著者
益守 眞也 野川 憲夫 杉浦 心 丹下 健
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.51-56, 2014-02-01 (Released:2015-04-07)
参考文献数
6
被引用文献数
13

東京電力福島第一原子力発電所事故翌年の2012年と2013年に,福島県南相馬市の森林において,林木に含まれる放射性セシウムの分布を調べた。放射性セシウムの大部分は枝葉と樹皮に検出されたが,個体や個体内の部位によって大きな濃度差があった。スギでは幹木部でも放射性セシウム濃度が 1 Bq/g を超える試料もあった。とくに高い位置の幹木部では辺材より心材に高濃度で分布していた。事故時に根系から切り離されていた幹の木部にも含まれていたことなどから,幹木部の放射性セシウムは経根吸収したものではなく枝葉などで吸収され移行したものと推察した。
著者
三浦 覚 青山 道夫 伊藤 江利子 志知 幸治 高田 大輔 益守 眞也 関谷 信人 小林 奈通子 高野 直人 金子 真司 田野井 慶太朗 中西 友子
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2015年大会
巻号頁・発行日
2015-05-01

To predict the movement of radioactive contamination caused by Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant (FDNPP) accident is a strong concern, especially for the forest and forestry sector. To learn from the precedent, we investigated soil samples collected systematically from 316 forest sites in Japan just before the accident, which retain the global fallout 137Cs (137Cs-GFO) from the nuclear test bomb during the 1950s and 60s. We measured the radioactivity of 137Cs-GFO in three layers of soil samples (0-5, 5-15 and 15-30 cm in depth) at each site. We divided 316 sampling sites into 10 groups separated by one longitudinal line and four transversal lines on the islands of Japan, then analyzed rainfall and geomorphological effects on 137Cs-GFO inventories. In addition to the analysis of 137Cs-GFO above, we examined the behavior of 137Cs discharged from FDNPP (137Cs-Fk) within the whole trees to study a possibility of biological effect on 137Cs transport to soils from trees. We measured the radioactivity of 137Cs-Fk of above- and belowground tree parts of three 26 year-old Quercus serrata and associated soils at a contaminated area in Fukushima in April, 2014. We estimated an average of 137Cs-GFO inventories of forest soils in Japan to be 1.7 ± 1.4 kBq/m2 as of 2008. 137Cs-GFO inventories varied largely from 0-7.9 kBq/m2 around the country. We found high accumulation of 137Cs-GFO in the north-western part facing to the Sea of Japan. We detected significant rainfall effects on the high accumulation due to winter rainfall. The vertical distribution of 137Cs-GFO showed that 44% of 137Cs-GFO remained within the 5 cm of soil from the surface whereas the rest of 56% was found in the layer of 5-30 cm in depth, indicating that considerable downward migration of 137Cs-GFO occurred during these fifty years in forest soils in Japan. However, multiple linear regression analysis by geomorphological factors related to soil erosion, such as inclination angle or catchment area calculated from Digital Elevation Model, showed almost no significant effects on the distribution of 137Cs-GFO. The radioactivity of 137Cs-Fk concentrations of fine roots collected from the 0-10 cm layer were 1600-2400 Bq/kg, which were comparable to those of one-year old branches (1400-2200 Bq/kg). The radioactivity of the fine roots was 7 times higher than that found in the soil of 50-100 cm layer (220-350 Bq/kg). This difference the radioactivity of the fine roots among the soil layers was remarkably small when compared with the 1000 times or more difference of radioactivity of soils in the same layers (one outlier sample in the 40-60 cm layer was excluded). The findings indicated that 137Cs-Fk circulated through the whole tree within three years after the accident. Considering root litter fall inside the soils we estimated that contaminated 137Cs on trees at the above ground part could be transported to soils through roots. We clarified that 137Cs-GFO has been held at deposited site and migrated downward gradually in soil. There are two possible major driving forces to be considered to explain the downward migration of 137Cs-GFO. One is the migration of 137Cs associated with vertical water movement and the other one is the transport of 137Cs by root litter fall or root exudate. Further research is needed to analyze these processes to obtain reliable prediction of future distribution of 137Cs-Fk.
著者
野口 亮 平柳 好一 益守 眞也 河室 公康 八木 久義
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.428, 2003

