- 著者
-
山添 康
- 出版者
- 日本毒性学会
- 雑誌
- 日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
- 巻号頁・発行日
- pp.1, 2010 (Released:2010-08-18)
薬効解析が最も鋭敏な作用を指標に薬理作用を選抜するのに対して,過剰な薬物によって生じた混
乱にうごめく群衆の中から毒性箱の鍵を開けた者を見つけ出すような毒性機序の解析は指標を見つけ
にくく,複雑で,多面的なアプローチを必要としている。このため毒性学における,化学物質の毒作
用の記述から機序の解明そして予測への歩みはゆっくりとしたものであった。
近年,機能タンパク発現機序の解析,in vitro手法の開発,分析手段の発展,網羅的手法の導入によっ
て同時に起こる複数の生体内変化を,時間的推移を含めて知ることができるようになった。これら手
法の導入で毒作用の全体像を迅速に理解し,鍵を見つけることが可能になりつつある。
化学物質の毒作用にはしばしば種差が認められ,その現れ方にも相対的な感受性の差,標的臓器の
違い,さらには特定に種のみあるいはヒトでのみ毒作用が出現するような違いがある。このような違
いは,機序解析のツールとして利用されてきたが,一方でヒトにおける安全性評価を難しくしている
要因の1つでもある。
上記の手法の導入で,現在,動物種間の毒性感受性の違いを,特定機能の能力差として理解できる
ようになってきている。毒性要因は,大きく薬理と動態に区別できるが,化学物質が起こす明瞭な種
差には両者がともに関与していることが多い。そこで分子レベルで毒性との関連解析が進んでいる薬
物および脂質の代謝動態の研究から幾つかの毒性事象を例に取り上げ,代謝能力の違いと毒性の種差
がどのように関連するのかを考察したい。