著者
黒川 洵子 古川 哲史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.4, pp.273-279, 2005 (Released:2005-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
3 3

心筋細胞における外向きカリウム電流は活動電位の再分極に寄与する.外向きカリウム電流である遅延整流性カリウムチャネルは瞬時活性型IKrチャネルと緩徐活性型IKsチャネルからなり,IKsチャネルはKCNQ1遺伝子とKCNE1(minK)遺伝子によりコードされる.IKsチャネルの遺伝子異常により活動電位の再分極が遅延し,致死性不整脈を特徴とする家族性QT延長症候群(LQT1)がひき起こされる.IKsチャネルは種々の細胞内情報伝達システムによる制御を受け,これがQT延長症候群での不整脈発現のトリガー因子などの病態発現にも影響を与えることが指摘されてきた.本稿では,近年報告されたcAMPと一酸化窒素(NO)によるIKsチャネル調節の分子メカニズムを取り挙げ,臨床的結果との関連を議論する.チャネル分子複合体を介したcAMPによる調節では,運動時(マラソン・水泳など)・情動的興奮時などの交感神経系の賦活化がLQT1における不整脈を高頻度で誘発することに関与することが示唆された.また,男性ホルモンが膜上アンドロゲン受容体を介して産生されるNOによりIKsチャネルを調節し,QT延長症候群における不整脈発作の男女差との関連が示唆された.QT延長症候群に関わるイオンチャネルの細胞内情報伝達による機能調節と病態発現の関与がさらに検討されていくことにより,今後個別化医療・性差医療などのより精度の高い予防・治療戦略を立てることが可能となることが期待される.
著者
古川 哲史
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.24-28, 2012 (Released:2015-06-18)
参考文献数
3
著者
古川 哲史 黒川 洵子 白 長喜
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.147, no.3, pp.152-156, 2016 (Released:2016-03-10)
参考文献数
8

薬用人参は最もポピュラーな生薬の1つであり,東洋医学では不老長寿の薬・万能薬として使われている.その主成分はステロールサポニン(ginsenoside)であり,薬理作用としては免疫賦活作用,抗がん作用,血管拡張作用などが知られているが,その作用機序の詳細は不明である.我々は,薬用人参の心血管系に対する作用を検討した.薬用人参は,急性作用として心筋活動電位持続時間を短縮し,細胞内カルシウム濃度を低下させることで心血管系保護作用を示す.薬用人参成分の中で,ginsenoside Reが主な作用成分であった.コントロール状態では,緩徐活性化遅延整流性カリウム電流(IKs)を活性化し,交感神経刺激状態ではL型カルシウム電流(ICaL)を抑制することにより活動電位持続時間を短縮した.IKs活性化,ICaL抑制とも一酸化窒素(NO)依存性であるが,その機序は異なっていた.IKs活性化は,IKsチャネルαサブユニットKCNQ1のニトロシル化,ICaL抑制は交感神経刺激により産生されたcAMPの分解の促進によりもたらされた.NO産生源は3型NO合成酵素(NOS3,別名eNOS)であり,eNOS活性化はカルシウム非依存性であり,リン酸化酵素Akt依存性であった.Aktの活性化は,性ホルモン受容体であるエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体を介して行われた.Ginsenoside Reはエストロゲン受容体,アンドロゲン受容体,プロゲステロン受容体に直接結合するが,コアクチベーターの結合を起こさないために,ゲノム作用を示さなかった.以上から,薬用人参のステロールサポニンginsenoside Reは性ホルモン受容体非ゲノム作用の特異的リガンドとして心血管保護作用を示すことが明らかとなった.
著者
古川 哲史
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.122, no.5, pp.375-383, 2003 (Released:2003-10-21)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

