著者
大北 喜基 荒木 俊光 近藤 哲 奧川 喜永 藤川 裕之 廣 純一郎 問山 裕二 大井 正貴 内田 恵一 楠 正人
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.655-659, 2018-12-31 (Released:2019-04-20)
参考文献数
21

近年の炎症性腸疾患に対する内科的治療は,従来から使用されてきたステロイドとともに免疫調節薬,生物学的製剤などの新しい内科的治療が開発され,治療薬の選択は多様化している。内科的治療は進歩したものの,治療抵抗や腸管合併症などの理由で手術を余儀なくされる症例は存在し,手術症例においては内科的治療が周術期管理に影響を与える可能性がある。長期ステロイド投与患者では,急性副腎不全に対する予防としてステロイドカバーが行われるが,従来の侵襲の大きさにかかわらず一律に高用量ステロイドを投与する方法から,近年では侵襲の程度に応じて投与量を決定する方法が推奨されている。炎症性腸疾患に対する手術は,内科的治療による免疫抑制のみならず,低栄養,慢性炎症などが原因で術後合併症,とくに感染性合併症の発生頻度が高いと考えられている。これまで多くの報告で術前ステロイド高用量投与が術後合併症のリスクとなることが示されており,ステロイドの投与量は手術タイミングと術式の選定,周術期管理を行ううえで重要な情報となる。
著者
垣花 泰之
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.350-359, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
51

敗血症性ショックの病態には,血管透過性亢進や血管拡張に伴う相対的な循環血液量減少だけではなく,心機能低下が混在する場合もある。個々の症例に対して病態を正確に把握し,適切な治療法を選択する必要があるため,J-SSCG 2020では,敗血症患者に遭遇した場合には,まず簡易的な心・血管エコー検査により前負荷や心機能を評価することを推奨している。循環血液量減少に対しては初期蘇生輸液を行い,血管拡張に伴うショックと判断された場合にはノルアドレナリン投与,それでも血圧が維持できない場合には,バソプレシンの追加投与が推奨されている。一方,心・血管エコー検査で心機能障害が認められた場合には,強心薬が必要であり,頻脈性不整脈に対してはβ1受容体遮断薬の投与が推奨され,重篤な心機能低下に対しては補助循環の適応も検討されている。本稿では,敗血症性ショック患者の初期蘇生・循環作動薬に関して,J-SSCG 2020が提示しているCQ/Answer,診療フローを解説する。
著者
河合 佑亮 西田 修
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.377-387, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
33

集中治療領域における短期の生命予後改善の一方で,集中治療後症候群(Post intensive care syndrome:以下,PICS)や,ICU滞在中の療養環境の調整,医療者・患者・家族のかかわりなどに関する課題が浮き彫りになりつつある。「Patient–and Family–Centered Care」は,患者と家族の精神に関連した内容,ICUにおける療養環境や意思決定支援などに関する内容を扱う領域と位置づけ,6つのCQで構成されている。CQ20–1:患者と家族に対する,PICSおよびPICS–Fに関する情報提供の方法は?CQ20–2:敗血症患者あるいは集中治療患者に対してICU日記をつけるか?CQ20–3:集中治療中の身体拘束(抑制)を避けるべきか?CQ20–4:睡眠ケアとして換気補助または非薬物学的睡眠管理を行うか?CQ20–5:ICUにおける家族の面会制限を緩和するべきか?CQ20–6:患者の価値観・考え方等を尊重した意思決定支援の方法は?これらはエビデンスに乏しい領域であるが,今後の敗血症診療,集中治療の質を向上し得る非常に重要な領域である。
著者
黒田 泰弘
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3-4, pp.368-376, 2022-08-15 (Released:2022-08-15)
参考文献数
72

敗血症における脳障害は,1.狭義の敗血症関連脳障害(sepsis-associated acute brain dysfunction:以下,SABD),2.広義のSABD,3.敗血症に合併した新たな脳神経疾患,に分けられる。狭義のSABDは炎症性メディエーターによる脳への直接的影響により生ずる。一方,広義のSABDは敗血症による脳以外の臓器障害または薬剤などによって間接的に引き起こされる。SABDは,敗血症関連臓器障害のうちで最も頻度が高く,敗血症患者の最大70%が罹患し,他の臓器が侵される前に発症することが多い。SABDは症状が非特異的であり,病歴も加味した除外診断が重要である。1は敗血症の治療が中心となるが,2および3は治療の追加や治療内容の早期変更が必要な場合がある。
著者
浅野 健吾 内野 滋彦
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.238-241, 2018-06-30 (Released:2018-09-12)
参考文献数
19

セプザイリス®は AN69ST膜からなる持続透析膜である。高いサイトカイン吸着能による治療効果が期待され,本邦では 2014年に敗血症に対して保険収載されているが,これは実際の患者への効果を必ずしも証明するものではない。そこで今回,セプザイリス®の効果に関する既存研究を検証し,臨床での使用が妥当であるかを考察した。セプザイリス®に関する研究は動物実験や in vitroでの研究が多く,とくに敗血症を対象とした臨床研究は限られている。加えて,治験の研究も含めてこれらの臨床研究には問題点も多く,予後改善効果を証明するに至っていない。敗血症に対してセプザイリス®使用を推奨する根拠は乏しいと思われる。
著者
清水 潤三
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.17, no.6, pp.510-513, 2020-12-31 (Released:2021-09-30)
参考文献数
5

