- 著者
-
久保 智康
- 出版者
- 京都国立博物館
- 雑誌
- 萌芽的研究
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究では、16世紀から19世紀に至る各時期の建築遺構に付属している飾金具の調査を行った。調査を行った主な箇所は次の通りである。仙台/東照宮本殿、日光/東照宮・輪王寺大猷院霊廟、富士吉田/浅間神社本殿、高山/東照宮、滋賀/都久夫須麻神社・勧学院・長浜山車、伊賀上野/天神祭楼車、京都/高台寺霊屋・二条城二の丸御殿・西本願寺・北野天満宮本殿・曼殊院書院・桂離宮御殿及び御茶屋群・修学院離宮中御茶屋客殿・角屋、出雲/日御碕神社。また関連調査として、各地の中・近世遺跡出土飾金具、博物館収蔵の工芸品付属金具なども対象に加えた。調査にあたっては、やむを得ない場合を除いて金具全点を観察対象とし、技法上から見て建物の建立当初の型式を抽出した。そして各遺構の当初型式の技法と意匠性について、築造年代に沿って検討を行い、以下のような変遷を確認するに至った。16世紀後半:シンプルな形状で、単純な鍍金もしくは墨差しが基調。彫金は強いタッチで、細部にこだわらず、ダイナミックな意匠表現を行う。16世紀末〜17世紀初:意匠を凝らした大型釘隠の登場。鍍金と墨差しの組合わせが基調。金具の装飾性が急速に増してくる。17世紀前半:加飾密度の高まり。技巧の細密化と平準化。彫金のタッチは急速に弱くなる。鍍金・墨差しに加えて七宝により色彩表現が豊かになる。17世紀後半:金具形状に具体的な器物や文字など様々な意匠が表される。七宝の色種も増えて、効果的な装飾性が試みられる。ただし技巧的には後退の途を辿りだす。18世紀:揚屋の角屋など特徴的な建物では意匠の新規性は続くが、多くは形式化が進む。18世紀末〜19世紀前半:大味な技巧ながら、立体的な意匠表現が全盛を迎える。