- 著者
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合場 敬子
- 出版者
- 明治学院大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
プロテストに合格すると、一応一人前のレスラーとなる。その時の自分の体について、自覚的にその変化を捉えているレスラーは少なかった。これは、デビューして数年までは、先輩との厳しい上下関係の中で、日々の雑用や練習に追われてしまい、自分の身体やプロレスのことをあまり考える余裕がない状況にあったからと推測できる。自分の身体のあり方に自覚的になっていたのは、デビューの後、キャリアを積む過程においてであった。多くのレスラーは、女らしい身体とレスラーとして目指す身体を対立するものとして捉えていた。レスラーであることを優先して、そのための身体をまず第一に考え、女らしい身体の獲得をあきらめている。しかし、そのあきらめに悲壮感はない。なぜなら、レスラーとしての身体を持ち、プロレスができることの方が彼女たちにとって重要だからである。プロレスでは、相手も自分の技を受けてくれる、自分も相手の技をうけるという信頼関係が必要である。したがって、プロレスの闘いは相手をとにかく打ち倒すことではないので、レスラーは自分を「強い」と意識することが希薄になっている。レスラーのジェンダー・アイデンティティの核はレスラーになる以前から形成されたように思われる。自分の体をレスラーの体に変容させることは、彼女たちのジェンダー・アイデンティティにはそれほど影響を与えていないと思われる。一方、ファンのジェンダー・アイデンティティへのプロレスの影響も、確認できなかった。多くの男性ファンは、女性として魅力ある身体とレスラーの身体を区別して把握している。多くの女性ファンは自分がなりたい身体のイメージを、自分の好きなレスラーの体型とは別に持っている。多くのファンは、リングを降りた選手に、「女らしさ」を見ている。対称的に、プロレスをしている女子レスラーは、ファンの視点の中では、ジェンダーを越えた存在として捉えられている傾向があった。