著者
小林 薫
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
pp.JJMU.R.78, (Released:2016-04-04)
参考文献数
20

甲状腺の偶発腫瘤(腫瘍)の発見が増加しつつある.有病率がかなり高いものであり,超音波,CT,MR,PET検査,胸部レントゲン撮影,頸動脈エコーの施行時に甲状腺の腫瘍が偶発的にみつかっている.甲状腺腫瘤に対して良性悪性の鑑別が最重要であり,超音波診断基準を適用して超音波の診断を行う.次に細胞診施行の適応を考慮する.超音波診断において,良性でかつ小さい結節は細胞診を省略して,そのまま経過観察にする.それ以外は細胞診を施行する.その上で手術か経過観察かを決定する.超音波検査では悪性腫瘍,とくに乳頭癌を見逃さないことが重要である.乳頭癌の大部分は典型的画像を示すので診断は容易である.乳頭癌と診断されるときは頸部リンパ節転移の検出が必要である.微小乳頭癌がみつかる機会が増えている.それを高リスクと低リスクに分類し,低リスクの微小乳頭癌は手術を行わず経過観察を推奨しており,その結果は十分に満足できるものである.良性腫瘍の大部分は手術を行わず経過観察にする.一部に手術適応がありうる.一般病院の対応としてはどの時点で専門の施設に紹介するべきかを決定する必要がある.
著者
中村 亮一
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
pp.JJMU.R.92, (Released:2016-11-08)
参考文献数
31

近年の外科手術は最小侵襲での精密治療の実現を目指している.精密で安全な手術を遂行する上で最も重要な事項の一つは対象を視認することである.術野確認の困難な低侵襲手術において医用画像による治療対象認識は重要であり,医用画像情報を術中に積極的に応用する技術が必須である.手術ナビゲーションは解剖と位置の正確な客観情報により手術を支援し安全性を向上させるために目標部位への術具の誘導を行うシステムである.脳神経外科を始め様々な領域で応用されるナビゲーションシステムの課題は術中の軟性臓器の変形・移動への対応であり,「最新の地図」を術中に獲得し誘導情報を更新することが重要である.超音波診断画像は,特別な設備を必要とせず,術中に簡便に利用でき,撮像の時間分解能もMRIやCTなどに比べて高い特徴から術中画像誘導において最も有用性が期待されるデバイスである.超音波画像による精緻な手術ナビゲーションとして2次元画像を用いた多くの方法が登場したほか,我々は3D超音波による胎児内視鏡外科ナビゲーション,そしてこれを腹部一般外科に応用する等張液灌流式内視鏡外科手術と3D超音波ナビゲーションの開発を進めている.精緻さと安全性を担保した画像誘導下低侵襲手術において超音波はその中心となるモダリティであり,その応用に向け医学・工学双方向のシーズ・ニーズ連携による術式と支援技術の革新が求められている.
著者
上田 優輔 廣瀬 雅哉 伊藤 拓馬 安本 晃司 川口 浩実 宗重 彰 中島 正敬
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.593-597, 2016 (Released:2016-07-19)
参考文献数
24

妊娠中のuterine synechiaは,一般的に子宮腔を横切る索状構造物を同定することにより診断に至る.今回,妊娠中期に内子宮口付近に現れた嚢胞性病変を契機としてuterine synechiaと診断した症例を経験した.26歳の初産婦が,妊娠26週0日に初めて,経腟超音波検査上,68×44 mmの嚢胞性病変を内子宮口付近に認めた.妊娠30週5日のmagnetic resonance imagingで頭尾側が丸く中央がくびれた,ひょうたん型の羊水腔を認めた.上部の羊水腔に横位となった胎児を認め,子宮体部正中を前後に交通する索状構造物を認めた.上部の羊水腔から11×10×10 cmの球状の羊水腔が内子宮口に向かって膨隆していた.妊娠36週6日に臍帯が下部の羊水腔に下垂しているのが観察されたため,妊娠37週3日に選択的帝王切開術を施行し,3,062 gの女児をアプガースコア9/9(1分/5分)で娩出し,索状構造物も同時に摘出した.経腟超音波で内子宮口付近の嚢胞性病変を同定することは,uterine synechiaの診断の契機になり,これを正確に診断することにより妊娠中の合併症を防止することにつながるものと考えられた.
著者
古澤 之裕 工藤 信樹 近藤 隆
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.3-13, 2019 (Released:2020-01-15)
参考文献数
34

