著者
川端 悠士 澄川 泰弘 林 真美 武市 理史 後藤 圭太 藤森 里美 小原 成美
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.41, no.6, pp.347-354, 2014-10-20 (Released:2017-06-13)
被引用文献数
2

【目的】大腿骨近位部骨折例における杖歩行の可否,歩行速度に影響を与える要因をあきらかにすることとした。【方法】対象は大腿骨近位部骨折術例104例とし,1本杖を使用して50m連続歩行が可能か否かで歩行可能群61例,介助群43例に分類した。調査項目は年齢,性別,身長,骨折型,術後経過日数とし,測定項目は健患側等尺性股関節外転筋力,健患側等尺性膝関節伸展筋力,疼痛,脚長差,10m歩行速度とした。多重ロジスティック回帰分析および重回帰分析を使用して杖歩行の可否,歩行速度に影響を与える要因を検討した。【結果】杖歩行の可否に影響を与える要因として患側股関節外転筋力と疼痛が(正判別率74.0%),歩行速度に影響を与える要因として患側膝関節伸展筋力と年齢が抽出された(決定係数:0.48)。【結論】杖歩行の可否を決定する要因と歩行速度を決定する要因は異なり,杖歩行獲得には患側股関節外転筋力の向上と疼痛の軽減が,歩行速度向上には患側膝関節伸展筋力の向上が必要と考えられた。
著者
川端 悠士 竹原 有紀 三浦 千花子 小川 浩司
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11508, (Released:2019-04-17)
参考文献数
50

【目的】大腿骨転子部骨折例における骨折型,小転子骨片転位の有無が術後4 週の短期的な運動機能に与える影響を明らかにすること。【方法】対象は転子部骨折例95 例とした。運動機能として術後4 週の安静時痛・荷重時痛,関節可動域(患側股屈曲・伸展・外転,患側膝屈曲),筋力(健患側股外転,健患側膝伸展),歩行能力を評価した。従属変数を運動機能,独立変数を骨折型・小転子骨片転位の有無,共変量を年齢・受傷前の自立度・認知症の程度等として共分散分析を行い,骨折型・小転子骨片転位の有無が術後の運動機能に与える影響を検討した。【結果】骨折型と有意な関連を認めた運動機能は荷重時痛,患側股屈曲・膝屈曲可動域,患側股外転筋力,健患側膝伸展筋力,歩行能力であった。また小転子骨片転位と有意な関連を認めた運動機能は歩行能力であった。【結論】不安定型骨折例および小転子骨片転位例は,術後4 週の短期的な運動機能が不良であることが明らかとなった。
著者
川端 悠士 小川 浩司
出版者
一般社団法人 山口県理学療法士会
雑誌
理学療法やまぐち (ISSN:27583945)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.4-10, 2023-02-28 (Released:2023-03-06)
参考文献数
33

【目的】大腿骨転子部骨折例における歩行能力に影響を与える要因は,骨折型によって異なるのか否かを明らかにすることとする。【方法】対象は大腿骨転子部骨折例95例とし,骨折型によって安定型47例,不安定型48例に分類した。調査項目は年齢,性別,受傷前の自立度,認知症高齢者の自立度,骨折型,術式とした。また術後4週における疼痛,脚長差,関節可動域,筋力,杖歩行の可否を調査した。骨折型別に,従属変数を杖歩行の可否,その他調査項目を独立変数として二項ロジスティック回帰分析を実施した。【結果】ロジスティック回帰分析の結果,杖歩行の可否に影響を与える要因として,安定型骨折では受傷前の自立度と術側膝伸展筋力が,不安定型骨折では術側股外転筋力が抽出された。【結論】骨折型によって杖歩行の可否に影響を与える要因は異なり,安定型では術側膝伸展筋力の向上を,不安定型では術側股外転筋力の向上を図ることが重要と考えられる。
著者
川端 悠士 狩又 祐太
