著者
八木 久義
出版者
林業試験場
雑誌
林業試験場研究報告 (ISSN:00824720)
巻号頁・発行日
no.336, pp.p45-116,図11p, 1986-03

フィリピン共和国パンタバンガン地域では,荒廃した草原状無立木地における流域管理や木材生産の調和をはかる造林技術の開発やそれらの体系化,およびそれらの技術転移を目的とした森林造成に関する日比技術協力プロジェクトが進められている。著者は熱帯草原状無立木地における森林造成のための基礎資料を得るため1980~1984年にかけて同プロジェクトサイトの土壌調査を行い,同サイトの立地条件を明らかにした。それらの結果の概要は次のとおりである。1. 調査地の土壌母材としては,第四紀礫層,熱変成岩等に由来する赤褐色砕屑堆積物,閃緑岩ないし石英閃緑岩を主とする火成岩,第三紀泥岩,第四紀粘土質堆積物,および不定形瘤状物に富む堆積物が重要であり,それらの分布は地形や地域と密接な関連を有する。2. 調査地の土壌は,全般的に炭素や窒素の含有率が低く,表層の発達が概して不良である。3. その他の理化学性や微細形態学的特徴は地形や母材の違いのよってそれぞれ異なり,塩基置換容量,置換性塩基含有量,塩基飽和度等が非常に高いものから非常に低いものまで,また,通気透水性が非常に良好なものから極めて不良なものまで多種多様である。4. 調査地を被覆する草木は主としてサモン(カルカヤ類:Themeda triandra)およびコゴン(チガヤ類:Inperata cylindricum)であるが,前者は比較的瘠悪な立地条件下に,また,後者は比較的理化学性の良好な立地条件下に優占する。
著者
野口 亮 平柳 好一 益守 眞也 河室 公康 八木 久義
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.428, 2003

1.はじめに 地形の起伏が大きい早壮年山地からなる東京大学秩父演習林の急斜面上では、200cm以上の火山灰由来物質が堆積しA層が80__から__100cmと厚く発達した黒色土が分布する。本研究では土壌断面内における化学性、植物珪酸体、微細形態学的特徴の垂直的変化から、急斜面上で特異的に厚い土層と発達したA層をもつ土壌の堆積過程を明らかにすることを目的とした。2.調査地及び、調査方法 調査地は東京大学秩父演習林内の28林班に4小班と31林斑い13、14小班である。28林班に4小班では傾斜17°の南向きの急傾斜面中腹に土壌断面を作製した(プロット1)。厚さ90 cmのA層を持つ黒色土であった。同地点での植物珪酸体抽出用試料採取時の土壌断面をプロット2とする。31林班い13小班では、傾斜26.5°の南向き極急斜面の中腹に土壌断面を作製した(プロット3)。黒色土であり、A層の厚さは100 cmであった。プロット3より20 mほど上方の同一斜面上に位置する傾斜22°の急傾斜地の31林班い14小班にも土壌断面を作成した(プロット4)。A層の厚さが70 cmの黒色土であった。プロット1及びプロット3において化学分析用及び微細形態学的性質研究用として土壌層位ごとに試料を採取した。また、プロット2及びプロット4において植物珪酸体抽出用に土壌試料を採取した。3.分析採取試料の化学性として、pH、リン酸吸収係数、全炭素量、陽イオン交換容量、交換性陽イオン量、塩基飽和度などを調べた。植物珪酸体は抽出を行い、鉱物顕微鏡下で検鏡した。大型のファン型植物珪酸体について表面の孔隙量により3段階に分別し、各段階の分布割合を調べ、植物珪酸体の風化度の指標とした。また、ササ類由来とススキ類由来の植物珪酸体の比率を調べた。微細形態学的特徴は土壌薄片を作製し鉱物顕微鏡下で観察した。4.結果および考察4.1 化学性いずれの土壌も、リン酸吸収係数及び活性アルミニウムテストにより、新生代第四紀の火山灰を母材とする土壌であることが確認された。塩基飽和度は非常に低く、高い層で7%、低い層では1 %を下回っており、極めて塩基の乏しい土壌であった。また、全炭素含有率はいずれの土壌においてもA層で大きく、全体的に極めて多量の腐植が集積していることを示している。4.2 鉱物組成プロット1,3ともに全層に輝石、石英が多く含まれており、重鉱物のみを見ると、半分以上を紫蘇輝石が占め、次に普通輝石が多く、角閃石、黒雲母、磁鉄鉱が含まれていた。この重鉱物組成を奥秩父(滑沢、栃本)、三峯付近のローム層の重鉱物組成(埼玉第四紀研究グループ、1967)と比較すると非常に似ており、八ヶ岳東側緩斜面のローム層中の重鉱物組成(小林、1963)とも似ていることから、今回採取した土壌も、八ヶ岳を由来とする火山灰を母材とすると考えられる。また、プロット1,3ともにB1層以深で磁鉄鉱の割合が増加しており、B1層以深の土壌は埼玉第四紀研究グループの分類によると、関東ローム層序の武蔵野ローム層以前に対比される、Dローム層以前のローム層に相当すると考えられる。B1層より浅い部分の土壌は関東ローム層序の下末吉ローム層と同時代に対比されるEローム層であると考えられる。4.3 植物珪酸体プロット2ではササ類由来の植物珪酸体が、プロット4ではススキ類由来の植物珪酸体の比率が多くなっていた。A層における腐植の由来は、検鏡結果からプロット1及び2ではササ類が、プロット3及び4ではススキ類が腐植の主な供給源であると推定される。植物珪酸体の風化度は、プロット2では0__から__40 cmにかけて、プロット4では0__から__30cm、30__から__70cmのそれぞれの深さにおいてほぼ一定の値を示し、風化度1,2,3の植物珪酸体の含まれる割合も一定となっており、40 cmの深さまでの植物珪酸体が土壌に供給された年代に差がないことを示唆していた。また、偶発的な崩落物と考えられる大角礫が含まれており、斜面上部尾根では火山灰が厚く堆積していないことから、これらの土壌は、比較的短い期間に、マスウエィスティングによって斜面上部から土壌が運搬されて堆積した二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。また、プロット4では、30cm深と70cm深を境に、風化度が異なっていたことから、少なくとも2度、異なる時期に二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。プロット2の40__から__70cmの深さでは深くなるほど植物珪酸体は未風化のものが減少し、風化の進んだものが増加していた。このことから、この深さにおける土壌は二次堆積の影響をあまり受けずに長い年月をかけて一次堆積による火山灰の堆積と、腐植の集積が併行して起こった結果発達した土壌であると考えられる。
著者
佐々木 恵彦 小島 克己 丹下 健 井出 雄二 八木 久義
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1991

