著者
吉野 一 太田 勝造 西脇 与作 原口 誠 松村山 良之 加賀山 茂 宮本 健蔵
出版者
明治学院大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

本研究は、実定法の言語分析を通じて法的知識の論理構造を明らかにするとともに、それに基づいて、実際に即して法的正当化の推論を行なう法律エキスパートシステムの基礎を確立することを目的とする。原理と方法の解明と実証を行なうために、AIワークステーション上に知識ベースと推論機構ならびに最小限のインターフェースからなる実験用のプロトタイプを作成する。三年間の研究において上記の研究目的はほぼ達成された。すなわ、(1)法的知識の構造については、ウィーン売買条件(一部)および民法(一部)の条文を法規範文単位に要件・効果の内的構造において解明するとともに、諸法規範文間の論理的結合関係を明かした。その際とくに法の適用を制御する推論の知識構造を法規範文とその効力を規定しているメタ法規範文の関係として解明した。(2)法律知識ベースとしては、上記分野において、上記原理に基づいて、法規範文とメタ法規範文を複合的述語論理式で表現し、サンプルシステムをAIワークステーションPSI-II上に作成した。(3)法的推論機構としては、a)適用すべき法規範文を決定する推論を、上記法的メタ法規範文を適用した演繹的正当化の推論として構成し、そのための法的メタ推論機構を完成した。また、b)この推論過程を理解・説明するためのユーザフレンドリーな説明機構を作成した。さらに、c)有限なルールを用いて多様な事件に対して法的解決を与えるための拡大解釈や類推適用の工学的モデルを、法的シソ-ラスの構造にしたがった仮説生成の推論として計算機上実装し、その有効性および問題点を検討した。また法的概念辞書の基礎を明らかにした。上記の研究に関連する論理学的、法哲学定、法社会学的、民法学的および情報・知識工学的的基礎付けを行った。本研究によって本格的な法律エキスパートシステムの開発研究の基礎が提供されたと言える。
著者
吉野 一 KOWALSKI Rob BRANTING Kar RUESSMANN He HERBERGER Ma ASHLEY Kevin BERMAN Donal HAFNER Carol 桜井 成一朗 北原 宗律 原口 誠 加賀山 茂 松村 良之 HELMUT Ruess ROBERT Kowal MAXIMILIAN H KEVIN D Ashe DONALD H Ber CAROLE D Haf RUESSMAN Hel
出版者
明治学院大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1991