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.486-492, 2016 (Released:2016-12-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

【目的】THA 例に対する漸減的な補高挿入が,PLLD 軽減に有用か否かを明らかにすることとした。【方法】対象は初回片側人工股関節全置換術を施行した6 例とした。研究デザインはAB デザインによる被検者間マルチベースラインデザインとし,独立変数を補高挿入の有無,従属変数をPLLD とした。A 期には関節可動域運動・筋力強化運動・歩行練習といった通常の理学療法を実施した。B 期にはA 期の運動療法に加え,PLLD 値と同一の厚さの補高を挿入し歩行練習を実施した。6 例を術後3~9日をA期とし術後10 ~30 日をB 期とする2 例,術後3~16日をA 期とし術後17 ~30 日をB 期とする2 例,術後3~23日をA期とし術後24 ~30 日をB 期とする2 例に無作為に割りつけた。【結果】ランダマイゼーション検定の結果,A 期に比較してB 期におけるPLLD の減少が有意に大きかった。【結論】PLLD を有するTHA 例における補高使用の有用性が示唆された。
著者
川端 悠士 木村 光浩
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.37-45, 2021 (Released:2021-02-19)
参考文献数
29

【目的】人工股関節全置換術例の術後3 週における靴下着脱動作獲得に影響を与える要因を明らかにすること。【方法】対象は後方アプローチによる人工股関節全置換術を施行した115 例とした。調査項目は性別,年齢,関節可動域(股関節屈曲・伸展・内転・外転・外旋,膝関節屈曲,胸椎屈曲,腰椎屈曲),股関節屈曲・開排位における靴下着脱動作の可否とした。従属変数を靴下着脱動作の可否,独立変数を関節可動域として,決定木分析を行った。【結果】決定木分析の結果,靴下着脱動作獲得に影響を与える要因として,股関節屈曲・外旋可動域,胸椎屈曲可動域が抽出された。また股関節屈曲可動域が不良であっても,股関節外旋可動域および胸椎屈曲可動域が良好であれば,高い確率で靴下着脱動作が可能となることが明らかとなった。【結論】人工股関節全置換術後早期の靴下着脱動作獲得には,股関節屈曲・外旋可動域,胸椎屈曲可動域の改善が重要である。
著者
川端 悠士 竹原 有紀 三浦 千花子 小川 浩司
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.152-161, 2019 (Released:2019-06-20)
参考文献数
50

【目的】大腿骨転子部骨折例における骨折型,小転子骨片転位の有無が術後4 週の短期的な運動機能に与える影響を明らかにすること。【方法】対象は転子部骨折例95 例とした。運動機能として術後4 週の安静時痛・荷重時痛,関節可動域(患側股屈曲・伸展・外転,患側膝屈曲),筋力(健患側股外転,健患側膝伸展),歩行能力を評価した。従属変数を運動機能,独立変数を骨折型・小転子骨片転位の有無,共変量を年齢・受傷前の自立度・認知症の程度等として共分散分析を行い,骨折型・小転子骨片転位の有無が術後の運動機能に与える影響を検討した。【結果】骨折型と有意な関連を認めた運動機能は荷重時痛,患側股屈曲・膝屈曲可動域,患側股外転筋力,健患側膝伸展筋力,歩行能力であった。また小転子骨片転位と有意な関連を認めた運動機能は歩行能力であった。【結論】不安定型骨折例および小転子骨片転位例は,術後4 週の短期的な運動機能が不良であることが明らかとなった。
著者
川端 悠士 日浦 雅則
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.441-445, 2008 (Released:2008-07-28)
参考文献数
22
被引用文献数
4 13

