著者
仲野 由佳理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.5-24, 2010-11-30
被引用文献数
1

本論文は,逸脱行為の継時的変化を説明したBeckerの「逸脱キャリア」を援用し,未体験者が「援助交際」体験者として変容していくプロセスを「援助交際」体験者へのインタビュー調査によって明らかにすることを目的とする。分析の結果,初回の「援助交際」に対する肯定的な解釈が,行為の継続への動機づけとして作用することがわかった。継続の過程で,「援助交際」をめぐる3つの学習(「援助交際」の技法の学習,技法と成果との関連づけ,個別的な楽しみの発見)が行われ「援助交際」体験者としての適切なふるまいが獲得される。また,「援助交際」に対する個別の「楽しみ」を発見することで,動機をめぐる語りも発展した。学習に際しては,「援助交際」に関する漫画や雑誌,インターネット上の情報など,不特定多数にむけて発信される情報が行為の準拠枠として参照された。ここから,「援助交際」における逸脱キャリアは,"対面的な経験者集団との相互作用の機会"をもたずに常習化するが,インターネットなどを中心とする不特定多数にむけて発信される情報や,情報の発信者に含まれる「援助交際」体験者の存在自体が,(経験者集団に代わる)行為の準拠枠としての影響をもつことがわかった。
著者
仲野 由佳理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.87, pp.5-24, 2010-11-30 (Released:2014-07-03)
参考文献数
13
被引用文献数
5 1

本論文は,逸脱行為の継時的変化を説明した Becker の「逸脱キャリア」を援用し,未体験者が「援助交際」体験者として変容していくプロセスを「援助交際」体験者へのインタビュー調査によって明らかにすることを目的とする。 分析の結果,初回の「援助交際」に対する肯定的な解釈が,行為の継続への動機づけとして作用することがわかった。継続の過程で,「援助交際」をめぐる3つの学習(「援助交際」の技法の学習,技法と成果との関連づけ,個別的な楽しみの発見)が行われ,「援助交際」体験者としての適切なふるまいが獲得される。 また,「援助交際」に対する個別の「楽しみ」を発見することで,動機をめぐる語りも発展した。 学習に際しては,「援助交際」に関する漫画や雑誌,インターネット上の情報など,不特定多数にむけて発信される情報が行為の準拠枠として参照された。ここから,「援助交際」における逸脱キャリアは,“対面的な経験者集団との相互作用の機会”をもたずに常習化するが,インターネットなどを中心とする不特定多数にむけて発信される情報や,情報の発信者に含まれる「援助交際」体験者の存在自体が,(経験者集団に代わる)行為の準拠枠としての影響をもつことがわかった。
著者
伊藤 茂樹 田中 奈緒子 加藤 美帆 居郷 至伸 加藤 倫子 後藤 弘子 仲野 由佳理
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

少年院に送致された非行少年に対する社会復帰支援は、少年院での矯正教育(施設内処遇)と出院後の保護観察(社会内処遇)として行われているが、日本において両者は制度的に分離しているほか、統制された施設とノイズに満ちた社会の間の環境面での「落差」が様々な困難を生んでいる。しかし更生保護の現場においては、施設内処遇の成果を踏まえつつ、保護司と保護観察官、更生保護施設の職員らがこの落差を調整しながら、少年の社会への「ソフトランディング」を可能にするべく支援や調整を行っている現状が明らかになった。
著者
仲野 由佳理
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.99, pp.27-46, 2016-11-30 (Released:2018-03-26)
参考文献数
30

本稿の目的は,少年院の演劇活動の分析から「更生」という目的にむけた教育的行為としての物語化の技法を検討し、物語行為がもつ教育的意義を考察することだ。 矯正施設における言語化の実践として,A女子少年院で毎年上演される創作オペレッタに着目した。創作オペレッタは,非行に至る経験などから脚本を作成する。脚本は,矯正教育上の望ましさに規定された〈変容の物語〉であり,更生の足場として施設内/社会内での生活で機能することが期待される。この〈変容の物語〉が物語環境に応じて変化すると考えた場合,物語化の技法に関する学びは矯正教育上の重要な課題のひとつとなる。 参加少年と指導者へのインタビュー及び参加少年への自由記述式アンケートの結果,(1)自己理解のための言語資源の獲得,(2)物語化を契機としたコラボレイティヴな関係の構築,(3)社会への再統合にむけた「昇格儀式」的役割,という3つの技法がみてとれた。いずれも,矯正教育が目的とする「改善更生」「社会復帰」を目指して行なわれる物語化の技法である。 さらに,教育的行為としての物語化には(1)矯正教育が目指す“あるべき変容イメージ”を具体化するという意義,(2)〈変容の物語〉を基盤として,少年院という空間におけるナラティヴ実践に緩やかな共通性/共同性が与えられるという意義,(3)〈変容の物語〉がドミナント化し少年の価値や行動を規制するという意義を指摘した。
著者
仲野 由佳理
出版者
日本犯罪社会学会
雑誌
犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.138-156, 2008-10-20

本論文の目的は,P女子少年院における少年と教官の「語り」を分析の対象とし,(1)教官は少年の行為をいかなる文脈において解釈し,語りのリソースとして活用するのか,(2)少年と教官によって行われる語り直しは,ナラティヴという観点からみれば,どのようなアプローチがなされているといえるのか,(3)語りで使用されるリソースやプロットはどのような枠組みのなかで変化するのか,を明らかにすることである.成績予備調整会議及び処遇審査会,個別面接指導場面(事例1と2)の観察を通して,教官が少年の「行為の意味」を「更生」との連続において「(望ましい)変容」として意味づけ,このプロセスで得られた変容に関する教官の解釈は,少年と教官の相互行為のなかで,「語りなおし」のリソースとして活用され(目的1),問題の染み込んだストーリーからの「問題」の発見や外在化を通し,少年と教官の協同作業によって,語りなおしが行われていることが指摘された(目的2).また,リソースは過去の経験から現在の経験へ,プロットは個人化へむけたプロットから社会化へむけたプロットへと変化することが明らかにされた(目的3).