著者
川端 悠士 林 真美 南 秀樹 溝口 桂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1131, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】脳卒中のリハビリテーションにおいては自立歩行獲得までの期間は車椅子が移動手段となる.また重度の障害により歩行獲得が困難と予想される例も少なくなく,その場合には移乗動作獲得・介助量軽減を目的とした理学療法プログラムを施行することとなる.片麻痺患者へ適切な理学療法を提供するためには,早期から正確な目標設定を行うことが重要である.2009年に改定された脳卒中治療ガイドライン2009でも予後を予測しながらリハビリテーションを実施することが推奨されている.片麻痺患者における歩行能力予後に関する報告は多く散見されるが,我々の渉猟範囲では移乗動作能力経過に影響を与える要因を検討した報告は見当たらない.臨床上,下肢の運動麻痺が重度で歩行が困難あっても移乗が自立する症例を経験することは多く,移乗動作能力に影響を与える要因として,歩行能力に関連する要因とは異なる要因が存在することが考えられる.そこで本調査では発症6週後の移乗動作能力に与える発症2週後の患者生物学的要因・機能障害要因について調査することを目的とする.【方法】対象は当院へ入院となり理学療法開始となった脳卒中患者で,テント上に一側性病変を有する初発例107例とした.このうち対象者除外基準(詳細略)に該当する48例を除いた59例を対象とした.移乗動作能力についてはFIM(機能的自立度評価法)を用い,発症6週後における普通型車椅子・ベッド(P-bar設置)間の移乗動作能力を評価した.移乗動作能力の評価にあたっては非麻痺側・麻痺側方向への移乗の両者を評価し,動作能力レベルの低いものを採用した.移乗動作能力経過を予測する要因として以下17項目について前方視的に調査した.性別,年齢,入院前における障害老人の日常生活自立度,診断名,麻痺側の5項目についてはそれぞれ診療録より抽出した.また発症後2週後の機能障害について,SIAS(脳卒中機能評価法)を使用し,麻痺側運動機能(上肢近位・遠位,下肢近位股・近位膝・遠位),体幹機能(腹筋力・垂直性),感覚機能(下肢触覚・位置覚),非麻痺側機能(握力・大腿四頭筋筋力),視空間認知の12項目を評価した.移乗動作能力とその他17項目について,単変量解析(Mann-WhitneyのU検定・Spearmanの順位相関係数)を用いて分析した.単変量解析で移乗動作能力に関連のあった項目を独立変数,移乗動作能力を従属変数としてStepwise法による重回帰分析を行い,移乗動作能力に影響を与える要因を抽出した.なお重回帰分析の実施にあたってはVIF(分散拡大要因)を算出し多重共線性に配慮した.【説明と同意】対象者またはその家族へ本研究の主旨を説明し同意を得た.【結果】対象例59例の移乗動作能力の中央値は5点,独立群22例,監視群6例,介助群31例であった.単変量解析の結果,移乗動作能力と関連のあった項目は,入院前生活自立度・麻痺側下肢運動機能(近位股・近位膝・遠位)・腹筋力・垂直性・下肢触覚・下肢位置覚・握力・大腿四頭筋筋力・視空間認知であった.重回帰分析の結果,移乗動作能力に影響を与える要因として,第1に垂直性,第2に麻痺側股関節運動機能,第3に腹筋力,第4に入院前日常生活自立度が選択され,決定係数R2は0.85となった.各変数のVIF値1.32~4.22の範囲であった.【考察】移乗動作能力経過に影響を与える要因として,体幹機能・麻痺側股関節運動機能・入院前生活自立度が重要であることが明らかとなった.SIASにおける垂直性・腹筋力はそれぞれ前額面・矢状面における座位保持能力の指標である.移乗動作は「座位保持」・「起立」・「立位保持」・「方向転換」・「着座」で構成される動作であり,動作の開始である座位保持の能力が予測要因として重要であると考えられた.また移乗動作能力経過に影響を与える要因として体幹機能の他に,麻痺側股関節の運動機能と入院前の生活自立度が抽出された.麻痺側方向への移乗では方向転換の際,麻痺側下肢を前方へ踏み出す必要があり,移乗動作能力の予測要因として麻痺側股関節の運動機能が重要であると考えられた.さらに入院前の生活自立度が高いほど,非麻痺側機能・動作学習能力が高いと思われ,入院前の生活自立度も移乗動作獲得に影響を与える要因として重要であることが明らかとなった.本研究の限界として調査期間が短いことが挙げられる.今後は多施設共同研究も含めた長期的な前向き調査が必要である.【理学療法学研究としての意義】移乗動作に限定してその能力経過に影響を与える要因を検討した報告は無い.本研究は脳卒中片麻痺患者の移乗動作能力経過を予測する上で臨床的に大きな意義がある.
