著者
吉本 浩和
出版者
摂南大学
雑誌
経営情報研究 : 摂南大学経営情報学部論集 (ISSN:13402617)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.109-127, 1996-02

本論は、二十世紀の思想を刻印づける「言語論的転回」におけるハイデガー哲学の独自の意義を明らかにすることを試みた。言葉との対決を通して存在へと迫るという態度が直面する問題は、言葉の存在とはそもそも何か、そして言葉を通して接近される「存在」という言葉はそもそも何かという問題であり、更に、言葉の「存在」という場合の「存在」という言葉は何かということも問題になる。「言語論的転回」が首尾一貫して遂行されるためには、このような問題自身に言葉との対決を通して迫らなければならない。本論は、初期ハイデガーから中期以降のハイデガーへの思惟の「転回」を、「言語論的転回」のはらむ以上のようなアポリアへの躍入として捉え、「言語論的転回」の首尾一貫した遂行として後期ハイデガーの言語論位置づける。ハイデガーにおけるこのような「言語論的転回」の遂行は、伝統的な言語論自身を転回し、伝統的な言語論が根づく形而上学的言語空間自身の転回を目指すものであることが明らかにされる。
著者
吉本 浩和
出版者
京都大学哲学論叢刊行会
雑誌
哲学論叢 (ISSN:0914143X)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.72-83, 1992-09-01
著者
R. J. D. TILLEY J. N. ELIOT 吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.153-180, 2002-06-20 (Released:2017-08-10)
参考文献数
27

シジミチョウ科47種とシジミタテハ科7種について,緑,青,紫といった光沢を発する鱗粉の微細構造を調べた.構造色による虹様光沢には,Urania(ツバメガ)型とMorpho(モルフォチョウ)型が知られる.調べたシジミチョウのほとんどは,鱗粉表層部の多重層によるUrania型であったが,予期せぬことに,Lycaeninae(シジミチョウ亜科)のAphnaeini(キマダラルリツバメ族)と,Eumaeini(カラスシジミ族)の中のDeudorigina(トラフシジミ亜族)とHypolycaeninaのいくつかの種でMorpho型が観察された,シジミチョウ科のUrania型は,Eliot(1973)によって"pepper-pot"(胡椒入れ)型と名付けられたように,多重層に多かれ少なかれ穴の開いたやや複雑な微細構造を示すものが大部分であった.一方,シジミチョウ科のMorpho型は,鱗粉表面の縦隆起(ridge)の側面に生じる縦溝(flute)の作用によるもので(Morpho(flute)型),縦隆起側面のscuteによるシジミタテハ科,タテハチョウ科,シロチョウ科,アゲハチョウ科の,Morpho(scute)型とは全く異なっていた.系統や分類の分野では,鱗粉の形態は従来あまり用いられて来なかった.これは,類似した型のものが複数の科にまたがって現われるからである.しかし,シジミチョウ科の光沢鱗のほとんどが,蝶の他の科では見られないUrania(pepper-pot)型であることや,今回見つかったMorpho型がflute型であることは重要と考えられる.Morpho(flute)型は,例外的にアカエリトリバネアゲハの翅表の緑色鱗と裏面の青色鱗に認められる以外は,シジミチョウ科に特徴的と思われる.また,シジミタテハ科では,シジミチョウ科に現われる様々な型のどの1つも見られず,特に構造色鱗はタテハチョウ科で報告されているものと同じであった.シジミタテハ科については,従来,シジミチョウ科の1亜科として他のシジミチョウと姉妹群を成すという考えや,シジミチョウ科の姉妹群となる独立した科,またはタテハチョウ科の姉妹群となる科とする意見が提出されてきた.今回の観察は,シジミタテハ科とタテハチョウ科を姉妹群とする見解を支援する新しい情報を提供する.シジミチョウ科の中で,どちらの型の鱗粉が最初に獲得されたかを解くには,南米のシジミチョウ科を考慮する必要がある.