本研究は、国際統一売買法を対象領域として、成文法国である日本および西ドイツと判例法国であるアメリカ合衆国の研究者が、それぞれの法体系の特徴である「ルールに基づいた推論」と「事例に基づいた推論」の論理分析を行ない、それぞれの推論のシステム化の研究成果を交換するとともに、共同でルールの解釈と類推適用のメカニズムを解明し、それに基づいて、ルール型の推論システムと事例型推論システムとを融合させることを目的とした。平成5年度において次の点が達成された。(1)本国際共同研究によって、大陸法系の「ルールに基づいた推論」と英米法系の「事例に基づいた推論」の論理構造がそれぞれおおよそ明らにされた。(2)「ルールに基づいた推論」と「事例に基づいた推論」の相互関係、両者を融合させる道が明らかとなった。すなわち、法ルールの解釈において事例に基づく推論を利用する方法が明らにされた。(3)法的知識の表現方法として、論理流れ図の方法と複合的述語論理式(CPF)による方法とが確立された。(4)CISG(国連売買条約)の第2部契約成立の部分の論理構造が解明された。そしてそれが、開発された知識表現方法である(日本語と英語版の)論理流れ図およびCPFによって、コンピュータ上に表現された。この表現形式を共通の表現形式として用いることに日米の研究者の合意が形成された。(5)CISGの論理流れ図表現を対象に日・米の研究者が議論したが、これは異なる言語、異なる法文化を持つ日米の両国の法律家の間によいコミュニケーションを実現する方法であることが判明した。(6)CISGの法解釈学的諸論点が明らかとなった。また解釈の違いと背景となる法文化の関係が明らかになった。(7)ドイツ側の研究者は、英語、ドイツ語およびフランス語のマルチ言語のCISGのハイパーカードシステムを完成した。またCISGのドイツ語テキスト文からそれに対応する述語論理式を半自動生成する知識獲得支援実験システムを作成した。次の点で成果はあげつつも、当初計画をそのままの形で実現することはできなかった。(1)ルール型推論システムおよびルールからの類推実験システムを作成した。しかし、ルール型推論システムをアッシュレ-などの事例型推論システムと結合させるまでには至らなかった。従ってまた、ルールに基づいた推論と事例に基づいた推論を融合するシステムの実装も実現できなかった。(2)述語論理式から日本語文および英語文を生成する試験システムを作成したが、日本語と英語の法律知識ベースを融合するためのインターフェースを作成するまでには至らなかった。(3)研究のまとめ方と研究成果の執筆分担の取り決めがなされたが、年度内に本国際学術共同研究の成果報告書を作成することができなかった。これらは研究を進めるに従って問題の深さが明らかになり、安易にシステムの実装を急ぐより、研究の基礎を固めることにより努力した結果でもある。とはいえ、本国際学術共同研究によって、複数の言語で表現され、しかし条約として合意されたことによって一つの内容を持つCISG(国連売買条約)を対象にし、また大陸法系の成文法主義(ルール主義)の法的推論と英米法系の事例主義の法的推論を比較検討し、それを両者を融合させる方向で人工知能システムとして実現しようと努力したことによって、一方において、同法の諸論点が明らかになったとともに、異なる言語および法文化に属する法律家間のコミュニケーションの方法が提供された。本研究は比較法の新たなメソッドを提供した。他方において、人工知能研究にとっても、事例にもとづく推論で法ルールの解釈を支援するシステムの実現方法が確立された点で、有意義な成果を挙げたといえる。
著者
浜上 則雄 加賀山 茂
出版者
有斐閣
雑誌
ジュリスト (ISSN:04480791)
巻号頁・発行日
no.650, pp.p95-101, 1977-10-15
被引用文献数
1
著者
吉野 一 加賀山 茂 河村 寛治 太田 勝造 新田 克己 櫻井 成一朗 松村 敏弘
出版者
明治学院大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2002

本研究は、創造的な法的思考力を養成するための教育方法を、次のように、四つの研究課題に分けて分担研究し、各研究成果を諸共通事例を素材に全体として融合して、開発した。1.法創造基礎の理論的解明具体的化と体系化の法命題の創設および仮説法命題の反証としての法創造推論の構造を、共通の具体的事例問題の解決過程において、詳細に解明した。妥当性評価の基準を国民の価値意識のアンケート調査と法と経済学の観点とから同定した。認知科学の観点から授業評価方法を考案した。2.実務と教育における法創造の実際の解明米国のロースクールと我が国を含めて大陸法系の法学教育の実践を分析し、その法創造的要素を解明した。そしてその成果を法創造教育方法の開発に立てた。また開発された法創造教育方法の教育実践の分析を行い、有効性を確認した。それを法科大学院の教育で本格的に実践するためのさらなる研究課題を明らかにした。3.法創造教育方法の開発開発された教育方法の中心的部分は、リアルな事例問題に基づく、法的知識と推論の構造に即した、論争を通じて行う、法創造的法的思考の育成方法である。これを効果的に実現するために、法律知識ベースシステム、論争支援システムおよびソクラティックメソッド支援システムを活用する方法を同時に開発した。4.法創造教育支援システムの開発メタ推論機能を持つ「法律知識ベースシステムLES-8」を開発した。ソクラティックメソッド支援システムの問答集の改訂を行った。仮説の生成検証のための推論機構を実装し、オンライン論争支援システムを完成した。開発した諸システムを教育実践に活用してその意義と今後の研究課題を同定した。以上により法科大学院においても実践的に有効な法創造教育方法が開発された。一年次から最終年次までの一貫したスパイラルな法創造教育を実現すること、そのための研究と実践が課題である。