著者
伊藤 敞敏 金 武祚 菅原 弘 戸羽 隆宏
出版者
東北大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1991

シアル酸は生化学試薬として、また医薬品製造のための出発原料として、近年需要が急増しているが、その製造のための原料は、ツバメの巣などのごく限られたものとなっており、安価で大量の製造が困難な状況にあった。卵処理工場において卵成分の濾過の際に得られるカラザや卵黄膜の中には、多くのシアル酸が含まれていることに気付いたので、これを原料として工業的規模でシアル酸を製造することを試みた。これらの成分中には、シアル酸として代表的なN-アセチルノイラミン酸が高濃度で含まれているので、これを取り出すことを実験室的規模で検討した。原料を硫酸酸性下で加熱してシアル酸を遊離させ、陰イオン交換樹脂に吸着させたのち、ギ酸で溶出させ、減圧乾固、活性炭処理を行なった結果、湿カラザ試料100gより約50mg,湿卵黄膜試料100gより約175mgのシアル酸を得ることができた。これらの検討をもとに、つぎに大規模工業的製造のための製造テストを行なった。原料としては、カラザおよび卵黄膜部の混合試料800Kgを使用して、実験室的検討で得られた工程に従って処理を行なうことにより精製N-アセチルノイラミン酸を約300g得ることができた。現在試薬として市販されているN-アセチルノイラミン酸の価格は、1g約3万円と非常に高価であるが、卵は世界的に広く分布した食品であり、しかも卵の加工工場で得られるカラザや卵黄膜部は、従来は利用されず廃棄されていた部分である。従って原料は非常に安価であり、シアル酸の含量はかなり高く、かつ分離のための処理工程も比較的簡単であることから、本法によって今後はシアル酸の大量かつ安価な製造が可能となり、シアル酸を用いての研究や医薬品製造が容易になるものと期待される。
著者
友松 篤信 伊藤 敞敏 ウィジャヤ ハニー ウスティオン ゼイン クメンドン ジョン 松山 晃
出版者
Japanese Society for Tropical Agriculture
雑誌
熱帯農業 (ISSN:00215260)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.175-181, 1996-12-01 (Released:2010-03-19)
参考文献数
10

インドネシアのヤシ花茎から伝統的手法により採取した樹液と, それから作られる黒糖の一般分析および糖・有機酸の定量分析を行った.砂糖ヤシ (Arenga pinnata Merr.) , パルミラヤシ (Borassus flabellifer L.) , ニッパヤシ (Nypa fruticans Wurmb.) およびココヤシ (Cocos nucifeya L.) からの樹液は10~13%の糖を含み, その大部分はショ糖であった.樹液をインキュベートするとショ糖は微生物の作用により加水分解され, 大量のブドウ糖および果糖と若干のオリゴ糖が生じた.パルミラヤシ, ニッパヤシ及びココヤシはコハク酸, 砂糖ヤシはリンゴ酸の含量が最も高かった.砂糖ヤシとニッパヤシの樹液をインキュベートすると乳酸が顕著に増加した.樹液の糖全体に占める還元糖の比率はインキュベートによって12.5%から90.1%に顕著に増加した.黒糖における還元糖比は36.1~43.0%であり, 通常法によりサトウキビ搾汁から製造された黒糖の還元糖比より著しく大きかった.
著者
伊藤 敞敏 庄司 悦子 足立 達
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, pp.681-686, 1987-08-25 (Released:2010-11-26)
参考文献数
14

物理的性質の検討) 充分に行なわれていない安定型無水α-, 無水αβ複合-および無水β-ラクトース結晶について, 融点および溶解度を中心とした検討を行なった. 安定型無水α-ラクトースの常法および示差熱分析 (昇温速度10℃/分) による融点 (分解) はそれぞれ207.7, 216.5℃, 溶解度は5, 15, 25, 35℃ において, それぞれ, 10.1±0.14, 11.5±0.02, 13.9±0.24, 18.5±0.16 (g/100g水) であった. 無水αβ複合ラクトース (α/β比, 4:1) の上記方法による融点はそれぞれ204.0, 205.0℃, 上記と同じ温度における溶解度はそれぞれ17.9±0.5, 15.2±0.47, 17.5±0.23, 20.7±0.45であった. また, 無水β-ラクトースの同じく融点はそれぞれ228.8, 243.0℃, 同じく溶解度はそれぞれ39.9±0.42, 42.6±0.47, 45.0±0.34, 48.3±0.12で, 文献からの計算値よりもかなり低い値を示した. 無水αβ複合ラクトースについては, そのα:β (4:1) 比と同比率の, 両者の結晶の混合物の融点, 赤外吸収スペクトルとの比較を行ない, その測定結果に一致の認められないことから, 無水αβ複合ラクトース結晶においては, その構成ラクトース分子間に相互作用の働いていることを推定した.
著者
伊藤 敞敏 菅原 弘 北澤 春樹
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