南米は,北米経由のアンデス産のいくつかのPolyommatina(ヒメシジミ亜族)を別とすれば,亜族Eumaeinaのみが分布する.シジミチョウ科の起源は白亜期初期におけるローラシアのユーラシア域と信じられるが,ゴンドワナ大陸のアフリカ/南米陸塊へのシジミチョウ科の侵入は"ジブラルタル・ルート"であったろうとされ,白亜期中期前後の2つの大陸の分離時期には祖先的Eumaeiniのみが存在したとするのが論理的である(そうでなければ,今の南米にはEumaeini以外のシジミチョウ科も分布する筈である).亜族EumaeinaではUrania型の鱗粉のみが見られることから,シジミチョウ科の構造色鱗の起源はUrania型で,Morpho型は2つの大陸の分離後アフリカで進化したと推測できる.Urania型が先に現われたとする根拠は,それがPoritiinae(キララシジミ亜科)に見られることにもある.一般にシジミチョウ科の初期の分岐は,Poritiinae,Miletinae(アシナガシジミ亜科),Curetinae(ウラギンシジミ亜科)へと続く枝からのシジミチョウ亜科の分離を導いたと考えられるので,Urania型鱗粉はこの非常に早い段階で既に存在していたと推定される.Morpho(flute)型を有する3つのグループの内,亜族DeudoriginaとHypolycaeninaは,♂交尾器や翅脈から見て互いに近縁であり,また亜族Eumaeinaとも近縁である.DeudoriginaとHypolycaeninaはアフリカに分布の中心があり,恐らくインド大陸がアジアに衝突した後,東洋区や旧北区の東南縁に広がった.これは,.Morpho(flute)型がアフリカ大陸の分離後にアフリカで生じた考えをうまく説明できる.問題は残る1つのAphnaeini族である.この族はシジミチョウ亜科で最も早く分岐したグループと考えられ,ローラシアからゴンドワナ大陸に最初に入ったシジミチョウと考えられるが,そうであれば,この族が南米に産しないことは説明しづらい.この族の祖先が森林地域に適応できなかったというのがその説明になるかも知れないが,いずれにせよ,Aphnaeini族でのMorpho(flute)型の獲得は独自に起こったと考えるのが最もありうるように思われる.Morpho(flute)型鱗粉は,未分化(undifferentiated)鱗とUrania型鱗粉から別々に生じたように思われる.細部で高度に改変されたUrania型からの変形はやや想定しづらいかも知れないが,Chliaria属やSiderus属のいくつかの種では明らかに中間的な鱗粉が観察され,その変形過程の説明を可能とする.恐らく,多重層が単層になることで鱗粉表面の縦隆起(ridge)が高くなり,直立した縦溝(flute)も顕著となる.次いで単一の"pepper-pot"層も失われ,縦隆起の間隔が狭まるとともに,縦溝の傾斜が起き,最終的には鱗粉の表層下面と平行になるところまで傾斜が進んだと考えられる.
著者
李 興根 吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.125-144, 1994-10-30 (Released:2017-08-10)

クマバチモドキ属の2種のスズメガ, Sataspes tagalica BoisduvalとS. infernalis (Westwood)は互いに近縁な昼飛性の蛾で,クマバチの仲間(Xylocopa spp.)に擬態する.香港には,これまで記録のなかったinfernalisを含め,両種ともに分布する.筆者は,1991年7月, tagalicaの終齢幼虫を採集したことをきっかけに, 1992年4月から1994年6月にかけて香港各地で幼生期の観察を行ったのでここに報告した.食草は両種ともPapilionaceae科のツルサイカチの一種Dalbergia benthami Prainで,香港の17箇所で卵または幼虫を確認した.これらの中で,特にTai Po Kau自然保護区とAberdeen貯水池はこの属の卵が多数見つかっており,前者はまた,香港で唯一infernalisの卵が得られたところである. Sataspes 2種の幼生期については, Mell(1922)やBell & Scott (1937)などによる記述があるが,筆者自身の観察に基づいて記載すると次の通りである.