- 著者
-
伊藤 瑠里子
- 出版者
- 愛媛大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2016
【研究目的】自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder : ASD)における性別違和の特徴を明らかにする検査指標を開発することを前提とし, ASD者の性別違和についてジェンダー・アイデンティティ尺度を用いてコントロール群と比較検討して特徴を明らかにすることを目的とした.【研究方法】愛媛大学医学部附属病院精神科を受診したASD患者をASD群, 一般公募にて参加した対象者をコントロール群としてジェンダー・アイデンティティ尺度と成人用自閉スペクトラム指数日本語版(Autism-Spectrum Quotient : AQ)を実施した. 対象年齢は社会との繋がりを認識し始め, 性別違和を自覚する15歳以上30歳未満とした. コントロール群は, AQの得点がカットオフ値以上の事例は除外した.【研究成果】ASD群6名(M:F=4:2, 平均21.5±3.77歳)と, コントロール群21名(M:F=7:14, 平均24.38±2.21歳)を対象として統計的分析を行った。① ジェンダー・アイデンティティ尺度内の低次4因子及び高次2因子についての2群間比較・低次4因子の一つである, 自己の性別が社会とつながりを持てている感覚である“社会現実的性同一性”はASD群が有意に低値で, 自己の性別が他者と一致しているという感覚である“他者一致的性同一性”では, 有意に低値であった(<.01). 自己の性別が一貫しているという感覚である“自己一貫的性同一性”においてもASD群が有意に低値である傾向がみられた(<.05).・自己の性別での展望性が認識できているという感覚である“展望的性同一性”, “社会現実的性同一性”の高次因子の一つである現実展望的性同一性の総得点平均はASD群が有意に高かった(>.05).②AQ総点とジェンダー・アイデンティティ尺度間の相関・ジェンダー・アイデンティティ尺度の高次2因子, 低次4因子に対してAQの総得点の相関を調べた. ASD群では, AQ総点と, 現実展望的性同一性, 展望的性同一性が負の相関がみられた(>.05). また, 一致一貫的性同一性, 自己一貫的性同一性において正の相関がみられた(>.05). コントロール群では相関はみられなかった.【考察】ASD者は, 自己のジェンダー・アイデンティティと他者の認識が一致していないと感じている. また, 自己のジェンダー・アイデンティティを生かした社会生活の展望が曖昧であり, ASD者の中でもより強い特性を持つ者は, その傾向が強まることが示唆された.