これまでマングローブ林を農地開発した場所や開拓地で第四系海成堆積物を起源とした酸性硫酸塩土壌が問題となってきた。しかし農地開発や土木工事の規模が大きくなるにつれ、第三系堆積岩を起源とする酸性硫酸塩土壌の生成も顕在化してきた。本研究により、酸性硫酸塩土壌の母材となるパイライトを含む第三系堆積岩が、これまで問題となっていなかった場所も含め、広く日本に分布することがわかった。インドネシア東カリマンタン州やタイ南部でパイライトを含む第三系堆積岩を発見し、これまで第四系堆積物のみが問題となっていた熱帯地域においても、今後開発にともない第三系堆積岩を起源とする酸性硫酸塩土壌が問題となる可能性があること明らかにした。常磐自動車道の建設地で露出した古第三系堆積岩からは酸性化により特徴的にマンガンの溶出が起こり、植栽された樹木にもマンガンの過剰障害が顕著に現れた。このような強酸性土壌には低pHに対する耐性だけでなく、マンガン過剰に対する耐性が植栽樹木に要求される。このため比較的マンガン過剰に耐性があると考えられるシラカンバを用いて、マンガンによる障害の発生機構を調べ、光合成系に障害が発生することがわかった。熱帯産マメ科樹木のAcacia mangiumとA.auriculiformisは、低pHやマンガン、アルミニウムの過剰に対して耐性が大きく、熱帯での酸性硫酸塩土壌による荒廃地の森林再生に有効な樹種であることがわかった。さらなる耐性をもつ新樹木の作成にむけて、A.mangiumとA.auriculiformisの組織培養系を確立し、さらにA.mangiumの細胞培養系を用いて低pHとマンガン過剰に対する細胞レベルの反応を明らかにした。また高マンガン耐性細胞系の選抜をおこなった。これらの研究を基盤にして、酸性土壌に起因するストレスに対する耐性機構を解明し、また新たな耐性の付与を行い、荒廃地への造林樹種の開発と森林再生を目指して研究を進めて行く。
著者
八木 久義 酒井 徹朗 大橋 邦夫 山本 博一 門松 昌彦 堺 正紘 有馬 孝禮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究によって、文化財修理用資析調査及び需要予測、高品位材の市場調査及び供給能力の予測、フィールド分布調査を整理した上で、分布台帳を作成するとともに、必要資材量について検討し、檜皮の剥皮実験を行った。その結果、1.文化財建造物の保存にとって修理技術者の育成と修理用資材の確保が不可欠であること、2.建造物文化財は、既指定数が増加傾向にあり、修理件数は必然的に増加すること、3.修理用資材を木材に限定した場合、その需要に対して重要な材は、樹種では、ヒノキ、スギ、マツ、ケヤキ、クリであり、材質等では大径材、高品位材、特殊材であること、4.一般市場に出回る木材は、規格材の生産に止まり、文化財修理に必要な木目の細い木目の詰んだ材は既に確保が困難な状況となっていること、5.大径材等については、天然林において修理用資材を採取出来る立木の確認が必要であり、これらの立木を育成できる森林を確保し、そのための育林方法の確立を図る必要があること、6.大径木のフィールド分布調査によると文化財修理用資材の安定的確保と言う観点からみて、大学演習林では十分な資源量とは言えないこと、7.供給サイドからはアカマツが資源として厳しい状況にあること、8.修理用資材の供給源の確保や整備を行うためには、修理用資材に求められる形質を明らかにし、立木の状態で選別できる基準を設定する必要があること、9.大経木のフィールド分布調査の対象を国有林や公有林に広げる必要があること、10.文化財の修理用資材確保を目的とした備林を設定する必要があること、11.文化財修理の資材調達の困難さの実状を社会的に明らかにし、森林所有者とともに、林業、木材業界全体の協力体制を大学演習林が率先してモデルを構築することが必要であり、それらを基礎に大学演習林を中心にして地域の関係者との体制作りへと進むべきであること、が明らかになった。