〔目的〕下肢の筋力低下は高齢者の転倒のリスク要因の1つに挙げられる。CS-30(30-seconds chair-stand test)は簡便な下肢筋力評価法として近年広く使用されているが,CS-30と転倒との関係についての報告は少ない。本調査では転倒予測テストとしてのCS-30の有用性を検討することを目的とした。〔対象と方法〕地域在住高齢者135例を対象にCS-30を行い,転倒歴との関連を調査した。〔結果〕CS-30のROC曲線を作成した結果,最も統計学的に有効なcut-off値は14.5回であった。また転倒歴を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析により,算出したcut-off値の妥当性が確認された。得られたcut-off値14.5回における転倒予測の感度は88%,特異度は70%を示し, AUCも85.2%と高値を示した。〔結語〕これらの結果からCS-30の転倒予測テストとしての有用性が示唆された。
著者
川端 悠士 木村 光浩
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11859, (Released:2020-10-06)
参考文献数
29

【目的】人工股関節全置換術例の術後3 週における靴下着脱動作獲得に影響を与える要因を明らかにすること。【方法】対象は後方アプローチによる人工股関節全置換術を施行した115 例とした。調査項目は性別,年齢,関節可動域(股関節屈曲・伸展・内転・外転・外旋,膝関節屈曲,胸椎屈曲,腰椎屈曲),股関節屈曲・開排位における靴下着脱動作の可否とした。従属変数を靴下着脱動作の可否,独立変数を関節可動域として,決定木分析を行った。【結果】決定木分析の結果,靴下着脱動作獲得に影響を与える要因として,股関節屈曲・外旋可動域,胸椎屈曲可動域が抽出された。また股関節屈曲可動域が不良であっても,股関節外旋可動域および胸椎屈曲可動域が良好であれば,高い確率で靴下着脱動作が可能となることが明らかとなった。【結論】人工股関節全置換術後早期の靴下着脱動作獲得には,股関節屈曲・外旋可動域,胸椎屈曲可動域の改善が重要である。
著者
澄川泰弘 川端悠士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【目的】人工膝関節置換術は手術手技の進歩やインプラントデザインの改良に伴い,安定した術後成績が得られるようになっており,大部分の症例が術後早期に自立歩行が可能となる。しかしながら自立歩行を獲得しても歩行遊脚期に膝関節屈曲角度が減少する歩行パターン(Stiff knee gait;SKG)を呈する症例は少なくない。遊脚期における膝関節屈曲運動の低下は,足クリアランス低下に伴う躓きや,骨盤挙上運動等の代償動作の原因となる。また長期的なインプラントの耐久性を考慮してもdouble knee actionによる衝撃吸収機構の再建が重要となる。膝関節術後例を対象とした先行研究では,荷重応答期における膝関節運動については多く検討されているが,歩行時の膝関節運動範囲について検討した報告は少ない。また片麻痺例・脳性麻痺例を対象としたSKGに関する報告は散見されるが,人工膝関節置換術後例ではその背景が異なる。そこで本研究では人工膝関節置換術後例の歩行時膝関節運動範囲に関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を施行した症例で,退院時に杖歩行が可能な22例(全置換術19例・単顆置換術3例,術後経過日数28.91±8.4日)とし,中枢神経系障害の既往を有する例は対象から除外した。歩行時膝関節角度の測定は術側の大腿骨大転子,膝関節裂隙,脛骨外果をマーキングした後にデジタルカメラを使用して矢状面から動画(30fps)を撮影した。歩行速度は対象者の快適歩行速度とし,1度の動画撮影において3歩行周期を記録した。