卵は球形,淡緑色で, tagalicaでは1.5×1.25×1.0mm, infernalisではやや大きく1.5×1.5×1.0mm.若く,または新鮮でやや大きな葉上に好んで産卵される.卵は約4日後に孵化する. 1齢幼虫は両種とも明るい青緑色で黒い尾角を持ち,互いによく似ている.頭部は丸く,顔面は黄緑色.主に葉裏の主脈に沿って静止する.脱皮前には, tagalicaで9mm, infernalisでは11.5mm位まで成長する. 2齢では頭部三角形で,浅く二叉した頭頂に向けて尖り,表面は微刺毛で被われる.体は青緑色で,側面には7本の斜帯を備え,黒色の尾角に連なるものはよく発達する.体長10-16mm. 3齢になると, 3-4腹節にかけて1対の赤色に縁取られた橙黄色紋が側面に現われる.これらの紋の出方には変異が見られ, tagalicaでは全幼虫期を通して無紋のもの, 2つの紋の間に背面にダイアモンド型の3番目の紋をもつもの,さらに通常の2紋型でも左右で大きさが異なるものや,左右のいずれかが消失するものがあった.また,野外で得られた1頭(ただし5齢幼虫)では,カナリアのような黄色で,側面に錆び様の赤紋と背面には全長の2/3に亙る同色の槍状紋を持っていた.この幼虫は羽化には至らなかったが,同様の幼虫からtagalicaが得られている.これら幼虫の変異は,成虫で知られるいくつかの型や性とは無関係のようである.一方infernalisでは,観察した8頭すべてが橙色紋を持つものであったが, Seitz(1928)は無紋型のことを述べているし, Holloway(1987)はBell & Scott (1937)を引用して,いくつかの幼虫が3-4腹節背面に赤褐色のダイアモンド型の紋と側面により大きな紋を持つことや,小さな紋がこの紋の前方および6節に生じることを挙げている. 3齢虫は16-26mm位.側面の斜帯は白または黄白色で明瞭になる.尾角背面は黒色,側面は黄白色で,先端淡黄色.4齢は28-40mm.橙黄色紋の中は小さな赤い点または円で満たされ,全体に橙色になる.尾角は両種とも全体淡緑色. 5齢では頭部の形が再び変わり,頭頂は丸みを帯びる.顔面には2本の縦帯が走るが,これら2本の帯の間の色合いは2種で異なり, infernalisでは淡緑色でほとんど白っぽいのに対し, tagalicaでは中庸な緑色である. 5齢虫の体長は40-65mm.頭方と尾方に向けて細まる.蛹は尾端の形状が両種で異なっており, tagalicaでは尾突起が側方に張り出すのに対し, infernalisではそのようにならず後方にすぼまっている.成虫では両種ともいくつかの型が知られているが,それらの同定は検索表にある通り.ただし, tagalicaの亜種chinensisと型protomelasは,いずれも型tagalicaと同じと考えられるという.香港での周年経過は, tagalicaでは年4世代,蛹越冬で,非越冬世代の孵化後の幼生期の長さは♂では平均48日,♀では58日であった.一方infernalisでは,4月から6月にかけての1世代しか観察されなかった.孵化後の幼生期の長さは♂で平均45.4日,♀では54日であった.成虫の行動について, Mell (1922)は,早朝水浴するだけで吸蜜しないと述べているが,筆者はtagalicaのランタナでの吸蜜を2度にわたって目撃したほか, Tennent(1992)による同じクマツヅラ科のハリマツリの一種Duranta lerensでの記録がある.産卵は,筆者自身は見ていないが,曇天の1992年6月28日の午後1時50分,恐らくtagalicaのものが観察されている.卵は1卵づつ産みつけられ,いくつか例外もあるが, Mellが述べているように,通常は1株に1卵の割合のようである.香港のクマバチモドキの保護のためには,公園や特別地域,特にTai Po Kau自然保護区のDalbergia benthamiの生け垣を法的に保護する必要がある.枝の刈り込みは,どうしても必要な場合でも選択的になされるべきであり,また成熟したbenthamiの枝はできる限り手をつけず,刈り取りも禁ずるべきである.適当な保護方策が取られることにより,他地域では大変稀で,生態的にもあまり詳しく調べられていないクマバチモドキの個体群にプラスのフィードバックがもたらされることを期待する.
