著者
石田 祥代 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.9, 2017 (Released:2018-07-01)

本稿では、北欧で実践されている義務教育諸学校を中心とした児童生徒のための支援の特徴と課題の検証を、文献および資料の分析、質問紙調査および聞き取り調査の結果分析により行った。その結果、一つに、デンマークで主に行われる役割分担型モデル:児童生徒に対しては学校中心に支援を行う一方で、児童生徒の保護者に対してはコムーネの福祉当局が中心に支援を行う、もう一つに、ノルウェーとスウェーデンで主に行われる資源連携型モデル:ニーズに応じて柔軟に支援体制を調整する、最後に、フィンランドで主に行われるインクルーシブ教育モデル:通常学校内に3 段階の特別支援体制を設け、校内で包括的に支援することを試みる、を提示した。そして、各国によって支援の特徴は多少異なるものの、各専門職が役割を担い、ネットワーキングを用いて支援システムを構築していることが明らかとなった。地域性と実践例の検討を加え、我が国における実効性と有用性のある児童生徒のための新たな支援システムモデルを提言することが今後の課題である。
著者
石田 祥代 松田 弥花 本所 恵 渡邊 あや 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.37-51, 2021 (Released:2022-07-03)

本稿では、文献調査と聞き取り調査を通して、スウェーデンの義務教育からの移行支援およびインクルーシブ教育の構造を明らかにする。スウェーデンでは、義務教育後の進路の選択肢は、後期中等教育機関としての高校・知的障害高等部・聴覚障害高等部・肢体不自由高等部があり、セーフティネットとしての若年者支援プログラムとリカレント教育としての社会教育機関も受け皿として存在する。移行支援では、キャリアカウンセラーと特別教育家が連携し、最適な学習環境の視点からの進路選択、進学希望先への見学促進、教育的支援の情報伝達を行っている。後期中等教育におけるインクルーシブ教育システムを支えるのは子ども健康チーム、対応プログラム、高校の入門プログラムであった。特徴としては、途切れのない障害児教育システム、前期・後期中等教育間の接続、移民の子どもへの教育的支援、学習を保障する生涯教育システムが挙げられた。
著者
石田 祥代 是永 かな子 本所 恵 渡邊 あや 松田 弥花
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.39-52, 2020 (Released:2021-07-01)

本稿は、フィンランドの義務教育から後期中等教育への移行とその支援について、インクルーシブ教育の観点から明らかにすることを目的とする。文献調査と聞き取り調査を実施した結果、①義務教育段階の特別な教育的支援として三段階支援のシステムがあること、②同様の支援システムが後期中等教育においても整備されつつあること、③義務教育修了後、特別な教育的ニーズのある生徒は、基礎学校10年生、高校、職業学校、ヴァルマ、テルマから進路選択を行っていること、④基礎学校における移行支援として、キャリアカウンセラーと特別支援教育教員による進路相談、進学先との調整、学校訪問同行などが行われていることが明らかになった。一方、今後の課題として、①高校・職業学校における進学後のフォローアップ体制の不備、②退学問題への対応の強化、③授業での教育内容調整や直接的支援の必要性、などが示唆された。
著者
石田 祥代 是永 かな子
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.47-56, 2019 (Released:2020-07-01)

デンマークにおける地方自治構造改革は、2004年1 月の「特別委員会による地方自治構造改革についての提案書」ならびに同年6 月の「与野党間における合意書」の締結を経て、2007 年1 月にアムト(amt;県に相当)の廃止をもたらした。同時に、5 つの広域自治体レギオン(region)が創設され、コムーネ(kommune;市町村に相当)は3 万人以上の人口を目安に271 から98 に再編された(Indenrigs-og Sundhedsministeriet, 2005)。教育に関しては、ギムナシウム(gymnasium;高等学校に相当)と高等職業訓練コース(VET;職業専門学校に相当)等の後期中等教育、加えて、高等教育試験課程(HF;大検に相当)はアムトから国へと管轄が移行した。義務教育では、責任を負う管轄はコムーネであり改革前後に大きな変化はなかったものの、特別教育への影響は大きかった。すなわち、従来の特別教育では、コムーネがその責任で対応する場合と、国やアムトが特別な予算を用意して対応する拡大特別教育(vidtgående specialundervisning)があった。拡大特別教育は、比較的重度の障害児を対象としていたので、2007 年以降、重度の障害児も含め全ての子どもを対象とする義務教育の責任はコムーネが負うこととなった。インクルーシヴ教育の目 標値が設定されるに至り、全国のコムーネはインクルーシヴ教育計画を練り、それに基づき実践を行ってきたが、その中で新たな課題に直面するコムーネも少なくなかった。例えばそれらは、特別学校が移管されなかったコムーネにおける特別学校・学級の新設、対象となる子どもの範囲の拡大、移民の増加であり、全国各地で特別教育の費用が急増した。そのため、デンマーク政府は各コムーネに特別教育予算の適正化を図ることを要請し、インクルージョンセンターの設置による通常学校での対応の具体的支援や16 コムーネのパイロットスタディを開始したものの、現在も各コム ーネの固有の条件をふまえた様々なインクルーシヴ教育への取組が模索されている。本研究ノートでは、とくにインクルーシヴ教育推進の中心機関となるPPR が地域性と資源を活用し試行を繰り返している2 つのコムーネに注目し、地方自治構造改革後にインクルーシヴ教育をどのように進めてきたのかに関して、他コムーネとの共通性と2 コムーネの多様性を明確にしながら、浮き彫りにすることを第一の目的とする。改革以降、インクルーシヴ教育はコムーネの責任で行われ、その実践はコムーネごとに独自性をもった取組となっているからである。そして、デンマークが経験した大規模自治体再編後の急激な地方分権制度の進展に伴うインクルーシヴ教育における混乱とその収束を明らかにするために、2 コムーネの調査に筆者らの一連の研究とこれまでに遂行したフィールド調査の分析を検討に加え、その 取組の特徴を示すことを第二の目的とする。
著者
是永 かな子 石田 祥代
出版者
北ヨーロッパ学会
雑誌
北ヨーロッパ研究 (ISSN:18802834)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.57-66, 2019 (Released:2020-07-01)

