著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.275-280, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
19

知識人の趣味であった科学が,19世紀以後,社会の問題解決という目的を持つようになり,研究者の数が増えて科学者集団が生まれ,集団内の成功が社会における成功につながった.これは必然的に科学の不正につながり,その社会的影響が無視できなくなった.これに加えて,国立大学の法人化と産学連携の推進により,これまでは主に企業研究者の問題であった利益相反も多くの研究者の問題になりつつある.不正の発見はピアレビューと追試による検証で行われるが,ピアレビューは性善説に準拠するために,意図的な不正を見抜く力はない.また検証はその結果が出るまでには長い時間がかかり,その間に他の研究者や社会が損失を被ることがある.内部告発も有効ではあるが,慎重な取り扱いが必要である.科学の不正は,一般社会における不正と同じく,いつでも起こりうる.不正を防止するためには科学者集団が科学の品質を保証するシステムを構築するとともに,研究者が功利主義ではなく義務論に基づいて行動し,一般社会に通用する透明性と説明責任を果たすことが何より重要であり,そのために一般道徳に加えて科学者倫理の教育を強化することが必要である.
著者
唐木 英明
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.5_10-5_17, 2012-05-01 (Released:2012-09-06)
参考文献数
8
著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.275-280, 2007-10-01
参考文献数
19

知識人の趣味であった科学が,19世紀以後,社会の問題解決という目的を持つようになり,研究者の数が増えて科学者集団が生まれ,集団内の成功が社会における成功につながった.これは必然的に科学の不正につながり,その社会的影響が無視できなくなった.これに加えて,国立大学の法人化と産学連携の推進により,これまでは主に企業研究者の問題であった利益相反も多くの研究者の問題になりつつある.不正の発見はピアレビューと追試による検証で行われるが,ピアレビューは性善説に準拠するために,意図的な不正を見抜く力はない.また検証はその結果が出るまでには長い時間がかかり,その間に他の研究者や社会が損失を被ることがある.内部告発も有効ではあるが,慎重な取り扱いが必要である.科学の不正は,一般社会における不正と同じく,いつでも起こりうる.不正を防止するためには科学者集団が科学の品質を保証するシステムを構築するとともに,研究者が功利主義ではなく義務論に基づいて行動し,一般社会に通用する透明性と説明責任を果たすことが何より重要であり,そのために一般道徳に加えて科学者倫理の教育を強化することが必要である.<br>
著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.60, no.6, pp.391-401, 2007-06-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
48

1986年, 英国において牛海綿状脳症 (BSE) が発見され, 1996年に英国政府は, BSEが人間に感染して, 新変異型クロイツェルフェルトヤコブ病 (新型ヤコブ病) を引き起こした可能性を認めた. 牛から牛への感染を防ぐための肉骨粉禁止と, 牛から人への感染を防ぐための危険部位の食用禁止という2つの対策が適切であったために, BSEも新型ヤコブ病もその数を減らしたが, 感染から発病までの問に長い潜伏期があるので, 対策の効果が現れるのに時間を要した. その間のリスクコミュニケーションの失敗から, 英国民の政府に対する信頼は低下した. 政府は「安心対策」として, 30ヵ月齢以上の牛をすべて殺処分にする「30ヵ月令」を実施し, 多額の税金を投入した. 日本でも2001年にBSEが発見され, 不適切なリスクコミュニケーションのために, 不安が広まった. 日本政府は, 肉骨粉の禁止と危険部位の除去に加えて, 「安心対策」として食用牛の全頭検査を開始した. 検査では弱齢牛のBSEを発見できないので, 陰性になった牛の中にBSEがいる可能性が高いのだが, 国民の間には「すべての牛を検査して, 政府が安全を保証しているのだから, BSEに感染した牛を食べることはない」という誤解, いわゆる「全頭検査神話」を生み出すことになった.
著者
唐木 英明
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.236-240, 2008 (Released:2019-06-17)
参考文献数
1

食中毒の原因には,食中毒菌,ウイルス,きのこ毒,ふぐ毒などがある。食中毒患者数はこの50年間を通じて年3万人前後でそれほど変わっていないが,かつては年間500名を超えることもあった死亡者数は,このところ10名前後まで大きく減少している。このような統計値から見て日本の食品の安全性は高いといえる。しかし,アンケート調査の結果を見ると,食品の安全に対する消費者の不安は大きい。不安の原因として遺伝子組換え食品などいくつかの要因が挙げられているが,食品添加物や残留農薬のような化学物質は常に不安の上位に出てくる。ところが,戦後の混乱期に基準を大幅に超えた量を使用した例を除いては,化学物質による食中毒は起こっていない。にもかかわらず不安を感じるのは,多量の化学物質により起こる毒性が少量でも出るという誤解に基づく不適切な報道の影響が大きい。さらに食品関連企業の偽造が消費者の不信を招き,不安をさらに大きくしている。