動画データはMotion Analysis Toolsを使用して静止画から膝関節角度を測定,1歩行周期から膝関節最大屈曲・伸展角度,前遊脚期(Psw)および遊脚初期(Isw)における屈曲角度を抽出し, また運動範囲(最大屈曲-最大伸展)を求め3歩行周期における平均値を代表値とした。膝関節可動域はゴニオメーターを使用して膝関節屈曲および伸展可動域を測定した。下肢筋力は膝関節伸展筋力をHand Held Dynamometerを使用し,3回の測定における最大値を代表値とした。膝関節機能評価には日本語版WOMACを使用して術前と退院時に評価を実施,また疼痛項目を抽出し疼痛評価とした。基本的情報として性別,年齢,体重,身長,BMI,術前・術中可動域および使用機種はカルテより抽出した。一標本t検定を用いて人工膝関節置換術後例の運動範囲を先行研究における健常例のデータと比較した。次に運動範囲と基本的情報および各測定項目におけるデータの関連性についてSpearmannの順位相関係数を用いて検討した。統計学的解析にはSPSSを使用し有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言ならびに臨床研究に関する倫理指針に則って行った。対象には研究の趣旨を説明し同意を得た。得られたデータは匿名化し個人情報管理に留意した。【結果】人工膝関節置換術後例の歩行時膝関節運動範囲は44.48±8.9であり健常例データ59.6±18.4に比較して有意に低値を示した(p<0.01).運動範囲に関連する因子として術前屈曲可動域rs=0.57(p<0.01),術中可動域rs=0.46(p=0.03),術後屈曲可動域rs=0.44(p=0.04),術後伸展可動域rs=0.44(p=0.04),歩行時最大屈曲角度rs=0.71(p<0.01),歩行時最大伸展角度rs=-0.49(p=0.02),Iswにおける膝関節屈曲角度rs=0.51(p=0.01)に有意な相関関係を認めた。【考察】本研究結果から人工膝関節置換術後例では歩行時における膝関節運動範囲は狭小化していることが明らかとなった。運動範囲の狭小化には疼痛に伴う膝関節周囲筋の防御性収縮や術前の学習された歩行様式の残存が考えられる。また術前・術中・術後の屈曲可動域,術後伸展可動域,Iswにおける膝関節屈曲角度が膝関節運動範囲に関連する要因として重要であることが明らかとなった。運動範囲の拡大にはまず膝関節屈曲・伸展可動域を拡大する必要があると考えられた。また遊脚期における膝関節屈曲角度にはPsw・Iswにおける円滑な膝関節屈曲運動が必要とされるが,膝関節運動範囲とPswにおける屈曲角度には有意な関連は認めず,Iswにおける屈曲角度のみと有意な関連を認めたことから,人工膝関節置換術後例においてはPswにおける円滑な前足部荷重へと移行できず,Iswで努力的に屈曲運動を行っていることが推測される。よってSKG改善にあたってはPswにおける膝関節屈曲角度を改善する必要があると考えられる。Pswにおける膝関節屈曲角度減少には膝関節のみならず股関節・足関節の関節運動の影響も大きいと考えられ,今後は多関節における運動分析を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究はSKG改善を目的とした運動療法を展開する上での一助になると考えられ,非常に意義深い理学療法研究であると考えられる。
著者
川端 悠士 林 真美 南 秀樹 溝口 桂
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.BbPI1131, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】脳卒中のリハビリテーションにおいては自立歩行獲得までの期間は車椅子が移動手段となる.また重度の障害により歩行獲得が困難と予想される例も少なくなく,その場合には移乗動作獲得・介助量軽減を目的とした理学療法プログラムを施行することとなる.片麻痺患者へ適切な理学療法を提供するためには,早期から正確な目標設定を行うことが重要である.2009年に改定された脳卒中治療ガイドライン2009でも予後を予測しながらリハビリテーションを実施することが推奨されている.