著者
加藤 忠史
出版者
一般社団法人日本教育学会
雑誌
教育学研究 (ISSN:03873161)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.152-161, 2007-06
被引用文献数
2

昨今、「脳を鍛える」がブームになっている。これは、音読・計算が脳を「活性化」させるとのデータに基づいている。しかし、「活性化」という言葉の実態は、単に血流増加を示し、ストレスや痛みでも脳は「活性化」するのであるから、「活性化」=プラス効果、という判断は問題がある。グルタミン酸による神経の「興奮」という生理学用語に価値判断を持ち込み、ご飯にグルタミン酸をふりかけることが流行ったという過去に学ぶべきであろう。計算中の脳血流増加には、計算そのものの他に、注意、情動、ストレスなどの多様な要因が関与する点も注意を要する。また、どのようなゲームでも練習すると上手になるが、その成績改善が認知機能全般の向上につながるかどうかは慎重に検討する必要がある。今後、脳科学からの問いかけに対し、教育界が沈黙することなく、議論を進めていくことに期待したい。
著者
加藤 忠史 笠原 和起 窪田 美恵
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

カナダのケベックブレインバンクおよび国内の福島医科大学ブレインバンクより供与を受けた、双極性障害患者および対照群死後脳由来視床ブロックより作成した脳切片の解析を進めた。抗カルレチニン抗体染色を用いて視床室傍核を同定し、抗COX(チトクロームc酸化酵素)抗体および抗SDH(クエン酸脱水素酵素)抗体を用いた二重染色により、ミトコンドリアDNA由来蛋白質が減少している細胞を同定した。その結果、試料のpHが高い場合には検討が可能であったが、試料のpH低下に伴ってCOX陰性細胞が増加することが示唆された。そこで、抗8-OHdG抗体を用いて、酸化ストレスについても検討を行うこととし、染色を行った。8-OHdG様免疫反応性は細胞質に局在し、主にミトコンドリアDNAの酸化を反映していると考えられた。染色の結果、患者の視床室傍核において見出されたCOX陰性細胞は8-OHdG強陽性である一方、試料pHの低下に伴って見られるCOX陰性細胞は8-OHdG陰性または弱陽性であった。COX陰性・8-OHdG陽性細胞が、ミトコンドリア機能障害を反映する可能性が考えられた。また、視床室傍核特異的にCreを発現するトランスジェニックマウスの作成を進めた。また、mtDNA変異蓄積によって神経細胞の形態がどのように変化するかについて調べるため、ミトコンドリア移行シグナルを持つ制限酵素を発現させ、これを発現させることによりmtDNA欠失が生成されることを確認した。
著者
加藤 忠史
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.183-187, 2011 (Released:2017-02-16)
参考文献数
12

小児思春期双極性障害が米国で急増している。小児期に発症する双極 I 型障害がまれながら存在することは確かであろう。しかし,最近増えてきたケースは,激しい易怒性,攻撃性を示すが,長期に続く気分の障害ではなく,双極 I 型あるいは双極 II 型の診断基準を満たさない。こうした場合,成人型の双極性障害に進展するかどうかは不明である。このように,米国では過剰診断が懸念されており,DSM-5 ドラフトで提案された Temper Dysregulation Disorder with Dysphoria(TDDD)は,この過剰診断を防ぐ目的で導入された診断基準である。今後,この診断基準を元に研究を進め,こうした情動障害の背景に,双極性障害の家族歴,AD/HD,精神刺激薬治療などがどのように関わっているのか,そしてこうした症例のどれだけが成人型の双極性障害を発症するのか,明らかにしていく必要がある。
著者
加藤 忠史 垣内 千尋 林 朗子 笠原 和起 窪田 美恵 福家 聡 岩本 和也 高田 篤 石渡 みずほ 宮内 妙子 亀谷 瑞枝 磯野 蕗子 小森 敦子
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

XBP1を持たない神経細胞では、BDNFによるGABA神経細胞マーカーの発現増加が減弱していた。また、XBP1の標的遺伝子であるWFS1のノックアウトマウスは、情動関連行動の異常を示し、変異Polg1トランスジェニック(Tg)マウスと掛けあわせると、Tgマウスの表現型を悪化させた。Polg1マウス脳内で、局所的に変異mtDNAが蓄積している部位を同定した。