著者
半澤 誠司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.296-311, 2018 (Released:2018-05-31)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

本論文では,2020年東京五輪開催によって何が実現されようとしているのかを検討するための準備として,2016年のリオデジャネイロ五輪と2014年のサッカーワールドカップという二つのメガイベントを短期間に開催したリオデジャネイロ市で行われた都市開発について,文献と補完的な現地調査に基づき分析する.オリンピック関連投資資金の調達と使途に関しては,一部の民間企業への利益誘導のかたちで多額の公的資金が,オリンピックの主要地区であり住民に貧困層が少ないバーハ・ダ・チジューカに集中投下されていた.この投資による受益層が限られる一方,多数の貧困層がファベーラから追い出され,そうではないほとんどの住民も少なからず犠牲を強いられた.このような事態は,メガイベントを開催したからこそ引き起こされたというよりも,強度と範囲共に巨大な影響を各所に及ぼすメガイベントによって,既存の政治・経済力学が極端なかたちで露呈したものといえる.
著者
半澤 誠司
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.10, pp.607-633, 2005-09-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
78
被引用文献数
5 7

本稿の目的は,日本の家庭用ビデオゲーム産業について,分業形態を明確化した上で,主に労働市場と取引関係の視点から,その地理的特性を明らかにすることにある.当該産業において,労働者の離職率は全般的に高く,採用では中途者が好まれる.そして,中途者は新卒者よりも,就業先として都区部を好む傾向が強い.一方,多層的取引階層は存在しないが,外注の利用は一般的である.特に一部外注に際しては,迅速な対応が必要となるため,外注先との近接性が重要となる.こうした特性から,地域労働市場の厚みと,一部外注における対面接触の利便性を要因として,産業集積が形成された.しかるに,産業集積を主導する立場にある企業が存在しない上に,企業間の取引階層は浅く,取引関係が固定的なため,集積地域内には互いに独立した取引グループが多数存在している.こうした地理的特性の多くは,ゲーム産業固有の分業形態に規定されているといえる.
著者
半澤 誠司
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.56-70, 2001-12-31
被引用文献数
8

本稿の目的は, 日本のアニメーション産業の特性を把握し, その集積要因を検討することにある.アニメーション産業は, 知識集約的な特徴を持つ, いわゆるコンテンツ産業の一つとみなされることが多いが, 実際の制作工程をみるとむしろ労働集約的な製造業としての側面が強い.作品周期が短く市場予測が難しい上に, 短期間での制作が求められるテレビシリーズアニメーションの開始によって, 1960年代に制作会社の垂直分割が進展し, 各工程に特化した中小零細企業が多数乱立するようになった.この結果として, 各制作会社間の物流と情報交換の利便性を図るために, 産業集積が生まれた.受発注関係はほとんどが東京都内で完結し, その取引内容は工程間で特色の違いがみられる.すなわち, 上位工程に位置する制作会社はさまざまな工程を持ち, 多くの企業から受注を受け, 外注比率も高いのに対し, 下位工程に位置する制作会社は一部工程に専門化し, 受注先が少なく, 外注比率が低い.1990年代におけるグローバル化の進展とデジタル化によって, 分散傾向も一部ではみられるが, アニメーション産業では取引先の能力把握と信頼性の構築が重視され, 人的繋がりから仕事が生じている面が強いので, それを生み出す場としての東京の重要性は大きくは変わらないと考えられる.
著者
半澤 誠司
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.56-70, 2001-12-31 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
3

本稿の目的は, 日本のアニメーション産業の特性を把握し, その集積要因を検討することにある.アニメーション産業は, 知識集約的な特徴を持つ, いわゆるコンテンツ産業の一つとみなされることが多いが, 実際の制作工程をみるとむしろ労働集約的な製造業としての側面が強い.作品周期が短く市場予測が難しい上に, 短期間での制作が求められるテレビシリーズアニメーションの開始によって, 1960年代に制作会社の垂直分割が進展し, 各工程に特化した中小零細企業が多数乱立するようになった.この結果として, 各制作会社間の物流と情報交換の利便性を図るために, 産業集積が生まれた.受発注関係はほとんどが東京都内で完結し, その取引内容は工程間で特色の違いがみられる.すなわち, 上位工程に位置する制作会社はさまざまな工程を持ち, 多くの企業から受注を受け, 外注比率も高いのに対し, 下位工程に位置する制作会社は一部工程に専門化し, 受注先が少なく, 外注比率が低い.1990年代におけるグローバル化の進展とデジタル化によって, 分散傾向も一部ではみられるが, アニメーション産業では取引先の能力把握と信頼性の構築が重視され, 人的繋がりから仕事が生じている面が強いので, それを生み出す場としての東京の重要性は大きくは変わらないと考えられる.
著者
半澤 誠司
出版者
The Human Geographical Society of Japan
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.587-602, 2004-12-28 (Released:2009-04-28)
参考文献数
54
被引用文献数
4 5

アニメーション産業と家庭用ビデオゲーム産業は, 現代日本の最も広く知られた文化産業のうち2つである。両産業は, 高い離職率と東京への集中という共通の特徴を有する。しかし, 詳細な立地や, 労働市場, 企業間関係という点では明らかに違いがある。ゲーム会社に比べてアニメーション会社の立地は, 国単位ではより東京に, 地域単位ではより東京西部に集中する。ゲーム産業の労働者は, 新卒であろうと中途であろうと公募を通じて採用され, 時折深刻な人間関係の悪化があるためしばしば企業間を移動する。逆に, アニメ産業では, 明らかな人間関係の悪化は少ない。アニメの離職者のほとんどは, フリーランサーになるか自分の会社を設立するかして, そうでなければ完全に当該産業から離れる。ゲーム会社は, アニメ会社に比べ取引関係が少なく, 取引先を替える柔軟性も小さい。これらの違いは, 特有の流通システム-アニメ産業における「合法寡占的」テレビキー局と, ゲーム産業におけるプラットフォームホルダーの存在-と特有の制作工程-前者の「ウォーターフォール工程」と後者の「リバイズド工程」-から生じる。それらは, 産業レベルで相互に影響するだけではなく, 個々の企業の行動にも影響を与える。
著者
半澤 誠司
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.587-602, 2004
被引用文献数
5

アニメーション産業と家庭用ビデオゲーム産業は, 現代日本の最も広く知られた文化産業のうち2つである。両産業は, 高い離職率と東京への集中という共通の特徴を有する。しかし, 詳細な立地や, 労働市場, 企業間関係という点では明らかに違いがある。ゲーム会社に比べてアニメーション会社の立地は, 国単位ではより東京に, 地域単位ではより東京西部に集中する。ゲーム産業の労働者は, 新卒であろうと中途であろうと公募を通じて採用され, 時折深刻な人間関係の悪化があるためしばしば企業間を移動する。逆に, アニメ産業では, 明らかな人間関係の悪化は少ない。アニメの離職者のほとんどは, フリーランサーになるか自分の会社を設立するかして, そうでなければ完全に当該産業から離れる。ゲーム会社は, アニメ会社に比べ取引関係が少なく, 取引先を替える柔軟性も小さい。<br>これらの違いは, 特有の流通システム-アニメ産業における「合法寡占的」テレビキー局と, ゲーム産業におけるプラットフォームホルダーの存在-と特有の制作工程-前者の「ウォーターフォール工程」と後者の「リバイズド工程」-から生じる。それらは, 産業レベルで相互に影響するだけではなく, 個々の企業の行動にも影響を与える。