著者
李 興根 吉本 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.125-144, 1994

クマバチモドキ属の2種のスズメガ, Sataspes tagalica BoisduvalとS. infernalis (Westwood)は互いに近縁な昼飛性の蛾で,クマバチの仲間(Xylocopa spp.)に擬態する.香港には,これまで記録のなかったinfernalisを含め,両種ともに分布する.筆者は,1991年7月, tagalicaの終齢幼虫を採集したことをきっかけに, 1992年4月から1994年6月にかけて香港各地で幼生期の観察を行ったのでここに報告した.食草は両種ともPapilionaceae科のツルサイカチの一種Dalbergia benthami Prainで,香港の17箇所で卵または幼虫を確認した.これらの中で,特にTai Po Kau自然保護区とAberdeen貯水池はこの属の卵が多数見つかっており,前者はまた,香港で唯一infernalisの卵が得られたところである. Sataspes 2種の幼生期については, Mell(1922)やBell & Scott (1937)などによる記述があるが,筆者自身の観察に基づいて記載すると次の通りである.卵は球形,淡緑色で, tagalicaでは1.5×1.25×1.0mm, infernalisではやや大きく1.5×1.5×1.0mm.若く,または新鮮でやや大きな葉上に好んで産卵される.卵は約4日後に孵化する. 1齢幼虫は両種とも明るい青緑色で黒い尾角を持ち,互いによく似ている.頭部は丸く,顔面は黄緑色.主に葉裏の主脈に沿って静止する.脱皮前には, tagalicaで9mm, infernalisでは11.5mm位まで成長する. 2齢では頭部三角形で,浅く二叉した頭頂に向けて尖り,表面は微刺毛で被われる.体は青緑色で,側面には7本の斜帯を備え,黒色の尾角に連なるものはよく発達する.体長10-16mm. 3齢になると, 3-4腹節にかけて1対の赤色に縁取られた橙黄色紋が側面に現われる.これらの紋の出方には変異が見られ, tagalicaでは全幼虫期を通して無紋のもの, 2つの紋の間に背面にダイアモンド型の3番目の紋をもつもの,さらに通常の2紋型でも左右で大きさが異なるものや,左右のいずれかが消失するものがあった.また,野外で得られた1頭(ただし5齢幼虫)では,カナリアのような黄色で,側面に錆び様の赤紋と背面には全長の2/3に亙る同色の槍状紋を持っていた.この幼虫は羽化には至らなかったが,同様の幼虫からtagalicaが得られている.これら幼虫の変異は,成虫で知られるいくつかの型や性とは無関係のようである.一方infernalisでは,観察した8頭すべてが橙色紋を持つものであったが, Seitz(1928)は無紋型のことを述べているし, Holloway(1987)はBell & Scott (1937)を引用して,いくつかの幼虫が3-4腹節背面に赤褐色のダイアモンド型の紋と側面により大きな紋を持つことや,小さな紋がこの紋の前方および6節に生じることを挙げている. 3齢虫は16-26mm位.側面の斜帯は白または黄白色で明瞭になる.尾角背面は黒色,側面は黄白色で,先端淡黄色.4齢は28-40mm.橙黄色紋の中は小さな赤い点または円で満たされ,全体に橙色になる.尾角は両種とも全体淡緑色. 5齢では頭部の形が再び変わり,頭頂は丸みを帯びる.顔面には2本の縦帯が走るが,これら2本の帯の間の色合いは2種で異なり, infernalisでは淡緑色でほとんど白っぽいのに対し, tagalicaでは中庸な緑色である. 5齢虫の体長は40-65mm.頭方と尾方に向けて細まる.蛹は尾端の形状が両種で異なっており, tagalicaでは尾突起が側方に張り出すのに対し, infernalisではそのようにならず後方にすぼまっている.成虫では両種ともいくつかの型が知られているが,それらの同定は検索表にある通り.ただし, tagalicaの亜種chinensisと型protomelasは,いずれも型tagalicaと同じと考えられるという.香港での周年経過は, tagalicaでは年4世代,蛹越冬で,非越冬世代の孵化後の幼生期の長さは♂では平均48日,♀では58日であった.一方infernalisでは,4月から6月にかけての1世代しか観察されなかった.孵化後の幼生期の長さは♂で平均45.4日,♀では54日であった.成虫の行動について, Mell (1922)は,早朝水浴するだけで吸蜜しないと述べているが,筆者はtagalicaのランタナでの吸蜜を2度にわたって目撃したほか, Tennent(1992)による同じクマツヅラ科のハリマツリの一種Duranta lerensでの記録がある.産卵は,筆者自身は見ていないが,曇天の1992年6月28日の午後1時50分,恐らくtagalicaのものが観察されている.卵は1卵づつ産みつけられ,いくつか例外もあるが, Mellが述べているように,通常は1株に1卵の割合のようである.香港のクマバチモドキの保護のためには,公園や特別地域,特にTai Po Kau自然保護区のDalbergia benthamiの生け垣を法的に保護する必要がある.枝の刈り込みは,どうしても必要な場合でも選択的になされるべきであり,また成熟したbenthamiの枝はできる限り手をつけず,刈り取りも禁ずるべきである.適当な保護方策が取られることにより,他地域では大変稀で,生態的にもあまり詳しく調べられていないクマバチモドキの個体群にプラスのフィードバックがもたらされることを期待する.