Na+チャネル·Ca2+チャネルなどの陽イオンチャネルに比べて,Cl−チャネルの細胞機能に果たす役割は今まであまり注目されていなかった.近年,数多くのCl−チャネルcDNAのクローニング,ヒト遺伝性疾患の原因遺伝子として複数のCl−チャネル遺伝子の同定,ノックアウトマウスの解析,Cl−チャネルタンパク質結晶のX線構造解析,タンパク質相互作用によるCl−チャネル制御など,Cl−チャネルに関して画期的な研究成果が相次いで発表された.細胞内膜Cl−チャネルは細胞内小胞の酸性化に重要であり,ClC-5は腎尿細管で低分子タンパク質の再吸収に関与し,ClC-7は破骨細胞osteoclastの骨基質吸収に関与する.これらの異常はそれぞれタンパク尿と腎結石を主徴とするDent病·骨過形成を主徴とする骨化石症osteopetrosisをもたらす.細胞表面膜Cl−チャネルのClC-K1,ClC-K2,ClC-3Bは上皮細胞に特異的に発現し,一方向性Cl−輸送に関与する.これらの異常もヒト疾患と関連しており,ClC-K1の異常は尿崩症,ClC-K2の異常はBartter症候群をもたらす.
著者
古川 哲史
出版者
Japan Association for African Studies
雑誌
アフリカ研究 (ISSN:00654140)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.72, pp.75-81, 2008-03-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
32
被引用文献数
1 1

近年, 日本-アフリカ交渉史に関する研究は, 日本やアフリカ, 欧米諸国などの研究者によって増えつつある。しかし, 歴史学的な観点から見ると, 未開拓な分野, 着手されていないテーマはまだ多い。私は今まで1920年代-30年代の日本とアフリカの交渉史に焦点を当ててきたが, 本稿ではまず私自身のアフリカや本テーマとの係わりを述べる。それは, その事例自体が, 日本人のアフリカへの係わりの時代的諸相の一側面を反映していると思われるからである。次に, 先行研究を概観し, 時代区分の問題や対象地域への視座の問題を論じる。そして, 私自身も未検討な, あるいは推測の域を出ていない事柄も含めて, 今後の研究課題としていくつかの問題を提示する。最後に, 日本-アフリカ交渉史研究における方法論的枠組みのさらなる議論や, 国際的かつ学際的な共同研究の必要性を指摘する。
著者
古川 哲史
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

薬物の心毒性は、創薬の開発中止・市販薬のリコールの重要な原因となっており、そのアッセイ系、特に開発早期段階のin vitroアッセイ系の確立は製薬業界から大きな期待が寄せられている。今回、多電極アレイ(MEA)システムとソニー株式会社が開発した動くベクトル(MVP)法を用いて、心筋細胞の電気活動と収縮能を同時にアッセイするシステムを構築した。ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて、陽性・陰性変力作用をもつ既存薬の作用を高精度にアッセイできることを確認した。最近抗がん剤の心毒性が問題となっているが、同心毒性をin vitroでアッセイすることができた。
著者
平岡 昌和 古川 哲史 平野 裕司
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

HERG Kチャネルは心筋の再分極に重要な役割を果たすIkr電流をコードし、また最近QT延長症候群の一つ・LQT2の原因遺伝子であることが判明した。さらに、多くの薬物によっても抑制されることから薬物誘発性QT延長の原因ともなりやすい。そこで、我が国のLQT2家系に認められたHERG Kチャネル遺伝子の機能解析を中心にその抑制機序を検討した。T474I(I-II linker),A614V,V630L(チャネル外孔部)について卵母細胞にて発現実験を行うと、変異種単独では電流を発現せず、野生型との共発現でその機能を抑制するdominant negative suppression(DNS)を認め、A614VとV630Lではさらに不活性化の促進から強い電流抑制を呈した。電位センサーに位置するS4のR534C変異では、単独では小さな電流しか発現しなかったが、野生型との共発現ではDNSを示さなかった。発現電流では活性化曲線のシフトが見られ、S4が電位センサーとして働くことを始めて明らかにした。この変位での電流抑制機序は脱活性化の促進のみでQT延長を来す十分な説明とはならず、未知の抑制機序の関与が考えられたが、調節因子との会合不全を示す所見は得られなかった。HERGのC端側のS818L変異は、単独では電流を発現せず、野生型と変異型cRNAを1:1で混合注入による共発現では電流を発現し、しかもDNSを示さなかった。ところが、変異種を増量した割合で共発現させると、明らかなをDNSが見られ、電流活性化曲線はマイナス側にシフトし、活性化・脱活性化が促進された。これらの結果から、S818L変異は野生型と会合して膜に到達して機能的なチャネルを形成すること、HERGのC端側が一部電流の活性化にも関与しうることが示唆された。このようにHERGの変異部位によって異なる電流抑制機序を発揮し、それはこのチャネルの機能-構造相関にも有意義な情報をもたらした。これいがいに、アシドージスやエストロゲン、抗不整脈薬のシベンゾリンによるこのチャネル抑制機序を明らかにした。