- 著者
-
古谷 寛治
- 出版者
- 京都大学
- 雑誌
- 新学術領域研究(研究領域提案型)
- 巻号頁・発行日
- 2013-04-01
DNAチェックポイント機構はDNA損傷の検出にともない細胞周期進行を遅らせるだけの機構ではない。ゲノムDNA複製時に遭遇するDNA損傷に対し、適切な修復経路を誘導する。なかでもチェックポイント因子Rad9タンパク質は、他のチェックポイントタンパク質をDNA損傷部位へと繋ぎ留める事で、チェックポイント機構の発動に寄与する。一方、Rad9を損傷部位から解離させるのも重要である。わたくしたちは酵母を用いた解析から、Rad9の損傷部位からの解離が、Rad9上で起こるリン酸化フィードバックによって引き起こされる事、また、このリン酸化依存的なRad9の結合・解離制御こそがDNA複製時と修復経路の連携を制御することを見出してきた。本研究ではヒト細胞を用いた蛍光標識Rad9の動態解析から損傷部位への集積の速さを計測した。非常にゆっくりとした反応であり、DNA損傷部位に他のタンパク質が作用したのちに集積することが示唆された。また、酵母で見出した損傷部位からの解離に必要なリン酸化部位と相同の部位がヒトRad9にも存在していたためその変異タンパク質における動態解析を試みたところ、野生型に対して速く集積することが明らかとなった。今後はリン酸化フィードバックがDNA損傷への結合を遅らせるのか、解離を促進するのか検討を進める。並行して、解離に必要なリン酸化部位の分子機能を明らかにするためスクリーニングをおこない、Plk1遺伝子をツーハイブリッドにて取得した。また、質量分析の結果Plk1がヒトRad9タンパク質を二箇所リン酸化することを見出し、一方のリン酸化部位がタンパク質分解のためのユビキチン付加酵素を結合するために必要である事を見出した。今後はタンパク質分解による量的制御とダイナミクス変動の相関を見出すべく研究を進めていく。