本研究は、スウェーデンにおける子ども健康チームの取り組みを、資源の少ない小規模自治体に注目して、フィールド調査及び関連文献の検討から分析することを目的とした。スウェーデンにおいては、いじめや精神的不安定等子どもの多様な問題に対応する子ども健康チームの設置が求められている。しかし小規模自治体であるトッメリラコミューンは各学校の規模も小さく、自校での子ども健康チーム設置が困難であった。そのためコミューンとして中央子ども健康チームを整備して、コミューンが雇用した専門家の巡回訪問で各学校における支援を提供していた。具体的には、コミューンとして学校心理士や学校福祉士等、必要な専門家を雇用して学校兼任配置したり、支援の申請や分析・介入方法を自治体で共有 したり、重篤な課題に関しては医療や福祉局、警察などと連携したりすることで、多方面からの子どもの支援体制を構築していた。
著者
宮寺 千恵 石田 祥代 細川 かおり 北島 善夫 真鍋 健
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.113-120, 2018-03

[要約] 本邦では現在,(1)特別な支援を必要とする子どもへの就学前から学齢期,社会参加までの切れ目ない支援体制整備,(2)特別支援教育専門家等配置,(3)特別支援教育体制整備の推進の3つの柱からなるインクルーシブ教育システム推進事業が展開されている。そのようななか,発達障害の児童及び生徒に対する支援体制の構築を目指し,重点的に支援が拡大されている。本稿では,発達障害の児童及び生徒に焦点を当てて,インクルーシブ教育の視点から,通常学級,通級指導教室,特別支援学級における教育課程と指導方法の取り組みと課題について整理を試みた。それぞれの場に応じた教員の専門性,高等学校を含めた連続的な学びの場としての支援体制の在り方,学校内で教員をサポートする校内委員会の役割,交流および共同学習の進め方等が課題として挙げられた。
著者
眞城 知己 是永 かな子 石田 祥代
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

デンマークにおける自治体再編が特別ニーズ教育制度の展開にどのような影響を与えているのかその特徴を明らかにする目的で情報収集に取組んだ。海外学術調査種目の主旨である資料の収集をフィールド調査を通じて丹念に行うために教育省、各自治体の担当者、国策に携わる学識経験者への継続的な面接調査と資料収集を方法の柱に据えて研究を進めた。その結果、現地の研究協力者の支援と協議を重ねながら5つのレギオン及び半数を超える市の担当者及び学校における面接調査と資料収集を行うことができた。これらの資料の分析を進め、自治体間の差違の急速な拡大傾向と近隣市と共同で新制度を創出する自治体の存在などが明らかになった。
著者
中村 満紀男 二文字 理明 窪田 眞二 鳥山 由子 岡 典子 米田 宏樹 河合 康 石田 祥代
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究では、インクルーシブ教育の社会的背景と理論的基盤について、アメリカ合衆国・英国・北欧について検討した。インクルーシブ教育(インクルージョン)は、先進風・途上国を間わず、国際機関や各国の中央政府が支持している現代における世界的な教育改革運動であるが、その真の意味は必ずしも正確に把握されていない。同時に、インクルーシブ教育運動が世界的に拡大してきた背景とそれを支えている理論についても、共通的基盤と多元的部分に整理して解明されていない。この複雑さが整理されないまま、インクルーシブ教育が差異ではなく、障害のみに焦点化して捉えられる場合、日本における特別支援教育に例示されるようにインクルーシブ教育のモザイク的理解に陥ることになる。こうして、インクルーシブ教育とは、社会的・経済的・教育的格差、文化的・宗教的差異、エスニシティの相違によって生じる社会からの排除を解消し、社会への完全な参加を促進し、民主制社会を充実・実現するために、通学者が生活する近隣コミュニティに立地する通常の学校において共通の教育課程に基づき、すべての青少年を同年齢集団において教育することである。またインクルーシブ教育は、これらの目的を達成するための方法開発も併せて追求している点にも特徴がある。このように、教育改革運動としてのインクルーシブ教育は、差異やそれに基づく排除を解消するための、政治・経済・宗教・文化等、広範囲に及ぶ社会改革運動であり、画期的な理念を提起していて成果もみられるが、既成の枠組みを打破するまでに至っていない。同時に、理念の普遍化が実現方法の画一化に陥っていて、理念とは裏腹の排除を生んでいる例など、今後の課題も多い。