片麻痺患者における歩行能力予後に関する報告は多く散見されるが,我々の渉猟範囲では移乗動作能力経過に影響を与える要因を検討した報告は見当たらない.臨床上,下肢の運動麻痺が重度で歩行が困難あっても移乗が自立する症例を経験することは多く,移乗動作能力に影響を与える要因として,歩行能力に関連する要因とは異なる要因が存在することが考えられる.そこで本調査では発症6週後の移乗動作能力に与える発症2週後の患者生物学的要因・機能障害要因について調査することを目的とする.【方法】対象は当院へ入院となり理学療法開始となった脳卒中患者で,テント上に一側性病変を有する初発例107例とした.このうち対象者除外基準(詳細略)に該当する48例を除いた59例を対象とした.移乗動作能力についてはFIM(機能的自立度評価法)を用い,発症6週後における普通型車椅子・ベッド(P-bar設置)間の移乗動作能力を評価した.移乗動作能力の評価にあたっては非麻痺側・麻痺側方向への移乗の両者を評価し,動作能力レベルの低いものを採用した.移乗動作能力経過を予測する要因として以下17項目について前方視的に調査した.性別,年齢,入院前における障害老人の日常生活自立度,診断名,麻痺側の5項目についてはそれぞれ診療録より抽出した.また発症後2週後の機能障害について,SIAS(脳卒中機能評価法)を使用し,麻痺側運動機能(上肢近位・遠位,下肢近位股・近位膝・遠位),体幹機能(腹筋力・垂直性),感覚機能(下肢触覚・位置覚),非麻痺側機能(握力・大腿四頭筋筋力),視空間認知の12項目を評価した.移乗動作能力とその他17項目について,単変量解析(Mann-WhitneyのU検定・Spearmanの順位相関係数)を用いて分析した.単変量解析で移乗動作能力に関連のあった項目を独立変数,移乗動作能力を従属変数としてStepwise法による重回帰分析を行い,移乗動作能力に影響を与える要因を抽出した.なお重回帰分析の実施にあたってはVIF(分散拡大要因)を算出し多重共線性に配慮した.【説明と同意】対象者またはその家族へ本研究の主旨を説明し同意を得た.【結果】対象例59例の移乗動作能力の中央値は5点,独立群22例,監視群6例,介助群31例であった.単変量解析の結果,移乗動作能力と関連のあった項目は,入院前生活自立度・麻痺側下肢運動機能(近位股・近位膝・遠位)・腹筋力・垂直性・下肢触覚・下肢位置覚・握力・大腿四頭筋筋力・視空間認知であった.重回帰分析の結果,移乗動作能力に影響を与える要因として,第1に垂直性,第2に麻痺側股関節運動機能,第3に腹筋力,第4に入院前日常生活自立度が選択され,決定係数R2は0.85となった.各変数のVIF値1.32~4.22の範囲であった.【考察】移乗動作能力経過に影響を与える要因として,体幹機能・麻痺側股関節運動機能・入院前生活自立度が重要であることが明らかとなった.SIASにおける垂直性・腹筋力はそれぞれ前額面・矢状面における座位保持能力の指標である.移乗動作は「座位保持」・「起立」・「立位保持」・「方向転換」・「着座」で構成される動作であり,動作の開始である座位保持の能力が予測要因として重要であると考えられた.また移乗動作能力経過に影響を与える要因として体幹機能の他に,麻痺側股関節の運動機能と入院前の生活自立度が抽出された.麻痺側方向への移乗では方向転換の際,麻痺側下肢を前方へ踏み出す必要があり,移乗動作能力の予測要因として麻痺側股関節の運動機能が重要であると考えられた.さらに入院前の生活自立度が高いほど,非麻痺側機能・動作学習能力が高いと思われ,入院前の生活自立度も移乗動作獲得に影響を与える要因として重要であることが明らかとなった.本研究の限界として調査期間が短いことが挙げられる.今後は多施設共同研究も含めた長期的な前向き調査が必要である.【理学療法学研究としての意義】移乗動作に限定してその能力経過に影響を与える要因を検討した報告は無い.本研究は脳卒中片麻痺患者の移乗動作能力経過を予測する上で臨床的に大きな意義がある.
