- 著者
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井澤 龍
- 出版者
- 社会経済史学会
- 雑誌
- 社會經濟史學 (ISSN:00380113)
- 巻号頁・発行日
- vol.81, no.3, pp.359-377, 2015-11-25
イギリス政府は,第一次大戦中に顕在化した所得の国際的二重課税問題に対応するため,1920年財政法第27条にて救済制度を設けた。この救済制度は,イギリス帝国内で活動する法人・個人にのみ外国税額控除を供与し,その額も限度額を設けていた。本稿では,まず,この帝国内外で差別的で,帝国内でも限定的な救済措置を講じた税制の成立経緯を明らかにした。この税制が生まれた理由は,イギリス政府が帝国内の一体性を求める声に配慮するも,税源の欠損を出来る限り避けようとし,これに成功したためであった。それには,1919年に開催された所得税王立委員会で,帝国外救済を求める民間の声が強くなかったことも影響していた。民間側である経済団体代表は,1918年以前に二重所得課税問題が帝国内の問題であると主張していた過去に制約された。また,本稿では,二重所得課税がイギリスの対外投資に与えた影響についても明らかにした。1920年財政法第27条は,両大戦間期にイギリスが帝国内へと投資を偏らせた一因となったことが分かり,幅広い産業に影響を及ぼしていたことが分かった。