- 著者
-
広田 照幸
伊藤 茂樹
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.36, pp.28-41, 2011-10-31
この論文では,包摂的な社会を作っていくために,日本の少年院をどういうふうに見ていけばよいのかについて検討している.まず,現代社会における排除を「保守的な他者化」と「リベラルな他者化」として描いたジョック・ヤングの議論を参照しつつ,非行少年を悪魔化した存在ととらえる保守的な視点とは異なり,「リベラルな他者化」の視点をあえて採用することで,非行少年を教育・訓練によって「われわれの一員」になるべき存在と考える.その視点から,現実に少年院がどのようにして,非行少年の教育・訓練を成功させているのかを説明するとともに,保守的な議論に対して今後どのように反論していくべきかが本論文で考察される.ここでは,まずわれわれの研究グループが過去数年間やってきた少年院のフィールド調査とそれに基づく研究成果を紹介する.1970年代後半以降,教育・訓練を充実させてきた日本の少年院は,多くの点で独自の教育の仕組みを作り,成功させてきた.われわれは,インタビューと参与観察で,そのいくつかを明らかにした.次に,これまでの少年院教育がもってきていた問題点を克服する動きについて考察した.少年院を出た少年たちを対象にした新しいボランタリーな試み,少年院内での教育実践の改善,法律や制度のレベルでの改革の動きを簡単に整理した.最後に,今後必要なことについて次の3点を示した.第一に,少年院の外にある社会的状況-雇用や福祉の平等主義的な改革-,第二に,少年院の中での教育・訓練の改善,第三に,少年院の実態についてのもっと厳密な研究による客観的な情報の発信,の3つである.