著者
梅原 修一 松井 三枝 倉知 正佳
出版者
日本認知心理学会
雑誌
日本認知心理学会発表論文集 日本認知心理学会第5回大会
巻号頁・発行日
pp.125, 2007 (Released:2007-10-01)

健常者における被注察感ならびに妄想傾向が視線感知に及ぼす影響を検討した。実験は様々な視線の角度の顔写真に対して「被験者自身のこと」を見ていると感じるか、あるいは、「被験者のいる方」を見ていると感じるかの評定を求め、見ていると反応した頻度ならびに反応時間を指標とした。その結果、「被験者自身のこと」についての評定を求めた場合、被注察感の強い者が弱い者に比して反応時間が遅い結果となった。そして、「被験者のいる方」の評定の場合、妄想傾向の高い者が低い者に比して反応頻度が低く、被注察感の強い者が弱い者に比して反応が速かった。また、反応頻度に性差が認められ男性に比して女性のほうが頻度が低く、視線について鋭敏に判断することが考えられた。
著者
上原 隆 住吉 太幹 倉知 正佳
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.154-160, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
34

統合失調症の病態は未だ明らかでなく,予防法および根治的治療法は開発されていない。神経発達障害と神経変性による脳の形態学的変化が,統合失調症の病態生理に関与する可能性が指摘され,症状が顕在化する以前(前駆期)にすでに生じているとされる。特に parvalbumin 陽性ガンマアミノ酪酸(GABA)介在神経細胞の障害が統合失調症の認知機能障害に関与していると考えられている。ゆえに,これらの形態学的変化に作用する薬物が,統合失調症の予防・根治療法につながると期待される。神経栄養因子様作用を有する低分子化合物である T-817MA は神経突起伸展の促進作用や酸化ストレス抑制作用を有し,アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療薬として開発された薬物である。われわれは統合失調症モデル動物における形態学的,行動学的異常を,T-817MA が改善することを見いだした。これらの所見は,T-817MA が統合失調症の予防的・根治的治療薬として有望なことを示唆する。
著者
鈴木 道雄 川崎 康弘 住吉 太幹 中村 主計 倉知 正佳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

拡散テンソル画像による検討の結果、統合失調症患者では、前頭葉と視床、側頭葉とを連絡する白質線維束の統合が障害されており、その一部が陰性症状の成立に関与することが示唆された。自己と他者の評価課題による機能的磁気共鳴画像(fMRI)により、前頭前野、大脳正中構造、後頭頂小葉などの機能変化が、統合失調症における自己意識の障害に関連することが示唆された。病初期の患者を対象とした構造的MRIにより、前部帯状回の構造変化が統合失調症の顕在発症に関与することが示唆された。
著者
倉知 正
出版者
群馬大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

成体マウス全脳にX線照射することで急性に血管透過性の亢進が誘導された。血管透過性の亢進とは反対に脳内の血管内皮細胞成長因子VEGFの量は低下した。また、大脳皮質において活性化ミクログリアが顕著に増加し、血管内皮細胞特異的に発現する密着結合タンパク質claudin-5の発現が低下した。遺伝子改変マウス(Flk1-GFP/Flt1-tdsRed BAC Tg)へのX線照射は、脳微小血管におけるGFP陽性の血管内皮細胞の割合を増加させた。二光子顕微鏡を用いたTgマウス大脳のライブ観察により、血管内皮細胞のFlt1およびFlk1の発現度合を反映した明瞭な脳血管像が得られた。
著者
住吉 太幹 松井 三枝 川崎 康弘 田仲 耕大 倉知 正佳
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

非定型抗精神病薬(AAPD)の統合失調症患者における認知機能各領域に対する効果の検討を行った。結果として、olanzapine(OLZ)あるいはperospirone単剤投与による治療を行った患者群では、注意機能やQOLを表す諸指標が改善した。5-HT_<1A>受容体への作用を示すziprasidone(AAPD)ならびにOLZの統合失調症患者における記憶の体制化に対する効果を検討した。方法として、語流暢性課題のひとつであるカテゴリー流暢性課題より得られる動物名から、多次元尺度法(Multidimensional Scaling, MDS)法により、長期意味記憶の体制化の度合いをcognitive mapへ変換することにより可視化し、各薬物による治療への切替えによる変化を検討した。結果として、各薬物による治療前には、MDS法による動物名の産出される順番に意味的なまとまりは認められなかった。一方、治療6週間後には、「野生性vs.家畜性」という意味的なまとまりが出現し、対象とした患者のQOLが有意に改善されることが見出された。OLZによる治療を受けた統合失調症患者における事象関連電位P300成分の変化を、Low Resolution Electromagnetic Tomography(LORETA)法を用いて解析した。その結果、健常者に認めるような側頭葉におけるP300発生源電流密度の左>右の側性が、OLZ投与前には認められなかったのが、治療後には明らかとなった。また、これらの患者において、言語学習記憶、QOLおよび精神病症状が治療後に改善した。以上の結果は、AAPDによる記憶機能の改善に、電気生理学的神経活動の脳画像的な変化が関与していることを初めて示すものである。