著者
溝口 桂 川端 悠士 南 秀樹 田口 昭彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db0573-Db0573, 2012

【はじめに】 糖尿病療養に於ける運動療法の自己効力感(self-efficacy;SE)を高める教育は,運動療法へのアドヒアランスを向上させる為に効果的である.またSEの向上は生活習慣の改善に結びつき糖尿病の治療や予防に有効であるとされている.糖尿病を対象とした運動療法の効果に関しては緒家らにより多く報告されているが,運動療法前後の自己血糖測定(selfmonitoring of blood glucose;SMBG)がSEに与える影響を検討した報告は渉猟の範囲では見当たらない.そこで,今回糖尿病教育目的で入院となった患者に対し,アンケート調査にてSMBGによるSEの有効性を検証し,当院の運動療法効果を立証すると共に考察を得たので報告する.【方法】 2010年7月から11月の間に糖尿病教育目的で入院した20例(男性14名,女性6名)を対象とした.病前から日常生活自立度が低い者(日常生活自立度判定B以下),高度な認知機能の低下によって調査理解困難な者,重篤な合併症(3大合併症,それ以外)を有する者は除外した.介入方法としては対象者をSMBG実施群(以下,介入群:男性8名,女性4名:平均年齢66.1±12.4歳)とSMBG非実施群(以下,コントロール群:男性6名,女性2名:平均年齢58.9±14.3歳)にランダムに割り付け,運動療法後,SEに関するアンケート調査を自己記入式で行った.(使用機器:テルモ株式会社 メディセーフ)運動療法に関しては両群共に同プログラム(ストレッチ等の準備体操・整理体操と主運動:約40分)を実施した.主運動は快適な負荷での自転車エルゴメータとし,運動強度は自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)13レベルとした.身体機能に偏りがないように男女比,年齢,行動変容段階を2群間で比較した.SEの指標には,Marcusらが作成した「運動実施に対する自己効力感」の5項目(天気が良くない時,時間がある時,時間がない時,気分が乗らない時,疲れている時)を用い,運動する自信があるか否かを絶対出来るから(5点)絶対出来ない(1点)の5段階リッカート式尺度で尋ね,その合計(5~20点)で比較した.統計学的解析は介入群,コントロール群の2群間の比較に当たって,男女比の比較にはχ<sup>2</sup>検定,年齢の比較には対応のないt検定,SEの比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.いずれの検定も統計学的有意水準は5%未満とした.【説明と同意】 対象者には調査の趣旨を説明し,口頭での同意を得た.【結果】 対象者の属性(男女比,年齢差,行動変容段階)に偏りはなく,コントロール群より介入群の方がSEが得られている結果となり,雨(雪)が降っている時,時間にゆとりがある時,疲れている時,そして各項目の合計点で有意差が見られた.またSMBG後は「こんなに変化があるのか」等のコメントも見受けられ,納得した様子の反応もあった【考察】 当院では糖尿病教育患者は4回/日の血糖測定を実施しており,1日の中での血糖値の変化は知る事が出来るが運動療法の効果としての情報とはなっておらず,今回は運動療法の効果を血糖値の変化と言う視覚的な情報を追加し体感した為,理解が深まり活動性を維持・向上させる可能性が示唆された.SEとは「ある結果を生み出す為に必要な行動を,どの程度うまく行うことが出来るかと言う個人の確信の程度」を表すもので,行動変容を促す際に重要な視点となるとされている.努力すれば自分もここまで出来ると言う自信や意欲を高める為に,4つの情報源(達成体験,代理体験,言語的説得,生理的・情動的喚起)を通し生み出されるものであると考えられており,SMBGによって情報源の1つである生理的・情動的喚起に働きかけが出来た事が示唆された.生活習慣を望ましい方向に変容させる介入を行う際,より効果が得られる情報源を中心に取り入れ,積極的に働きかけを行う事が推奨されている.井澤らは,患者の主観的健康度・機能状態(健康関連QOL)の向上を目指した運動療法の方法論を構築していく際に,身体活動自己効力感に着目する事は重要な視点となるとしており,今後も継続して行きたいと考えている.しかしSEへの働きかけは退院後の活動性の向上が期待されるが,本研究の限界としてあくまでも短期的な効果であり,長期的な効果は未検討のままである.今後は,HbA1c等をパラメータに加え長期的な治療効果を検証する予定である.【理学療法学研究としての意義】 本研究にて運動療法前後のSMBGによってSEの改善が得られる事が明らかとなった.入院期間短縮の風潮もあり早期退院となり,退院後に活動性が消極的になる事が報告されているが,運動療法の意義の理解により活動性継続・向上が期待される.また生活習慣,行動変容の段階の変化にもSEが要因に挙げられており,それらの改善も期待される.