感情語の指導において、他者感情理解の刺激モダリティ間での般化を確認した後に、自己感情表出への派生効果を検討することを目的とした。プレポストデザインを用いた。大学内のプレイルームで実施された。他者感情理解の指導は、「喜び」「怒り」「悲しみ」「恐れ」の感情に対応する状況画を提示し、「どんな気持ち?」という質問をして感情語(音声)による回答を求めた。他者感情理解は、表情画、感情語(音声)、状況画、状況画の寸劇で測定した。自己感情表出は、セッション内で測定し、ゲームで勝ったあるいは負けた後などに、「どんな気持ち?」という質問をした。その結果、他者感情理解の刺激モダリティ間での般化および自己感情表出への派生効果が示された。自己感情表出の必要条件としての環境条件の設定が、本指導手続きに組み込まれていたことで、刺激般化が生じたと考えられた。
著者
丹治 敬之 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.147-161, 2014

本研究は、発達障害学生の支援事例が報告された論文を、支援内容別に支援方法と支援体制を分析することを通して、発達障害学生支援の現状と今後の課題を明らかにすることを目的とした。31本の対象論文を分析した結果、授業、試験、対人関係スキル、生活スキル、就職など支援内容は多岐に渡り、特に対人関係スキル、生活スキル、授業の支援が多く報告されていた。対人関係スキル支援では、個別面談による支援方法がとられることが多く、授業支援では、個別面談に加えて担当教職員との連携支援、生活スキル支援では、個別面談と家庭との連携支援が多く報告されていた。このように、各支援内容においてどのような支援方法がとられ、どのような支援体制で対応されてきたのかが明らかとなった。一方で、キャリア支援の検討、心理教育的アセスメントツールの活用、支援の評価方法とチーム体制の整備の検討、合理的配慮の決定過程の検討等、今後取り組むべき課題も示唆された。
著者
丹治 敬之
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.100-114, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
74

本研究は,学習障害等の読み書き困難のある子どもの学習保障や学びの創造をめざして,ICT利用の可能性と今後の研究を展望する。そのために,近年の日本と海外における事例研究及び実証研究から,学習障害のある児童生徒に対するICT活用の効果を整理した。主に,「読み」「書き」「意欲」「自立」「心理的ウェルビーイング」に対するエビデンスに焦点を当てた。これら5つの領域の効果に関する文献検討を行ったうえで,テクノロジー(例えば,音声読み上げ機能,文書作成アプリ,スマートペン,アイデア描画アプリ,音声認識,e-learningシステム)の導入とその使用方略指導が,学習障害の子どもの学習保障と新たな学びの創造に貢献できることが考察された。最後に,GIGAスクールの実現に向けたこれからの日本の学校教育を背景にしながら,(1)ICT活用のアセスメントとフィッティング方法の確立,(2)ICT活用のエビデンス構築,(3)ICT活用を支える学校環境づくり,といった3つの重要な研究課題を提案した。
著者
内田 佳那 丹治 敬之
出版者
一般社団法人 日本LD学会
雑誌
LD研究 (ISSN:13465716)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.73-84, 2021 (Released:2021-10-08)
参考文献数
21

本研究は,ICTの音声読み上げ機能の活用が,学習障害児の文章読解成績と自律的な家庭学習にもたらす効果を検証した。参加児は,特別支援学級に在籍し,自律的に家庭学習を行うことが難しい小学3年生の学習障害児であった。反転(ABAB)デザインを用いて,紙教材による条件(ベースライン期)と,教材作成アプリケーション「OMELET」を用いた音声読み上げ支援条件(ICT介入期)の間で,参加児の読解成績と保護者に代読を依頼する頻度を比較した。その結果,ICT介入期において,参加児の読解成績の向上と,保護者に代読を依頼する頻度の減少が認められた。さらに,参加児の行動観察からは,ICT機器の使用を喜ぶ姿や,音声読み上げ機能の利点を発言する姿がみられた。本研究の結果から,音声読み上げ機能の活用が学習障害児の読解成績の向上と自律的な家庭学習を促す効果が示された。
著者
丹治 敬之 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.87-97, 2010-03-25

本研究では、既に平仮名の読みが可能であった自閉性障害児2名に対して、片仮名単語の構成反応見本合わせ課題を用いた指導を行い、直接指導していない平仮名-片仮名文字間において等価関係が成立するかどうかを検討した。研究1では、1名の自閉性障害児において、絵を見本刺激とする片仮名単語構成課題を実施した。その結果、直接指導していない片仮名文字や片仮名単語の読み獲得および、平仮名文字-片仮名文字間における等価関係の成立が示された。研究2では、1名の自閉性障害児に対して、音声を見本刺激とする片仮名単語構成課題を実施した。プレテストおよびポストテストを導入したことで、構成反応見本合わせの指導の結果によって、平仮名-片仮名文字間の等価関係が成立したことを明らかにすることができた。これらの結果から、先行研究で示されてきた平仮名や漢字の指導だけではなく、片仮名の指導においても刺激等価性を用いた指導の適用可能性が示された。