著者
顔 聖紘 穆 家宏 〓 家龍 吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.175-184, 1995-12-10 (Released:2017-08-10)
参考文献数
21

台湾には2種のアゲハモドキ(Epicopeia mencia Moore,オナガアゲハモドキとE.hainesii matsumurai Okano,アゲハモドキ)が分布する.それらは日本や中国で生活史が分かっているものの,台湾では充分に調べられていなかった.私達は1992年から1993年にかけて,これら両種の台湾での生活史を調べることができたので,ここに報告した.Epicopeia mencia Mooreオナガアゲハモドキ食樹はニレ科のアキニレ.これは中国および日本(対馬)で知られる食樹と同じである.卵は食樹の葉の裏面にまとめて産み付けられ,幼虫は終齢(6齢)まで白色の蝋状物質をまとう.蛹化は白い蝋物質で覆われた柔らかい繭内で行なわれる.成虫は4月から10月まで見られ,年2-3化.台湾全土の標高500-2,000mまでの常緑カシ帯に分布するが,食樹の分布に限定されて局所的である.Epicopeia hainesii matsumurai Okanoアゲハモドキ私達の確認した食樹はミズキ科のミズキ,クマノミズキ,ヤマボウシで,日本での記録と同じである.卵は,前種同様,食樹の葉裏にまとめて産み付けられ,前種よりやや小さい.幼虫は終齢(6齢)まで白色の蝋状物質をまとうが,3齢以降の蝋物質の分泌は前種よりも多く,いくつかの体節では細い毛束状,蛹は前種よりもスマートである.成虫は4月から10月まで見られ,年2化.台湾の北部,中部,東部の標高500-2,000mまでのいくつかの産地に限って分布する.
著者
Dubatolov V.V. Lvovsky A.L. 吉本 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.191-198, 1997
参考文献数
32
被引用文献数
1

St-Petersburgのロシア科学アカデミー動物学研究室に保管されているSatyrus motschulskyi Bremer&Grey,1852とYpthima amphithea Menetries,1859の模式標本を調べた結果,それらは同一種であることが分かった.両タクサの後模式標本とそれらの♂交尾器を図示した.チョウセンウラナミジャノメの学名はYpthima motschulskyi(Bremer&Gray)となるが,中国北部および韓国のものを原名亜種,沿海州のものを亜種amphithea Menetriesとした.沿海州の亜種は原名亜種よりも小型,後翅裏面は全体に暗く,波状模様もあまり明瞭でない.Y.motschulskyiがチョウセンウラナミジャノメの有効名となる関係で,ウラナミジャノメの有効名には台湾から記載されたY.multistriata Butler,1883が昇格する.原名亜種は台湾及び中国東部に産し,日本本土亜種はniphonica Murayama,1969,対馬亜種はtsushimana Murayama,1969となる.韓国産はtsushimanaよりも裏面の波状紋の発達が弱い点で区別されるが,Y.obscura Elwes&Edwards,1893,Y.elongatum Matsumura,1929はいずれもmotsculskyiのシノニムで,韓国産multistriataの亜種名として適格なものがないため,新亜種koreana ssp.n.を記載した.