1.はじめに 地形の起伏が大きい早壮年山地からなる東京大学秩父演習林の急斜面上では、200cm以上の火山灰由来物質が堆積しA層が80__から__100cmと厚く発達した黒色土が分布する。本研究では土壌断面内における化学性、植物珪酸体、微細形態学的特徴の垂直的変化から、急斜面上で特異的に厚い土層と発達したA層をもつ土壌の堆積過程を明らかにすることを目的とした。2.調査地及び、調査方法 調査地は東京大学秩父演習林内の28林班に4小班と31林斑い13、14小班である。28林班に4小班では傾斜17°の南向きの急傾斜面中腹に土壌断面を作製した(プロット1)。厚さ90 cmのA層を持つ黒色土であった。同地点での植物珪酸体抽出用試料採取時の土壌断面をプロット2とする。31林班い13小班では、傾斜26.5°の南向き極急斜面の中腹に土壌断面を作製した(プロット3)。黒色土であり、A層の厚さは100 cmであった。プロット3より20 mほど上方の同一斜面上に位置する傾斜22°の急傾斜地の31林班い14小班にも土壌断面を作成した(プロット4)。A層の厚さが70 cmの黒色土であった。プロット1及びプロット3において化学分析用及び微細形態学的性質研究用として土壌層位ごとに試料を採取した。また、プロット2及びプロット4において植物珪酸体抽出用に土壌試料を採取した。3.分析採取試料の化学性として、pH、リン酸吸収係数、全炭素量、陽イオン交換容量、交換性陽イオン量、塩基飽和度などを調べた。植物珪酸体は抽出を行い、鉱物顕微鏡下で検鏡した。大型のファン型植物珪酸体について表面の孔隙量により3段階に分別し、各段階の分布割合を調べ、植物珪酸体の風化度の指標とした。また、ササ類由来とススキ類由来の植物珪酸体の比率を調べた。微細形態学的特徴は土壌薄片を作製し鉱物顕微鏡下で観察した。4.結果および考察4.1 化学性いずれの土壌も、リン酸吸収係数及び活性アルミニウムテストにより、新生代第四紀の火山灰を母材とする土壌であることが確認された。塩基飽和度は非常に低く、高い層で7%、低い層では1 %を下回っており、極めて塩基の乏しい土壌であった。また、全炭素含有率はいずれの土壌においてもA層で大きく、全体的に極めて多量の腐植が集積していることを示している。4.2 鉱物組成プロット1,3ともに全層に輝石、石英が多く含まれており、重鉱物のみを見ると、半分以上を紫蘇輝石が占め、次に普通輝石が多く、角閃石、黒雲母、磁鉄鉱が含まれていた。この重鉱物組成を奥秩父(滑沢、栃本)、三峯付近のローム層の重鉱物組成(埼玉第四紀研究グループ、1967)と比較すると非常に似ており、八ヶ岳東側緩斜面のローム層中の重鉱物組成(小林、1963)とも似ていることから、今回採取した土壌も、八ヶ岳を由来とする火山灰を母材とすると考えられる。また、プロット1,3ともにB1層以深で磁鉄鉱の割合が増加しており、B1層以深の土壌は埼玉第四紀研究グループの分類によると、関東ローム層序の武蔵野ローム層以前に対比される、Dローム層以前のローム層に相当すると考えられる。B1層より浅い部分の土壌は関東ローム層序の下末吉ローム層と同時代に対比されるEローム層であると考えられる。4.3 植物珪酸体プロット2ではササ類由来の植物珪酸体が、プロット4ではススキ類由来の植物珪酸体の比率が多くなっていた。A層における腐植の由来は、検鏡結果からプロット1及び2ではササ類が、プロット3及び4ではススキ類が腐植の主な供給源であると推定される。植物珪酸体の風化度は、プロット2では0__から__40 cmにかけて、プロット4では0__から__30cm、30__から__70cmのそれぞれの深さにおいてほぼ一定の値を示し、風化度1,2,3の植物珪酸体の含まれる割合も一定となっており、40 cmの深さまでの植物珪酸体が土壌に供給された年代に差がないことを示唆していた。また、偶発的な崩落物と考えられる大角礫が含まれており、斜面上部尾根では火山灰が厚く堆積していないことから、これらの土壌は、比較的短い期間に、マスウエィスティングによって斜面上部から土壌が運搬されて堆積した二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。また、プロット4では、30cm深と70cm深を境に、風化度が異なっていたことから、少なくとも2度、異なる時期に二次堆積の影響を受け形成されたと考えられる。プロット2の40__から__70cmの深さでは深くなるほど植物珪酸体は未風化のものが減少し、風化の進んだものが増加していた。このことから、この深さにおける土壌は二次堆積の影響をあまり受けずに長い年月をかけて一次堆積による火山灰の堆積と、腐植の集積が併行して起こった結果発達した土壌であると考えられる。
著者
小島 克己 上條 厚 益守 眞也 佐々木 惠彦
出版者
日本林學會
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.p258-262, 1994-05
被引用文献数
4