発酵乳用乳酸菌のもつ免疫賦活化能を調べる目的で実験を行った。まず、乳酸菌細胞壁の特徴を明らかにするため、L.bulgaricusとL.acidophilusの細胞壁成分を酵素的に可溶化させ、分画し、構成成分を調べることにより、両菌株の細胞壁の特徴を明らかにしました。次に、L.acidophilus グループ乳酸菌は、腸内で生育し、種々の生理的効果を示すことが知られているので、その生理的効果を追求する目的で、L.acidophilusとL.gasseriについて、マクロファージの腫瘍細胞障害活性に対する高揚効果およびインターフェロン誘起能について調べた。L.acidophilus9菌株の全菌体で刺激した場合、細胞障害活性は2菌株において高い値を示し、さらに4菌株に有意の活性がみられた。インターフェロン誘起能は、細胞障害活性の高かった2菌株を含む4菌株で高い値を示した。一方、L.gasseri13菌株のインターフェロン誘起能を調べたところ、5菌株が比較的高い値を示した。L.acidophilus9菌株については、有効成分を明らかにする目的で、菌体および細胞壁成分の免疫賦活化能を、マウス脾臓リンパ球に対する幼若化作用を指標として調べた。菌体全体を用いた場合は、有効性のみられたのは1菌株のみであったが、細胞壁成分では6菌株に有効性が認められた。そこで、特に活性の高かった1菌株の細胞壁成分をイオン交換クロマトグラフィーで分画し、各成分のリンパ球幼若化活性と組成の特性を調べた。有効成分はグルコース、N-アセチルグルコサミン、グリセロール、リンおよびムラミン酸を含んでおり、グルコースに対するN-アセチルグルコサミンの割合の高い画分の活性が高かった。これらの結果、L.acidophilusグループ乳酸菌の中には、腸内において免疫賦活やインターフェロン誘起などの生理活性を示すもののあることが示唆された。
著者
伊藤 敞敏
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

Lactobacillus acidophilusグループ乳酸菌は、ヒト腸管の中から見出される乳酸桿菌の中の主要なものであり、プロバイオティク系の乳酸菌として、発酵乳の製造に使用されることが多くなってきている。しかしこの菌は一般的に牛乳中での生育が緩慢であるため、発酵に長時間を要する。そこでその原因解明と対策法の構築を目的として研究を行った。ヒト腸管由来のアシドフィルスグループ菌株の中から、L.acidophilus6株およびL.gasseri4株を用いて牛乳中での生育性を比較した。乳中での生育性と菌体外プロテアーゼの発現を追跡したところ、菌体外に作り出すプロテアーゼの活性の高い菌が乳中での生育性の良いことことが認められた。牛乳中では低分子窒素化合物が不足しているため、L.acidophilusは自らのプロテアーゼによって乳タンパク質を分解することが必要であり、このようなプロテアーゼ活性の強い菌株が牛乳中での生育も良好であるものと考えられた。そこで低分子窒素化合物として、カゼインを食品添加物グレードのタンパク分解酵素である、プロテアーゼP,プロテアーゼNおよびデビトラーゼの3種のプロテアーゼで分解し、牛乳に添加した結果、いずれの分解物も有効であったが、特にプロテアーゼPによる分解物を牛乳に添加することによって、アシドフィルス菌の生育を大幅に向上させることが出来た。このことから、牛乳に少量の低分子窒素化合物を追加することによって、プロバイオティクとしてのアシドフィルスを含む発酵乳の製造時間を短縮することができることが示された。一方、ヨーグルト製造の主要菌であるStreptococcus thermophilusとL.acidophilusを混合して培養することによって、菌株によってはL.acidophilusの生育が促進されるもののあることを見出した。そこで山羊乳及び牛乳の両方についてL.acidophillus5菌株とS.thermophilus1菌株について各個に混合培養を行ったところ、特に生育の促進される組み合わせのあることを見出した。この両菌株は相互に補い合って生育を助長し合っていることが考えられ、このような組み合わせによって、発酵乳製造を容易にすることが可能となった。