超音波の生物作用は熱的作用と非熱的作用に分類され,超音波によるDNA損傷は主として非熱的作用によるものと考えられている.胎児診断の安全性の観点から多くのin vitro研究がなされてきた.DNAに生じる変化の検出技術の進歩とも相まって,水溶液内のDNAへの影響および細胞内DNAへの影響とその作用機序が急速に解明されつつある.一方でDNA損傷はその生成のみならず,修復を経た後に残存する損傷が重要であることが判明してきた.本稿では,歴史的背景を踏まえて,超音波照射により水溶液中のDNAに生じる損傷とその生成機序,細胞内に存在するDNAに生じる損傷の生成機序,および細胞応答ついて概説する.また,これらの基礎的な知見から超音波の生体影響研究における課題についても述べるとともに,超音波診断の安全性との関連についても考察する.
著者
楠瀬 賢也 Robert Zheng 山田 博胤 佐田 政隆
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
pp.JJMU.R.226, (Released:2023-07-04)
参考文献数
35

循環器画像診断は日々進歩しているが,左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)は現在でも日常の診療における収縮機能の指標として最も重要である.LVEFは複数の分野(心臓弁膜症,心筋梗塞,がん治療に伴う心機能障害など)におけるガイドラインで中心的な位置を占めており,心不全患者における臨床的な方針決定にも不可欠である.しかし,LVEFの注目すべき限界として,不明瞭な音響窓や測定法のばらつきなどによる検査者間の再現性の低さが挙げられる.この問題を解決するために,検査者間で基準画像を共有することでLVEFの計測を標準化する方法や,人の手によらない計測を行うための人工知能が開発されてきた.本総説では,基準画像を用いたLVEFの標準化と,人工知能を用いたLVEF測定の自動化に焦点を当てる.
著者
福間 麻子 佐藤 秀一 新田 江里 花岡 拓哉 石根 潤一 飛田 博史 三宅 達也 柴田 宏 長井 篤 木下 芳一
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.135-139, 2011 (Released:2011-04-01)
参考文献数
12

超音波診断用造影剤であるSonazoid®は,肝腫瘍性病変の造影剤として2007年以来広く使用されている.超音波の最大の長所であるリアルタイム画像を取得でき,今までにない詳細な血管イメージ及び灌流イメージと後血管イメージを得ることにより各種肝腫瘍性病変の質的診断と存在診断が可能となった.症例は50歳代,男性.腹部膨満感,腹痛を主訴に来院.腹部造影CTで膵尾部に5 cm大の低濃度腫瘍を認め,間接所見及び病理組織所見から最終的に膵尾部癌と診断された.術前の造影CTでは肝転移は認められなかったが,超音波検査では限局性低脂肪化域(focal spared area: FSA)を疑う複数の低エコー域を認めた.そのうち胆嚢近傍S4領域の病変は境界が比較的明瞭であったため,腫瘍性病変との鑑別が必要と考えSonazoid®造影超音波検査を行ったところ,動脈優位相で全体に淡く染影され,門脈優位相ではwashout,後血管相で欠損像を呈した.一方,他の低エコー域は欠損とはならなかった.よって,S4の病変は転移性肝腫瘍,その他はFSAと診断した.Sonazoid®造影超音波検査は,脂肪肝を背景に存在とする腫瘍性病変とFSAとの鑑別に有用と考える.

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出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Supplement, pp.S464-S494, 2014 (Released:2014-06-11)
著者
山田 博胤 田中 秀和 宮原 俊介 尾形 竜郎 楠瀬 賢也 西尾 進 鳥居 裕太 平田 有紀奈 大北 裕 佐田 政隆
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.581-586, 2016 (Released:2016-07-19)
参考文献数
16

