著者
吉村 哲彦 酒井 徹朗
出版者
森林利用学会
雑誌
森林利用学会誌 (ISSN:13423134)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.193-200, 1998-12-15
被引用文献数
5

林道は公道の整備が十分でない山間部において木材輸送だけでなく交通網の一部としての役割を担っている。本研究では,効率のよいネットワーク形成を目的として,紀伊半島中央部の熊野川流域6村を対象に,ネットワーク分析を用いて林道を含めた道路網の評価を行った。アルファ指数を用いて評価を行った結果,道路の規格が下がるにつれて,この地域の道路網は循環型ではなく突っ込み型の線形が増加することが示された。ベータ指数の値は,わずかに1以上であり,いくつかの地点で代替経路が存在していたが,土砂崩れなどにより道路が遮断された場合に適当な代替経路を探すのは困難である。イータ指数の値も,道路の規格が下がるにつれて減少傾向を示し,市町村道のレベルでネットワークの細分化が進んでいることがわかった。Croftonの公式によりネットワークの連結性を評価した結果,下北山村と野迫川村,下北山村と大塔村の連結性が最も低く,次いで十津川村と天川村,大塔村と天川村の連結性が低いことが示された。逆に道路の連結性が最も高いのは天川村と野迫川村の間であった。このような連結性の低い区間には,既存道路の改良も含めた峰越し連絡道路の整備が必要である。
著者
竹内 典之 酒井 徹朗 楊 潤田
出版者
京都大学農学部附属演習林
雑誌
京都大学農学部演習林報告 (ISSN:0368511X)
巻号頁・発行日
no.63, pp.p218-225, 1991-12

中国東北部興安嶺地域および東北平原における凍土の分布と道路, 橋梁, 建築物等の災害の概況について報告する。1. 興安嶺地域および東北平原は, シベリアに中心を持つ周極の永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯に位置する。一般に, 永久凍土帯と季節凍土帯との移行帯においては, 土の凍結深度や凍土の融解深度が大きい。2. 興安嶺地域およびその周辺部は, 冬季には厳寒なシベリア気団の影響を強く受けるため気温が極めて低く, 他の同緯度地域に比べると凍結指数は1, 000 - 1, 500℃・Dayも大きい。また, 夏季には, この地域は比較的低緯度地域に位置するうえに, この地域に向かって太平洋高気圧から吹き込む温暖多湿な季節風の影響により比較的気温が上昇する。そのため, この地域においては, 凍結指数, 融解指数ともに極めて大きく, 永久凍土地域にあっては活動層厚が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいのが特徴である。3. 興安嶺地域および東北平原は, 凍土の分布状況から (1) 連続永久凍土区, (2) 不連続永久凍土区, (3) 点在永久凍土区, (4) 季節凍土区に分けられ, この地域の地理, 気象条件から点在永久凍土の分布面積が極めて広いのがこの地域の特徴の一つである。4. 興安嶺地域および東北平原においては, 永久凍土地域にあっては活動層が, また, 季節凍土地域にあっては最大凍結深度が極めて大きいことから, 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によって引き起こされる道路, 橋梁, 建築物等の災害も多岐にわたり, 被害の程度も極めて大きい。5. 興安嶺地域および東北平原における道路, 橋梁, 建築物等の災害は, (1) 土の凍結 - (凍上) - 凍土の融解の過程で発生するさまざまな現象によるもの, (2) 永久凍土地域に特有な地表水, 地下水の凍結による巨大氷塊 (涎流氷, 氷椎, 氷丘等) の生成と融解によるもの, (3) 地被条件等の人的あるいは自然的な撹乱による土の凍結深度あるいは凍土の融解深度の増大によるもの, (4) その他とに大別できるようである。
著者
八木 久義 酒井 徹朗 大橋 邦夫 山本 博一 門松 昌彦 堺 正紘 有馬 孝禮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究によって、文化財修理用資析調査及び需要予測、高品位材の市場調査及び供給能力の予測、フィールド分布調査を整理した上で、分布台帳を作成するとともに、必要資材量について検討し、檜皮の剥皮実験を行った。その結果、1.文化財建造物の保存にとって修理技術者の育成と修理用資材の確保が不可欠であること、2.建造物文化財は、既指定数が増加傾向にあり、修理件数は必然的に増加すること、3.修理用資材を木材に限定した場合、その需要に対して重要な材は、樹種では、ヒノキ、スギ、マツ、ケヤキ、クリであり、材質等では大径材、高品位材、特殊材であること、4.一般市場に出回る木材は、規格材の生産に止まり、文化財修理に必要な木目の細い木目の詰んだ材は既に確保が困難な状況となっていること、5.大径材等については、天然林において修理用資材を採取出来る立木の確認が必要であり、これらの立木を育成できる森林を確保し、そのための育林方法の確立を図る必要があること、6.大径木のフィールド分布調査によると文化財修理用資材の安定的確保と言う観点からみて、大学演習林では十分な資源量とは言えないこと、7.供給サイドからはアカマツが資源として厳しい状況にあること、8.修理用資材の供給源の確保や整備を行うためには、修理用資材に求められる形質を明らかにし、立木の状態で選別できる基準を設定する必要があること、9.大経木のフィールド分布調査の対象を国有林や公有林に広げる必要があること、10.文化財の修理用資材確保を目的とした備林を設定する必要があること、11.文化財修理の資材調達の困難さの実状を社会的に明らかにし、森林所有者とともに、林業、木材業界全体の協力体制を大学演習林が率先してモデルを構築することが必要であり、それらを基礎に大学演習林を中心にして地域の関係者との体制作りへと進むべきであること、が明らかになった。
著者
中島 皇 竹内 典之 酒井 徹朗 山中 典和 徳地 直子
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

温帯のスギと広葉樹が混交する天然林において総合的な調査を開始した。森林の動態の解明を大きな目標として、森の動きと働きを明らかにするのがこの研究の目的である。今回は特に物質の動きに注目して、今後の研究の基礎固めを行った。12年間に3回の毎木調査を行ったことにより、集水域が約8haある天然林の大まかな動きが捉えられた。小径の広葉樹ではソヨゴ、リョウブの枯死が多く、ソヨゴは常緑であるため冬の積雪の影響を大きく受けて「幹裂け」の状態を示しているものが多く見られた。流出物調査では北米で報告されている量と同程度の値が観測され、渓流水質調査では過去の観測データと比較すると硝酸濃度の上昇傾向が見られるなど、新たな知見が得られた。他方で、いろいろなイベントが森の動きに大きく影響を及ぼしており、そのイベントが生じた直後でなければ、なかなか影響を顕著に見つけられないことも事実である。この点は流出水量・流出リター量・渓流水質においても同様で、イベント時の現象を詳細に捉え、解析することが、今後の大きな課題である。毎木(成長量・枯死量)、樹木位置図、流出水量、流出リター量、渓流水質などの調査はいずれも時間と労力を必要とするもので、多くの人の力が必要である。森林という人間などよりはるかに長寿命の生物と付き合うためには、長期的な戦略と長期的なデータに裏付けられた息の長い調査・研究が今後とも必要である。