マツノザイセンチュウの病原力の弱い培養個体群も, セルラーゼを体外に分泌していることを活性染色法により確かめた。マツノザイセンチュウが分泌するセルラーゼ酵素群の組成は, ニセマツノザイセンチュウとは異なるものの病原力の強い培養個体群と弱い培養個体群の間で違いはみられなかった。マツノザイセンチュウが分泌したセルラーゼの活性を比べると, 病原力の強い培養個体群の方が病原力の弱い培養個体群よりも強かった。またマツノザイセンチュウの分泌するセルラーゼが結晶セルロースを分解する能力をもつことを明らかにした。マツノザイセンチュウの分泌するセルラーゼがマツ樹体内においてもセルロースを分解しうると考えられた。以上よりセルラーゼがマツ材線虫病の病原物質であるという可能性がより確かになった。
著者
丹下 健 益守 眞也 坂上 大翼 山本 福寿 本間 環
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

常緑樹の葉は、冬季であれば低温障害を受けることのない低温や降霜によって秋や春には甚大な被害を受けることが知られている。これは常緑樹が周囲の温度環境の変化に応じて樹体の低温耐性を変化させていることを示している。本研究では、暖温帯を主な生育地域とするスギを材料として、周囲の温度環境をどのように感知し、葉の低温耐性を高めたり低めたりしているのかを明らかにすることを目的に、実験的に地下部と地上部の温度環境を別々に制御して葉の水分特性がどのように変わるのかを調べた。葉の膨圧を失うときの水ポテンシャルは、秋から冬にかけて低下し、特に気温が5℃以下で急激に低下する季節変化を示す。この水分特性値の変化は、凍結温度の低下や細胞外凍結時の細胞内水の減少に対する耐性を高めるものである。このような季節変化が、地温を下げることによって早まり、暖めることによって遅れること、水分特性の変化には1週間程度の時間がかかることを明らかにした。この時、飽水時の浸透ポテンシャルの低下は明瞭でなかった。また、地温が5℃以下の時に葉を暖めても葉が低温耐性を失なわず、苗木全体を暖めることによって低温耐性を失う(可逆的な変化)ことを明らかにした。地温の低下に伴う葉の水分特性値や糖濃度の変化を検討し、膨圧を失うときの水ポテンシャルの低下に寄与しているのは、細胞内溶質の増加よりも、体積細胞弾性率(細胞壁の堅さ)の増大の方が大きいことを示した。以上の結果から、秋から冬にかけての地温の低下に応答して、スギの葉が低温に対する耐性を獲得することを明らかにした。季節はずれ降霜(晩霜、早霜)の害は、気温に比べて地温の季節変化が穏やかであり、急激な気温の低下に樹木が応答できないために発生すると考察した。