感染兆候がなくても術後患者のドレーンの排液の培養や,ドレーンの先端培養により,もしドレーン抜去後に感染症が起こっても起炎菌をいち早く知ることで対応しようとすることはとても自然な対応と考えられる。一方でそのような一律的なドレーン先端培養の診断価値については議論があり,検査にはコストや時間を要することから,意義について見直す研究がなされている。メタ解析ではSSIを予想する効果がないと結論付けられた。また,日本外科感染症学会から発刊されたガイドラインでは多くの手術術式でドレーン留置そのものが必要ないとされておりドレーン先端培養に関する議論の前提が崩れている。画一的な先端培養は費用対効果から否定される一方で,困難な手術症例ではドレーンの管理が患者の運命を握ることもあり,適切なドレーンの管理は今後も重要である。
著者
橋爪 正 神田 大周 久保田 隼介 一戸 大地 横山 拓史 山田 恭吾 松浦 修
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.18-25, 2019-03-30 (Released:2019-07-13)
参考文献数
23

術後高血糖は大腸手術の手術部位感染(SSI)リスク因子である。1990~2009年の初回開腹腸切除 2,099例を対象として,全例に SSI予防バンドルを施行し,1990~1999年(前期)は血糖目標値200mg/dL,随時インスリン皮下注(SCI)法を行った。前期の糖尿病患者の創部 SSI率は17%と高かった。2000~2009年(後期)は目標血糖値を150mg/dLに変更し,一部の糖尿病と耐糖能異常に5%または7.5%糖濃度の維持輸液を投与し,術後 48時間まで持続インスリン静注(CII)法を行うきめ細かな血糖管理を前向きに実施した。CII法は SCI法に比べてすみやかに高血糖を改善し,血糖変動が少なく,術後 2~4時間で血糖値は安定した。著しい低血糖の発生もなかった。後期糖尿病患者の創部 SSI率は10%まで改善した(非糖尿病9.3%)。150mg/dLを目標とするきめ細かな血糖管理は大腸手術 SSI予防に有用と確認された。最近の SSIガイドラインは血糖目標値 150~200mg/dLを示しているが,今後も周術期血糖管理に関して詳細な検討が必要と思われる。
著者
嶋 雅範
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.642-648, 2019-12-31 (Released:2020-02-14)
参考文献数
16

人工呼吸器関連肺炎(ventilator-associated pneumonia:以下,VAP)の発生率を低減するため,National Healthcare Safety Network(以下,NHSN)は,成人のVAPサーベイランスとして2013年に人工呼吸器関連イベント(Ventilator-Associated Events:以下,VAE)サーベイランスを開始している。VAEサーベイランスは,患者予後と相関していることや,判定が簡便で電子化が期待できるなどの利点がある。一方でVAPサーベイランス結果と相違があることや,発生率の解釈が不明確であること,結果が人工呼吸器の管理方法に左右されるといった問題点もある。VAEサーベイランスは,肺炎だけでなく人工呼吸器を使用することによって起こる合併症すべてに焦点を当てたサーベイランスである。導入には人工呼吸器の設定を患者の状態にあった設定に管理できるような体制が望まれ,導入後も人工呼吸器管理を全般的に管理していく必要がある。VAEサーベイランスを活用するには,感染管理担当者だけでなく,さまざまなチームや職種と協働し発生率の低減に向け活動するべきである。
著者
中井 真尚 山本 博之 種本 和雄 宮田 浩章 本村 昇
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.54-59, 2020-04-30 (Released:2020-06-11)
参考文献数
14

【背景】心臓手術後手術部位感染症(以下,SSI)は臨床成績に影響する。日本心臓手術データベース(Japan Cardiovascular Surgery Database:以下,JCVSD)データを利用しSSIの現状を検討した。【方法】JCVSDデータ中2013年〜17年胸骨切開下胸部心臓大血管手術253,159例を対象。Japanese Healthcare Associated Infections Surveillance(以下,JHAIS)に準じcoronary artery bypass graft with both chest and donor site incisions(以下,CBGB)72,513例,coronary artery bypass graft with chest incision only(以下,CBGC)28,579例,cardiac surgery(以下,CARD)152,067例に分類。SSIは深部胸骨感染,下肢創感染を集計。退院時転帰,90日以上の長期入院を検討した。【結果】深部胸骨感染発生率はCBGB1.9%,CBGC1.5%,CARD1.5%でCBGBに多い(P<0.001)。深部胸骨感染例の在院死亡は22.9%(非感染例5%,P<0.001)。深部胸骨感染症例の長期入院は20.8%(非感染例1.6%)であった。【結論】JCVSDを用いたSSIの検討では深部胸骨感染は1.5〜1.9%と比較的低い。しかし深部胸骨感染の生存率,入院日数に与える影響は大きい。
著者
安田 将 杉本 元一 後藤田 直人
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.314-321, 2021-12-15 (Released:2022-01-07)
参考文献数
33

