著者
佐藤 康邦 川本 隆史 越智 貢 大庭 健 池上 哲司 安彦 一恵 星野 勉 水谷 雅彦 中岡 成文 溝口 宏平
出版者
東洋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本プロジェクトは、医療や環境といった各問題領域ごとバラバラの輸入・紹介から始められた「応用倫理学」を現代日本の文脈に埋め込む作業を通じて、「倫理学におけるマクロ的視点とミクロ的視点の総合」をめざそうとするものであった。初年度開始と同時に総合研究の準備態勢を整え、交付決定後の7月に全体研究打ち合せ会議を開催した。本会議では代表者によって研究目的の詳細な説明がなされた上、二つの報告と活発な意見交換がなされた。12月の全体研究打ち合せ会では、生命倫理、環境倫理、情報倫理の三分野に関する個別報告がなされ、方法論については応用倫理学を「臨床哲学」へと深化・徹底させようとする動向とシステム理論の最前線の議論が紹介された。2月の研究合宿では、生命倫理の難問に即しながら応用倫理学の学問的姿勢を吟味する報告に続いて、研究代表者および分担者が編者を務めた論文集『システムと共同性』の合評会を行なった。最終年度は3会の会議を開催し、全部で11の個別報告と総括がなされた。その大半は別途提出する研究成果報告書や公刊物に掲載されるので、要点のみ列記する。(1)C.テイラー『自我の諸源泉』の検討(星野報告)。(2)公教育における多元文化主義の論争(若松報告)。(3)生命倫理と「公共政策」との連携(平石報告)。(4)〈内在的価値〉の解明(渡辺報告)。(5)環境倫理の再構成(安彦報告)。(6)C・マ-チャント『ラディカル・エコロジー』の吟味(須藤報告)。(7)環境や自然に対する現象学的接近(溝口報告)。(8)阪神大震災後のボランティア・ネットワークの調査(水谷報告)。(9)教育という文化的再生産の機制(壽報告)。(10)討議倫理学の生命倫理への応用(霜田報告)。(11)ビジネス・エシックスのサ-ヴェイ(田中報告)。以上の経過をもって、所期の研究目標はほぼ達成されたものと自己評価を下している。
著者
佐藤 康邦
出版者
日本シェリング協会
雑誌
シェリング年報 (ISSN:09194622)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.56, 2011 (Released:2022-12-15)

Es setzt nicht nur eine mechanistische Naturanschauung, sondern auch eine phänomenologische Naturauffassung voraus, dass man seine Umwelt als Landschaft sieht. Unter diesem Aspekt kann man die Geschichte des Landschaftsbildes betrachten. Man kann es daher als ein symbolkräftiges Ereignis in der abendländischen Ideengeschichte betrachten, dass Lorenzetti sein Landschaftsbild in Siena nur weniger Jahre später gemalt hat, nachdem Petrarca seine Bergbesteigung genossen hatte. Die Geschichte des Landschaftsbildes entsprach zuerst der Geschichte der Perspektive, dann der der naturwissenschaftlichen Weltanschauung.
著者
佐藤 康邦 谷 隆一郎 三嶋 輝夫 壽 卓三 山田 忠彰 勢力 尚雅 高橋 雅人 熊野 純彦 下城 一 船木 享 湯浅 弘
出版者
放送大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

哲学的概念としての「形態」に関する問題は古くて新しい。形態という概念は、内容に対して事物の表面に漂う外面的なものを指す一方で、「かたち」という和語からして、かたいもの・確固とした真理という含意もある。西洋思想では、プラトンのイデア、アリストテレスのエイドスなど、古代ギリシアに遡りうる概念である。近世以降、機械論や還元主義を特徴とする自然科学の立場から、形態概念は排斥されがちであったが、美的形態や有機体の形態を扱うカントの『判断力批判』は、近代思想における形態論の先行例といえる。その形態論的発想は、むしろ、現代では、最先端の科学において見出される。構造主義生物学、ゲシュタルト心理学、認知心理学、量子論、熱力学(シナジェティクス)、複雑システムなどの多領域において、形態論の復権の動きが認められ、自然科学と人文科学との積極的対話の可能性が開かれつつある。倫理学においても、この観点から新たに検討されねばならないだろう。本研究では、形態という概念を手がかりに、人文科学としての倫理学の独自の意義と使命とを問い直すことを意図した。倫理思想史上の諸学説を形態論の観点から再考しつつ、応用倫理学や規範学という狭い領域に限定せず、現代の科学論における形態論復権の動向に対応する新しい倫理学の可能性を探究した。(1)古代ギリシア思想(2)古代ユダヤ思想(3)中世キリスト教思想(4)カントの形態論(5)近代思想(ドイツ観念論・イギリス経験論)(6)現代思想(7)科学論(8)藝術・文藝(9)日本近代思想(和辻哲郎・西田幾多郎・三木清)。以上の分野を専門とする研究分担・協力者を(若手研究者の研究発展にも寄与すべく特に留意)組織し、毎年度数回の全体会議において、各々の個別研究をふまえた対話・討論を行った。以上の研究成果は、最終年度に論集(成果報告書)としてまとめられたほか、別項11にある各員の業績を通じて公表された。
著者
佐藤 康邦
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.45-53, 2010

『判断力批判』の第一部「美的(直観的)的判断力の批判」の「美の理想」について語られる場面で、カントは、美的判断に含まれる知的契機に関して、踏み込んだ考察を加えている。それが、「美の理想」を構成する二つの契機のうちの、「美的(直観的)基準理念」についての考察である。人間の形姿、またサイズには、種に固有な基準、典型というものがあるという考え方に従う概念である。カントの表現では、「美的(直観的)基準理念」というものは、「ある種族に属するすべての個々の個体の美的(直観的)判定の普遍的尺度として役立つような、その形態の構成における最大級の合目的性、すなわちあたかも自然の技巧の根底に意図的であるかのようにすえられている心像」であるとされている。身長、体重、鼻の高さ、口の大きさすべてに、それぞれ、理想の美人、美男子にふさわしいサイズというものがある。これは、私たちの心のうちで知っている観念、理念であり、それが個々の個体の美的判定の際に尺度を与えてくれるという。その際重要なことは、その理念は、構想力が与えてくれるとされていることである。『判断力批判』では、『純粋理性批判』とは異なって、悟性に対決する位置に置かれているのは、直観ではなく、構想力である。ということは構想力が直観に重ねられているということ、したがって、基準理念は感覚に近づけられているということである。さらに、この基準理念が生得的なものなのか、経験を通して獲得されるものなのかに関するカント記述は、これを「諸直観の間に揺よう曳えいする心像」としていることから明らかなように誠に微妙なものとなっている。しかし、この揺れ動きにこそ、この概念の今日的な意義があると思われる。そこに、ゲシタルト心理学や、認知心理学におけるアフォーダンス概念やトップダウン概念に関わるものの先駆形態が見出されるだけではなく、無意識に関する理論全体の捉え直しにつながるものが見出されるからである。