著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = BULLETIN OF NARAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.53-58, 2021-12-17

温泉旅行の効果に関する先行研究の多くは温泉浴の疾病に対するものであり、生活の質への効果やその因果関係を明示するものは少ない。しかし、高齢者に人気のある温泉旅行を、生活の質を向上させるためのソフトインフラとして、新たな視点から理論的に再構築する意義は大きい。日帰り温泉旅行における2つの実態調査からは、要介護高齢者には多様な楽しみ方があることや、多様な思い・感情・変化があることが示唆されている。これらを温泉旅行へ理論的に組み込むことができれば、地域リハビリテーションの新たなソフトインフラになる可能性があると考えられる。本稿では、これらの知見を通じて、温泉旅行をソフトインフラとして理論的に再構築し、多様な工夫や企画等を提案し、その可能性や課題を考察する。
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.353-357, 2019 (Released:2019-06-25)
参考文献数
16

〔目的〕理学療法時の肯定的,否定的な声かけの言い回しの違いによる視覚的文字教示が患者の意欲に与える影響をランダム化した枠組みで明らかにすること.〔対象と方法〕対象は,入院患者 102 名(男性 31名,女性71 名,年齢 75 ± 12.3 歳)とした.紙面によるアンケートにて,トイレ,歩行,疼痛,理学療法全般,退院の5つの場面を想定し,各場面で肯定的,否定的な2つの言い回しを設定し,意欲の向上がみられるかを調査し,比較した.〔結果〕歩行を除く4つの場面において,肯定的な言い回しによって患者の意欲の向上を認めた.〔結語〕ランダム化した枠組みの調査においては,いくつかの場面で肯定的な言い回しで,患者の意欲を向上させることが示唆された.
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.35-38, 2017 (Released:2017-02-28)
参考文献数
12
被引用文献数
1

〔目的〕理学療法時の肯定的,否定的な声かけの言い回しが,患者の意欲の向上にどう影響するかを明らかにすること.〔対象と方法〕対象は,調査に協力を得られた入院患者37名(男性17名,女性20名,年齢69.9 ± 12.6歳)とした.紙面によるアンケートにて,トイレ,歩行,疼痛の3つの場面を想定し,各場面で肯定的および否定的な声かけの2つの言い回しを設定し,意欲の向上がみられるかを調査し比較した.〔結果〕3つの場面全てにおいて,肯定的な声かけの言い回しで患者の意欲の向上が認められ,否定的な声かけの言い回しでは意欲の向上は認められなかった.〔結語〕理学療法時の肯定的な声かけの言い回しは,患者の意欲を向上させることが示唆された.
著者
須藤 誠 喜多 一馬 田村 由馬
出版者
日本保健医療福祉連携教育学会
雑誌
日本保健医療福祉連携教育学会学術誌・保健医療福祉連携 (ISSN:18836380)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.153-163, 2021 (Released:2021-12-07)
参考文献数
24

【目的】新型コロナウイルス感染症禍(コロナ禍)の昨今,交流は厳しく制限され,教育・医療の状況は一変した。教育には専門職教育と多職種連携教育(IPE)があり,双方とも欠かせない。そこで,コロナ禍以前のIPEに関する文献レビューを通して,コロナ禍におけるIPEの課題を整理した。 【方法】医中誌を用いて「(他分野共同学習/TH or 多職種連携教育/AL) and (PT=原著論文)」で検索した(検索日:2020年8月20日)。研究デザイン別の課題について考察した。 【結果】検討対象は88件,文献研究7件,観察研究26件,介入研究4件,尺度研究3件,活動報告18件,質的研究21件,記述研究8件であった。著者は教育機関所属が多く,在学生対象の調査が主であった。 【結語】IPEは卒前教育で留まり,卒後教育にリーチできていなかった。コロナ禍では,オンラインツールを活用したIPEを学習できる場が必要である。
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
日本医療福祉情報行動科学会
雑誌
医療福祉情報行動科学研究 = Journal of Information and Behavioral Science for Health and Welfare (ISSN:21851999)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-44, 2020-03-25

【目的】本研究の目的は,地域リハビリテーションのソフトインフラとして温泉旅行を整備するため,温泉旅行および温泉旅行の各活動場面が要介護高齢者に与える影響を明らかにすることである。【方法】日帰り温泉旅行に参加した要介護高齢者2名を対象に,半構造化インタビューを行った。インタビューでは温泉旅行にある各活動場面の楽しみの程度と対象者や家族等の変化を調査した。【結果】A氏は入浴を含めた温泉旅行の全活動場面を楽しんでいた。また,脳卒中後10年間行くことはなかった温泉旅行に再び行こうとしており,温泉旅行の参加に対する自信を回復していた。B氏は温泉旅行の入浴以外の準備,移動を楽しんでおり,温泉旅行で新たな人間関係を構築していた。【結論】本研究では,温泉旅行にある各活動場面や温泉旅行は個々の要介護高齢者に様々な影響を及ぼすことが示唆された。その影響としては,自信の回復や人間関係の再構築を促進させることが示唆された。
著者
藤田 裕子 喜多 一馬 小島 一範
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.71-80, 2022-10-01 (Released:2022-10-01)
参考文献数
20