【目的】大量肝切除術前のリハビリ栄養療法(リハ栄養)による骨格筋指数(Skeletal muscle index,SMI)変化および術後経過への影響を検討した。【方法】2008年9月から2019年5月までに門脈塞栓術後に大量肝切除を施行された全99症例のうち,術前待機期間中にリハ栄養を行った症例群(リハ栄養群)と対照群で臨床的特徴およびSMI変化率を比較した。また,リハ栄養群においてSMI増加群と減少群の術後合併症発生率を比較した。SMIは門脈塞栓術前後の腹部CT画像で評価した。【結果】リハ栄養群30例では対照群69例と比較し,SMIの有意な増加を認めた(中央値+1.8% vs. +0.1%,P=0.038)。リハ栄養群30例において,SMI増加群21例では減少群9例と比較し,術後に手術部位感染(臓器体腔)(14% vs. 56%,P=0.032)と肝不全(14% vs. 56%,P=0.032)の発生率が低く,術後在院日数(17日 vs. 24日,P=0.033)が短かった。【結論】術前待機期間中のリハ栄養により骨格筋量が増加し,術前の骨格筋量増加は術後合併症軽減に有用であると考えられた。
著者
高田 昌幸
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.6, pp.669-677, 2018-12-31 (Released:2019-04-20)
参考文献数
22

腎移植における周術期管理についてはいくつか気をつけなければならないことがあるが,以下の 3点はとくに注意が必要である。①免疫抑制療法下で行う手術である,②腎不全患者に対する手術である,③拒絶反応,である。免疫抑制剤を用いることで免疫機能が抑制されるため感染症には注意が必要である。一旦感染症が起こると重症化しやすく,拒絶反応を引き起こすこともあるため感染予防が大切である。ドナー,レシピエントとも術前に感染症のスクリーニング検査を行っておくこと,可能な限りワクチン接種を施行しておくことが有効である。腎不全患者は(とくに生体腎移植では)腎移植手術を受けた後,比較的早期から利尿がみられる。血圧などを中心とした全身管理や十分な補液で尿量を確保することが大切である。近年免疫抑制剤の進歩により急性拒絶反応は減った一方,免疫学的リスクの高い腎移植も行われるようになってきており拒絶反応は今でも腎移植手術の重要な課題の 1つである。周術期を無事乗り切ることが移植腎予後に大きく影響するため,免疫抑制療法下で不測の事態に対応できるように移植に特有な感染症や拒絶反応など合併症によく精通しておく必要がある。
著者
小林 美奈子 辻本 広紀 髙畑 りさ 矢口 義久 永生 高広 岡本 耕一 長谷 和生
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.197-202, 2019-08-31 (Released:2019-09-30)
参考文献数
16

手術時手袋の着用は,患者と医療従事者間の病原微生物の伝播経路遮断が目的である。これまでに術中に手袋損傷が起こることは諸家により報告されているが,これらの多くは開腹手術での手袋損傷である。近年,消化器外科領域において内視鏡外科手術が普及しているが,鏡視下手術での手袋損傷の検討はほとんど行われていない。そこで今回われわれは,消化器外科領域において開腹・鏡視下手術時の手袋穿孔率を比較検討した。手術時手袋1,513双,3,026枚の検討を行い,穿孔率は全体で10.9%,開腹手術11.3%,鏡視下手術10.4%であり,穿孔率に差は認められなかった(P=0.4611)。また,二重手袋着用での穿孔率は,インナー手袋5.7%,アウター手袋11.9%であり,インナーはアウターに比し有意に穿孔率が低率であった(P=0.0001)。消化器外科手術における手袋穿孔率は,鏡視下手術においても開腹手術とほぼ同率であり,血液・体液暴露予防やSSI予防の観点から鏡視下手術においても二重手袋の着用が重要であると考えられた。
著者
北川 雄一 前川 裕子 三浦 みちえ
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.30-35, 2018

<p>当院の血液培養実施状況は,十分なものでなかった。診療報酬で血液培養検査2セット採取が認められるようになった2014年4月から1年間,血液培養適正採取キャンペーンを行った。キャンペーンの成果を集計し成果を報告する。キャンペーン開始前の血液培養検査の外科系診療科ごとの状況を,キャンペーン開始後と比較し,内科系を含む病院全体の状況を,2017年まで集計した。キャンペーン前の病院全体での2セット以上採取率は18.2%,外科系診療科の2セット以上採取率は12.1%,血液培養実施患者数はのべ182人であった。キャンペーン後は,それぞれ67.0%,75.4%,252人と改善した。キャンペーン終了後も一部の介入を行った結果,病院全体での2セット以上採取率は,2015年度86.0%,2016年度89.1%,2017年度91.0%と,高水準を維持している。病院全体として血液培養適正採取キャンペーンを行うことで,血液培養の実施数の増加と,2セット以上採取率向上が得られた。</p>