症例は,46歳男性,循環器内科医師,主訴は左足関節内果部と上腕の疼痛である.僧帽弁逸脱症による僧帽弁逆流と発作性心房細動の既往がある.足関節の疼痛は蜂窩織炎を疑って,血液検査と表在エコー図検査を行った.疼痛部は皮下浮腫が著明であったが,軟部組織の血流シグナルが乏しく,後脛骨動脈の血管壁を主体とした炎症と,同動脈の閉塞が確認された.一方,左手関節近位の尺骨動脈は逆行性血流を示しており,左尺骨動脈分岐部直後で閉塞していた.これらの所見から多発性血管閉塞性動脈炎と診断し,その原因究明のために直ちに心エコー図検査を施行した.その結果,僧帽弁に可動性を有する棍棒状の異常構造物を認め,僧帽弁逆流は高度に増悪しており,感染性心内膜炎と診断された.頭部MRI検査で異常を認めなかったため,外科的加療(疣腫摘除術,僧帽弁形成術,左房縫縮術,左心耳閉鎖術,Maze手術)が行われた.血液培養は陰性であったが,摘出した疣腫の培養からStaphylococcus warneriが同定された.Staphylococcus warneriは皮膚常在菌であり,本病原体による自己弁の感染性心内膜炎は報告が少ない.術後の経過は良好であり,抗生剤を6週間静脈投与した後に社会復帰した.患者が循環器内科医であり,自身の足関節および上腕の疼痛を契機に,表在エコー図検査と心エコー図検査を用いることで,感染性心内膜炎を迅速に診断した稀有な症例であり,かつ,感染性心内膜炎の起炎菌としては稀なStaphylococcus warneriが同定されたので,文献的な考察を加えて報告する.
著者
杉森 一哉 沼田 和司 岡田 真広 二本松 宏美 竹林 茂生 前田 愼 中野 雅行 田中 克明
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
2019

<p><b>目的</b>:慢性肝疾患患者にガドキセト酸ナトリウム(gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriaminepentaacetic acid: Gd-EOB-DTPA)での核磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging: MRI)(EOB-MRI)および造影超音波を施行して,早期肝細胞癌(early hepatocellular carcinoma: eHCC)や高度異型結節(high grade dysplastic nodule: HGDN)と再生結節(regenerative nodule: RN)の鑑別に有用な特徴的所見を調査した.<b>対象と方法</b>:最大径が1 cm以上でかつ病理学的に診断された平均腫瘍径がそれぞれ15.5 mm,15.1 mm,14.8 mmの早期肝細胞癌(100結節),HGDN (7結節),RN (20結節)を後ろ向きに検討した.これらの結節のEOB-MRI肝細胞相の信号強度所見と,造影超音波動脈相の所見を用い,RNに特徴的な所見について検討した.<b>結果</b>:早期肝細胞癌100結節中98結節は,EOB-MRIの肝細胞相で低信号(n=95),等信号(n=2),高信号(n=1)を呈し,HGDN 7結節は,低信号(n=6),または高信号(n=1)を呈し,造影超音波動脈相においてはいずれも求心性血管を認めた.早期肝細胞癌1結節では,EOB-MRI肝細胞相で低信号を呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管と求心性血管の両方が観察された.RN 20結節中18結節と早期肝細胞癌の残りの1結節ではEOB-MRIで結節中心に小さな低信号域を伴い,周囲は高信号を呈した.残り2結節のRNでは肝細胞相で高信号のみを呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管が観察された.結節中心部の小低信号域は,造影超音波動脈相では中央から辺縁に向かって走行する肝動脈とそれに伴走する門脈に一致していた.<b>結論</b>:EOB-MRI肝細胞相および造影超音波動脈相での中心部の血管構造所見は,RNに特徴的な所見である可能性がある.</p>
著者
杉森 一哉 沼田 和司 岡田 真広 二本松 宏美 竹林 茂生 前田 愼 中野 雅行 田中 克明
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.225-236, 2019

<p><b>目的</b>:慢性肝疾患患者にガドキセト酸ナトリウム(gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriaminepentaacetic acid: Gd-EOB-DTPA)での核磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging: MRI)(EOB-MRI)および造影超音波を施行して,早期肝細胞癌(early hepatocellular carcinoma: eHCC)や高度異型結節(high grade dysplastic nodule: HGDN)と再生結節(regenerative nodule: RN)の鑑別に有用な特徴的所見を調査した.<b>対象と方法</b>:最大径が1 cm以上でかつ病理学的に診断された平均腫瘍径がそれぞれ15.5 mm,15.1 mm,14.8 mmの早期肝細胞癌(100結節),HGDN (7結節),RN (20結節)を後ろ向きに検討した.これらの結節のEOB-MRI肝細胞相の信号強度所見と,造影超音波動脈相の所見を用い,RNに特徴的な所見について検討した.<b>結果</b>:早期肝細胞癌100結節中98結節は,EOB-MRIの肝細胞相で低信号(n=95),等信号(n=2),高信号(n=1)を呈し,HGDN 7結節は,低信号(n=6),または高信号(n=1)を呈し,造影超音波動脈相においてはいずれも求心性血管を認めた.早期肝細胞癌1結節では,EOB-MRI肝細胞相で低信号を呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管と求心性血管の両方が観察された.RN 20結節中18結節と早期肝細胞癌の残りの1結節ではEOB-MRIで結節中心に小さな低信号域を伴い,周囲は高信号を呈した.残り2結節のRNでは肝細胞相で高信号のみを呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管が観察された.結節中心部の小低信号域は,造影超音波動脈相では中央から辺縁に向かって走行する肝動脈とそれに伴走する門脈に一致していた.<b>結論</b>:EOB-MRI肝細胞相および造影超音波動脈相での中心部の血管構造所見は,RNに特徴的な所見である可能性がある.</p>
著者
杉森 一哉 沼田 和司 岡田 真広 二本松 宏美 竹林 茂生 前田 愼 中野 雅行 田中 克明
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
2019