著者
南 秀樹 加藤 義久 和田 秀樹 岡部 史郎
出版者
日本地球化学会
雑誌
地球化学 (ISSN:03864073)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.85-97, 1995
被引用文献数
7

Four cores, which penetrated into the Holocene, were collected in 1985-1986 from the center to mouth of Lake Hamana, Japan. Sediments were analyzed for the concentrations of organic C, total N, biogenic SiO<sub>2</sub>, Mg, Al, Fe, Mn, V and P. The age of the sediment near the bottom part of each core, which exhibited a higher C/N mole ratio, changed from 11,000 yr B. P. at the mouth to 7,000 yr B. P. at the center part of the lake. This indicated a higher sedimentation of land plants enriched in carbon, which probably took place during a period of high sealevel. After 4,000 yr B. P. in the inner part of the lake there were some distinctive changes in the distributions of elements, as related to their <sup>14</sup>C ages : (1) higher content and large fluctuations in both the sediment, organic carbon and biogenic SiO<sub>2</sub>, and (2) an excess organic carbon over biogenic SiO<sub>2</sub>. Yet, in contrast, the C/N mole ratio&ap;12 remained constant. These observations suggested that an eutrophic and productive lake was formed when the seawater exchange was restricted. The contents of Fe and Mg also increased remarkably after 4,000 yr B. P. These changes are due to increasing of the transport ation of particles, originating from ultra-basic rocks carried by the Miyakoda River in the northern part of the lake. Before this period marine silt was predominantly transported from the Pacific sea side.
著者
溝口 桂 川端 悠士 南 秀樹 田口 昭彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db0573-Db0573, 2012

【はじめに】 糖尿病療養に於ける運動療法の自己効力感(self-efficacy;SE)を高める教育は,運動療法へのアドヒアランスを向上させる為に効果的である.またSEの向上は生活習慣の改善に結びつき糖尿病の治療や予防に有効であるとされている.糖尿病を対象とした運動療法の効果に関しては緒家らにより多く報告されているが,運動療法前後の自己血糖測定(selfmonitoring of blood glucose;SMBG)がSEに与える影響を検討した報告は渉猟の範囲では見当たらない.そこで,今回糖尿病教育目的で入院となった患者に対し,アンケート調査にてSMBGによるSEの有効性を検証し,当院の運動療法効果を立証すると共に考察を得たので報告する.【方法】 2010年7月から11月の間に糖尿病教育目的で入院した20例(男性14名,女性6名)を対象とした.病前から日常生活自立度が低い者(日常生活自立度判定B以下),高度な認知機能の低下によって調査理解困難な者,重篤な合併症(3大合併症,それ以外)を有する者は除外した.介入方法としては対象者をSMBG実施群(以下,介入群:男性8名,女性4名:平均年齢66.1±12.4歳)とSMBG非実施群(以下,コントロール群:男性6名,女性2名:平均年齢58.9±14.3歳)にランダムに割り付け,運動療法後,SEに関するアンケート調査を自己記入式で行った.(使用機器:テルモ株式会社 メディセーフ)運動療法に関しては両群共に同プログラム(ストレッチ等の準備体操・整理体操と主運動:約40分)を実施した.主運動は快適な負荷での自転車エルゴメータとし,運動強度は自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)13レベルとした.身体機能に偏りがないように男女比,年齢,行動変容段階を2群間で比較した.SEの指標には,Marcusらが作成した「運動実施に対する自己効力感」の5項目(天気が良くない時,時間がある時,時間がない時,気分が乗らない時,疲れている時)を用い,運動する自信があるか否かを絶対出来るから(5点)絶対出来ない(1点)の5段階リッカート式尺度で尋ね,その合計(5~20点)で比較した.統計学的解析は介入群,コントロール群の2群間の比較に当たって,男女比の比較にはχ<sup>2</sup>検定,年齢の比較には対応のないt検定,SEの比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には調査の趣旨を説明し,口頭での同意を得た.【結果】 対象者の属性(男女比,年齢差,行動変容段階)に偏りはなく,コントロール群より介入群の方がSEが得られている結果となり,雨(雪)が降っている時,時間にゆとりがある時,疲れている時,そして各項目の合計点で有意差が見られた.またSMBG後は「こんなに変化があるのか」等のコメントも見受けられ,納得した様子の反応もあった【考察】 当院では糖尿病教育患者は4回/日の血糖測定を実施しており,1日の中での血糖値の変化は知る事が出来るが運動療法の効果としての情報とはなっておらず,今回は運動療法の効果を血糖値の変化と言う視覚的な情報を追加し体感した為,理解が深まり活動性を維持・向上させる可能性が示唆された.SEとは「ある結果を生み出す為に必要な行動を,どの程度うまく行うことが出来るかと言う個人の確信の程度」を表すもので,行動変容を促す際に重要な視点となるとされている.努力すれば自分もここまで出来ると言う自信や意欲を高める為に,4つの情報源(達成体験,代理体験,言語的説得,生理的・情動的喚起)を通し生み出されるものであると考えられており,SMBGによって情報源の1つである生理的・情動的喚起に働きかけが出来た事が示唆された.生活習慣を望ましい方向に変容させる介入を行う際,より効果が得られる情報源を中心に取り入れ,積極的に働きかけを行う事が推奨されている.井澤らは,患者の主観的健康度・機能状態(健康関連QOL)の向上を目指した運動療法の方法論を構築していく際に,身体活動自己効力感に着目する事は重要な視点となるとしており,今後も継続して行きたいと考えている.しかしSEへの働きかけは退院後の活動性の向上が期待されるが,本研究の限界としてあくまでも短期的な効果であり,長期的な効果は未検討のままである.今後は,HbA1c等をパラメータに加え長期的な治療効果を検証する予定である.【理学療法学研究としての意義】 本研究にて運動療法前後のSMBGによってSEの改善が得られる事が明らかとなった.入院期間短縮の風潮もあり早期退院となり,退院後に活動性が消極的になる事が報告されているが,運動療法の意義の理解により活動性継続・向上が期待される.また生活習慣,行動変容の段階の変化にもSEが要因に挙げられており,それらの改善も期待される.