- 著者
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高橋 浩
加々島 慎一
- 出版者
- 地学団体研究会
- 雑誌
- 地球科学 (ISSN:03666611)
- 巻号頁・発行日
- vol.51, no.5, pp.336-345, 1997-09-25 (Released:2017-07-11)
- 被引用文献数
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飯豊山地のざくろ石黒雲母白雲母花崗岩は,足尾帯の堆積岩類中の層理面に平行に貫入した多数の板状小岩体を成している.主に石英,斜長石,カリ長石,黒雲母,白雲母およびざくろ石からなり,中-細粒で優白質な岩相を呈する.全岩化学組成は過アルミナ質で,Al2O2/ (CaO+Na2O+K2O)(モル比)は1.05〜1.19を示す.ざくろ石はスペッサルティン成分に富み(sps.26.69〜46.12),リムでよりMnに富みMgに乏しい逆累帯構造を示す.また,ざくろ石のMn/ (Mg+Fe+Mn+Ca)値(原子比)と全岩組成におけるMnO/ (MgO+FeOt+MnO+CaO)値(モル比)との間には正の相関が認められる.黒雲母のMg/ (Mg+Fe+Mn)値(原子比)と全岩のMgO/ (MgO+FeOt+MnO)値(モル比)や斜長石のAn組成と全岩のCaO/ (CaO+Na2O+K2O)値(重量比)との間にも正の相関が認められる.ざくろ石黒雲母白雲母花崗岩中のざくろ石はスペッサルティン成分に富み,逆累帯構造を示し,ざくろ石の組成と全岩組成の間に相関が認められることから,Mnに富んだ過アルミナ質のマグマから晶出したものと考えられる.また,黒雲母や斜長石もそれらの組成と全岩組成との間に相関が認められることから,過アルミナ質のマグマから晶出したものと考えられる.
グラニュライト相泥質変成岩の部分溶融によって形成された日高変成帯の含ざくろ石トーナル岩の組成は,飯豊山地のざくろ石黒雲母白雲母花崗岩に比べ,Or成分に乏しくAn成分に富んでおり,ノルムAn-Ab-Or図上で,両者はコーティクティック曲線によって隔てられている.このことは,日高変成帯に代表される,高温型変成帯の泥質グラニュライトの部分溶融によって生じたマグマから飯豊山地のざくろ石黒雲母白雲母花崗岩を形成したマグマを導くことは難しいことを示している.また,日高変成帯の含ざくろ石トーナル岩中のざくろ石の組成は,飯豊山地のものに比べMnに乏しく(sps.2.4-6.1%),ざくろ石晶出時の温度・圧力とマグマの組成の違いを反映しているものと考えられる.