著者
吉利 宗久
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.39-47, 2000-06-26

本研究の目的は, アメリカ合衆国における障害者福祉・教育施策の展開とその特徴について検討することである.障害者は, 実質的に1960年代末から1970年代初頭に至るまでは公的な行政サービスシステムにおいて除外され, 不等な処遇を受けていた.その後, 機会均等運動の隆盛に伴い, 障害者の権利を保障するための初期的な連邦法が制定されてきた.1970年代半ば頃を迎えると, 障害者の福祉・教育に関する改善策の立法化が本格的に進められる.特に, 近年においてはノーマライゼーションやメインストリーミング, インクルージョンと呼ばれる障害者処遇改善のための思想や取り組みの進展により, 個別障害者教育法(IDEA), 障害をもつアメリカ人法(ADA), リハビリテーション法504条に代表される障害者対策を主旨とした連邦法が成立している.そこで, 本研究は, これらの連邦法の変遷や性質, 法規定の関連性について検討し, 障害者施策の概要を把握するものである.
著者
吉利 宗久 手島 由紀子 母里 誠一
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.237-242, 2000

本研究は, アメリカ合衆国の学校教育における医療的サービスの提供をめぐる7つの判例を取り上げ, その特徴と問題点を把握することを目的とした.個別障害者教育法(IDEA)は, 障害児のユニークなニーズに対する「特殊教育及び関連サービスを強調する無償で適切な公教育」を保障している.また, 「関連サービス」は, 診断と評価を目的とする「医療的サービス」及び, 有資格スクールナースやその他の有資格職員によって提供される「学校保健サービス」を含む.しかし, これらの法定義が不明確であるために, 学校における医療的ケアの提供をめぐる問題が生じ, 法廷で争われている.1984年のTatro訴訟に端を発するこの問題は, その後の訴訟においても引き続き議論されてきた.その後の判例において検討されたことは, IDEAの医療的サービスから除外されるべき範囲, 施行規則の「学校保健サービス」及びTatro訴訟の連邦最高裁判所判決に関する解釈であった.1999年に連邦最高裁判所は, Garret訴訟において, 障害児が必要とするサービスが医師によって提供されない限り, サービスの性質や範囲に拘わらず, 学校において提供されるべきことを認めた.Garret訴訟は, 15年間にわたる学校での医療的ケアの提供をめぐる訴訟を集約する結果をもたらした.今後, 判例の一層の検討により, 障害児の医療的ケアに関する教育的課題が解明されるべきである.
著者
吉利 宗久 吉海 真澄
出版者
京都教育大学
雑誌
教育実践研究紀要 (ISSN:13464604)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.101-109, 2006-03-31

小学校校長の特別支援教育に対する取り組みの実態を明らかにするために,A市内における質問紙調査を実施した(回収数62校)。その結果,多くの校長が特別支援教育の理念を支持する一方で,学校の準備状況や自らの知識に不安を抱いていた。また,特別支援教育を推進するために重視する学校経営の方針として,保護者との連携や校内体制の整備が高い割合を示した。そして,ほとんどの学校が校内研修を実施しており,その内容は障害理解と児童の実態把握が中心となっていた。ただし,盲・聾・養護学校との連携や,保護者への働きかけは今後の課題となっており,専門性の高い教員を配置し,個別の教育支援計画の作成などの具体的な取り組みを進めることが必要であると考えられていた。
著者
吉利 宗久 津島 ひろ江
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.225-233, 1999-12-25

本研究においては, アメリカ合衆国における健康障害児の統合教育をとりあげ, ヘルス・ケアサービスとの関係から今日的課題を探った.近年では, 個別障害者教育法(IDEA)における統合教育の要求や医療技術の進歩とともに, 健康障害児が通常の教育環境において教育を受ける機会が拡大している.それに伴い, 教育現場においても, 教育者が複雑なヘルスケアへの対応を求められるようになってきた.しかしながら, それと同時に, 「特殊教育及び関連サービス」の枠組みの中でのヘルス・ケアの性質や範囲をめぐる議論がなされ, 訴訟においても大きな争点となっている.そこで, 健康障害児の教育状況を把握し, ヘルス・ケアをめぐる法解釈と判例を中心に検討を進めた.また, ケアサービスの提供システムに関する実態と問題点についても言及した.