<p><b>目的</b>:慢性肝疾患患者にガドキセト酸ナトリウム(gadolinium ethoxybenzyl diethylenetriaminepentaacetic acid: Gd-EOB-DTPA)での核磁気共鳴画像 (magnetic resonance imaging: MRI)(EOB-MRI)および造影超音波を施行して,早期肝細胞癌(early hepatocellular carcinoma: eHCC)や高度異型結節(high grade dysplastic nodule: HGDN)と再生結節(regenerative nodule: RN)の鑑別に有用な特徴的所見を調査した.<b>対象と方法</b>:最大径が1 cm以上でかつ病理学的に診断された平均腫瘍径がそれぞれ15.5 mm,15.1 mm,14.8 mmの早期肝細胞癌(100結節),HGDN (7結節),RN (20結節)を後ろ向きに検討した.これらの結節のEOB-MRI肝細胞相の信号強度所見と,造影超音波動脈相の所見を用い,RNに特徴的な所見について検討した.<b>結果</b>:早期肝細胞癌100結節中98結節は,EOB-MRIの肝細胞相で低信号(n=95),等信号(n=2),高信号(n=1)を呈し,HGDN 7結節は,低信号(n=6),または高信号(n=1)を呈し,造影超音波動脈相においてはいずれも求心性血管を認めた.早期肝細胞癌1結節では,EOB-MRI肝細胞相で低信号を呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管と求心性血管の両方が観察された.RN 20結節中18結節と早期肝細胞癌の残りの1結節ではEOB-MRIで結節中心に小さな低信号域を伴い,周囲は高信号を呈した.残り2結節のRNでは肝細胞相で高信号のみを呈し,造影超音波動脈相で遠心性血管が観察された.結節中心部の小低信号域は,造影超音波動脈相では中央から辺縁に向かって走行する肝動脈とそれに伴走する門脈に一致していた.<b>結論</b>:EOB-MRI肝細胞相および造影超音波動脈相での中心部の血管構造所見は,RNに特徴的な所見である可能性がある.</p>
著者
真口 宏介 小山内 学 潟沼 朗生 高橋 邦幸
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.425-433, 2010 (Released:2010-08-03)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

臨床の場で遭遇する膵腫瘍の診断名の数は限られ,各腫瘍の病理と画像所見の特徴を把握しておくことで鑑別診断の多くが可能となる.膵腫瘍は大きく充実性と嚢胞性に分けられる.充実性には,通常型膵癌,内分泌腫瘍,Solid-pseudopapillary neoplasm(SPN),特殊型膵癌(腺扁平上皮癌,退形成性癌など),腺房細胞癌があり,嚢胞性では,漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm: SCN),粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm: MCN),膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN)の鑑別を行うことになる.但し,充実性腫瘍の嚢胞化あるいは充実性腫瘍の周囲に貯留嚢胞や仮性嚢胞を形成する場合には充実と嚢胞の混在する病態を呈するため鑑別診断に際し注意する必要がある.充実性腫瘍の鑑別診断で問題となるのは,特殊型膵癌(腺扁平上皮癌,退形成性癌など)と腺房細胞癌,非典型的所見を呈する内分泌腫瘍である.特に,内分泌腫瘍は内部の嚢胞化や主膵管内腫瘍栓など,種々の所見を呈するため注意を要する.嚢胞性腫瘍では,SCNにおいてmicro cystとmacro cystの混在,あるいはmacro cyst主体の例が少なくないことを認識しておく必要がある.MCNとIPMNでは,共通の被膜の有無,嚢胞の構造が内に向かうか外に向かうかが鑑別ポイントとなる.膵腫瘍の鑑別診断において体外式US,EUS,IDUSなど超音波診断の果す役割は大きい.
著者
小川 恭子 竹内 和男 奥田 近夫 田村 哲男 小泉 優子 小山 里香子 今村 綱男 井上 淑子 桑山 美知子 荒瀬 康司
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.749-756, 2014 (Released:2014-09-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2

