- 著者
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丹羽 哲也
- 雑誌
- 人文研究 (ISSN:04913329)
- 巻号頁・発行日
- no.61, pp.81-111, 2010-03
本稿は、逆体助詞「の」の用法記述のための1つの観点を提案するものである。「XのY」の間に成り立つ関係を、要素XまたはYが抽象的な形で内在している場合、そのX・Yを「関係項」、内在していないX・Yを「自立項」と呼ぶ。それによって、「XのY」は、(ア)Xが関係項で、Yが自立項であるもの(修飾部関係項型)、(イ)Yが関係項で、Xが自立項または関係項であるもの(主名詞関係項型)、(ウ)X・Yともに自立項であるもの(関係不明示型)という3種類に大別できる。関係項と自立項は連続的な関係にあり、これら3種も相互に連統的である。関係不明示型は、「XのY」の関係が運用論的な推論によって補完されるが、「XがYを所有する」「XにYが存在する」「XがYに存在する」等々いくつかの関係が慣用化しており、それらは、X・Yの一方がもう一方に何らかの点で内在・付随する関係でなければならないという制約がある。文脈の支えによって臨時的な関係が成り立つ場合も、その制約の延長上にある。ある「XのY」の例が(ア)(イ)(ウ)のどれかを満たすものであっても、「な」「という」「による」など他の形式と競合して、「の」が用いられないという場合も少なくない。