著者
吉本 浩二
出版者
日本基礎心理学会
雑誌
基礎心理学研究 (ISSN:02877651)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.53-59, 2020-09-30 (Released:2020-11-18)
参考文献数
1

Having joined a panel discussion about visual disability and the psychonomic science, I considered how I could contribute from a standpoint that I myself am visually impaired. I have serious low vision. My vision is less than counting finger. My eyes are retinitis pigmentosa, which is a progressive disease. I’ve been losing my eyesight since primary school. In this article, I discuss how the psychonomic science research may relate to visual disability issues from my personal experience of progressive eye disease to the blind.
著者
吉本 浩
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.93-105, 1987-07-20 (Released:2017-08-10)

本邦のホソバミドリヨトウは永らくヒマラヤのEuplexia literata(MOORE)に同定されてきたが,最近になって私は,これが真のliterataとは異なる種であること,またその所属もEuplexidia HAMPSON,1896に移さねばならないことに気付いた,本報では,我国のホソバミドリヨトウをはじめとして本属の4新種を記載したほか,従来Trachea-Euplexia群に置かれていた2種をこの属に移し,まタイ北部からliterataの1新亜種を記載した.本文にも記したように大陸の一部の種について同定上の問題が残っており,それらでは将来学名の変更が必要になるかもしれない.本報で扱った7種1亜種は以下の通り.Euplexidia noctuiformis HAMPSON, 1896[アッサム,タイ北部(未記録)] Euplexidia exotica sp. n.[台湾] 中部の阿里山山麓,十字路で得た1♂しか見ていない. Euplexidia pallidivirens sp.n.[台湾] 日本のホソバミドリヨトウと外観ではほとんど区別できない,台湾にも次種を産するので,同定には注意を要する. Euplexidia angusta sp. n.ホソバミドリヨトウ[日本,台湾] 本属中我国に産するものは本種である.前種よりもやや色調が濃く,前翅亜外縁の白色部がやや目立つほか,前翅も幾分幅狭く感ぜられるが,正確な同定には交尾器の検査が必要である.前3種に近縁であるが,本種では♂交尾器uncusの背面に剛毛の東を持たず,harpeも太いので,慣れれば解剖しなくても外部からの検鏡で同定できる.台湾では前種と混棲するほか,中国大陸にも分布するものと思われ,陳(1982)が図示した標本は本種のように判断される.Euplexidia literata literata(MOORE, 1882), comb. n.[シッキム,ネパールEuplexidia literata thailandica ssp. n.[タイ北部]Euplexidia illiterata sp. n.[ネパール]これら3つのタクサにはなお未解決の問題が残っている.すなわち,MOORE(1882)は外観のよく似た2種,Dianthoecia literataとD. venosaをともにシッキムから記載しており,これらの同定にはタイプとの比較が必要であるが,今回は成し得なかった.本報ではネパールからタイにかけて産するものをliterataに,またネパールで秋に得られているものを新種とし,venosaについては触れなかった.E. benecripta (PROUT,1928), stat. & comb. n.[スマトラ]本種はスマトラからliterataの亜種として記載されたものである。♂交尾器の構造は本属中特異であるが,♂交尾器vesicaや,♀交尾器の形状からEuplexidiaに属するものとした.以上のほか,ここでは扱わなかったが,ボルネオのTrachea albiguttata(WARREN, 1912)もHOLLOWAY(1976)に図示された♂交尾器の形からみて,本属に連なるものと思われる。しかし,BOURSIN(1964)によってネパールから2頭の♀で書かれた? Euplexidia violascensについては,交尾器も図示されず,また実見もしていないので除外した.
著者
吉本 浩
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.27-30, 1994-03-30

Nagadeba indecoralis Walker, [1866], is recorded from Japan for the first time based on a female specimen secured at Ishigaki-jima I., the Ryukyus. The male and female genitalia of this species are figured and described, and type specimens of N. indecoralis and N. ianthina Swinhoe, 1890, a junior synonym of indecoralis, are illustrated.