目的:肝血管腫は腹部超音波検査で発見される比較的頻度の高い病変である.大部分は無症状で大きさは変化しないと報告されているが,時として増大例や縮小例,巨大例,まれには破裂例を経験する.これまでの肝血管腫の腫瘍径の変化についての報告には,多数例での長期経過観察による検討は少ない.そこで,長期に経過観察されている肝血管腫について,その腫瘍径の変化を検討した.対象と方法:2011年に虎の門病院付属健康管理センターの人間ドックにおいて腹部超音波検査を行った16,244例のうち,肝血管腫またはその疑いと診断された1,600例(9.8%)を後ろ向きに調査し,10年以上の経過観察がある76例,80病変を対象とした.観察期間は120ヵ月から303ヵ月,平均197ヵ月であった.腫瘍径の変化率を(1)著明増大(変化率が≥+50%),(2)軽度増大(変化率が≥+25%より<+50%),(3)不変(変化率が<+25%より≥-25%),(4)縮小(変化率が<-25%),の4群に分類した.結果と考察:全経過での平均変化率は+39.8%(95%CI:+28.5%から+51.1%)で,著明増大は29病変(36.3%),軽度増大が16病変(20.0%),不変が32病変(40.0%),縮小が3病変(3.8%)であった.10年間の変化率に換算すると平均+24.9%(95%CI:+18.1%から+31.7%)で,著明増大は13病変(16.3%),軽度増大は22病変(27.5%),不変は45病変(56.3%),縮小例はなしであった.結論:肝血管腫の10年以上の経過観察で約半数に腫瘍径の増大を認めた.
著者
小野田 教高
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.469-476, 2009 (Released:2009-07-28)
参考文献数
22

数多くある甲状腺,副甲状腺の画像診断の中で,超音波検査は最も感度がよく侵襲も無いことから,ファーストチョイスの検査と位置付けられている.甲状腺の場合,Bモードによる質的な診断のみならず,カラードプラ法による血流情報を加味することで,機能的な評価も可能となっている.現時点で,超音波検査を駆使しても鑑別に苦慮する疾患として,濾胞癌と濾胞腺腫,軽症のバセドウ病と無痛性甲状腺炎がある.一方,副甲状腺は,超音波検査で観察された場合は,病的な腫大と判断出来るが,発生学的に位置異常が多く,広範囲の観察が必要である.各種疾患に対して,PEIT(経皮的エタノール注入療法)が適応されており,侵襲の少ないことから注目されている.甲状腺,副甲状腺超音波検査は,今後多くの臨床家によって普及されることが望まれる.
著者
川田 慎一 米満 幸一郎 盛本 真司 小村 寛 白石 真紀 立山 由香理 上國料 章展 有村 麻衣子 内園 均
出版者
公益社団法人 日本超音波医学会
雑誌
超音波医学 (ISSN:13461176)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.351-358, 2006 (Released:2007-07-27)
参考文献数
15

目的 : 我々は, 当院の1994年4月から2004年3月まで10年間の人間ドック腹部超音波検査 (US) において腎精密検査統計をもとに, 超音波検診の現状と有効性について検討を行った. 対象と方法 : 腎のUS有所見実人数4,339人の中で, 当院CTでの精密検査を施行した129人を対象とし, US所見とCT診断結果について比較検討した. 結果と考察 : 対象の129人中, USで腎腫瘍を疑った73人のCT診断結果は, 正常45人 (61.6%), 単純性腎嚢胞13人 (17.8%), 複雑性腎嚢胞5人 (6.8%), 悪性腫瘍疑い5人 (6.8%), 腎血管筋脂肪腫2人 (2.7%), 腎盂拡張1人 (1.4%), 肉芽腫1人 (1.4%), 奇形腫1人 (1.4%) であった. 悪性腫瘍疑いのうち4例はMRIを施行し, 腎癌が疑われ手術を施行した. その結果, 病理組織学的に腎癌と確定診断のついた症例は2例で, 当院人間ドックUSにおける腎癌検出率は0.046%であった. 腎癌2例のうち, 1例はUSで腎嚢胞と嚢胞性腎癌の鑑別ができず手術に至るまで3年間精査されなかった. 結論 : 単純性腎嚢胞と確定できない場合は, US再検や精密検査を積極的に施行することが必要と考えられた. またUS施行技師の技術と判読医のレベルの向上を図るために, 精密検査の情報を関係者にフィードバックするシステム構築の必要性があると思われた.