本研究の目的は,リハビリテーション関連職(以下,リハ職)におけるジェンダーバイアスについてアンケート調査を行い,どのような種類のジェンダーバイアスがみられるかを予備的に調べることである.方法としては,国内の現役リハ職に対し,インターネット上でのアンケート調査を行った.設問は,基本的属性,独自に作成したジェンダーバイアスに関する18 の設問項目,ジェンダーや働き方に関する意見や体験談に関する自由記載欄とした.統計学的処理では,1)設問項目ごとの対象者の基本的属性間の群間比較,2)ジェンダーバイアスに関する設問における各設問項目間の相関,3)「男性」と「女性」という言葉以外が同内容の設問間における2 群間の差の比較を調べた.結果として,1)では,年代,所属,経験年数,同居家族においていくつかの設問項目で有意な差がみられた.2)では,男女間の大学院進学についての設問間に強い相関が,育児中の男女スタッフの急な休みに対する考え方の設問間に中等度の相関が見られた.3)では,2 群間に有意な差がみられた.自由記載欄では,全体としては男性・女性それぞれが感じた性別・カテゴリ分けされた他者からの心ない言葉や扱いに関する内容が多く記載された.これらから,リハ職は働き方やキャリア,研究会や学会参加,バイザー業務や指導係,大学院進学に対してジェンダーバイアスがあることが示唆された.
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
日本医療福祉情報行動科学会
雑誌
医療福祉情報行動科学研究 (ISSN:21851999)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.55-66, 2021-03-26

【目的】日帰り温泉旅行に参加した個々の要介護高齢者自身の生活機能に対する認識の変化を明らかにすること。【方法】日帰り温泉旅行に参加した要介護高齢者9名に対して,温泉旅行の過程やその前後で生じた自身の生活機能の変化についてインタビュー調査した。インタビュー結果を,解釈学的現象学的分析を用いて分析した。【結果】分析の結果,13サブテーマと【楽しさに繋がる行動を促進する】,【喪失されていた思いの再獲得】,【豊かな感情を喚起する環境に対する認識】,【スタッフの関り方や置かれた立場によって生じる感情】,【自身の在り方に対する認識の変化】という5テーマが抽出できた。【結論】要介護高齢者は温泉旅行を経験したことにより,多様な生活機能に対する認識の変化を生じていた。
著者
喜多 一馬 池田 耕二 仲渡 一美
出版者
保健医療学学会
雑誌
保健医療学雑誌 (ISSN:21850399)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.79-91, 2019-10-01 (Released:2019-10-02)
参考文献数
21

本研究の目的は,障がいを有した働き盛りの患者の理学療法への取り組みに対する意欲を向上させるための知見を得ることである.対象は,理学療法に積極的かつ意欲的に取り組んでいる40 歳代の男性入院患者である.方法は解釈学的現象学的分析とし,手順としては,本患者に半構造化面接を行い,理学療法を積極的かつ意欲的に取り組める理由について聞きとり,理学療法への取り組みに対する意欲を分析した.結果は,本患者の理学療法への取り組みに対する意欲を9 つのテーマから解釈することができた.テーマは,半年限定,家族や妻の存在,男のプライド,苦痛を意欲に変化させる力,関係性から構成される意欲等が示された.我々は,これらに着目した理学療法実践時の声かけや配慮,工夫が理学療法への取り組みに対する意欲の向上に大切になると結論づけた.
著者
中山 陽平 喜多 一馬 小島 一範
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D-39, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに】日本は2040 年までに医療福祉職の人材が200 万人超の増加が必要と経済財政諮問会議で発表された。その中で,数だけでなく質の確保が急務とされている。そして,質の確保のためには思いやりを持つ重要性が示唆されており(福間2012),これからの医療福祉職には思いやりを育む教育や環境の整備が課題になる。これは在宅分野の理学療法士でも同様である。しかし,思いやりの育み方については,教育関連における報告は多いが(山村2012,三浦2013),医療福祉職における報告は見当たらない。他方,思いやりは様々な人間関係の中で育まれるものであり(植村1999),職員と上司の関係性はその一つとして重要と考えられる。本研究の目的は,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりとの関係性を明らかにすることである。【方法】対象は,本法人のうちデイサービス(3 施設)と老人ホーム,居宅介護支援事業所のいずれかに所属する職員33 名(男性7 名,女性26 名,年齢47+12.4 歳)とした。なお,職員の職種は,ヘルパー,介護福祉士,看護師,柔道整復師,理学療法士であった。対象者には,紙面によるアンケート調査を実施した。アンケート項目は,上司から感じている思いやりについて「上司はあなたが困っている状況を話すと理解してくれる」など4 つの設問を設定した。利用者に意識している思いやりについては「あなたは利用者が困っている状況を理解しようと意識している」など4 つの設問を設定した。各設問に対し,①そう思う(1 点)から,⑤そう思わない(5 点)の5 件法にて回答を得ることとした。分析方法は,回答を点数化し,上司からの思いやりの合計点と利用者への思いやりの合計点との関連を,スピアマンの順位相関係数を用いて検討した。【倫理】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究の趣旨,目的,内容,方法などの説明を行い,対象者の同意を得た上で実施した。なお,対象者の個人情報が特定されぬよう,アンケートの回答は無記名にする等の配慮を行った。【結果】上司からの思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 8),利用者への思いやりの合計点の中央値は6(5 ‒ 7)であった。スピアマンの相関係数が中等度の正の相関(r = 0.478, p < 0.05)を認めた。【考察】結果より,職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性があることが示唆された。これは,思いやりを感じる力と思いやりを持つ力は共感する能力に起因して生じた可能性がある。上司からの思いやりを感じるには,前提条件として,上司が思いやりを持っていることに対する共感が必要となる。また,他者への思いやりは共感から生じるものであり(満野ら2010),利用者への思いやりも共感をもつことが前提となる。つまり,2 つの質問の性質は両方とも他者への共感に基づくものであったといえる。よって,思いやりを感じる力を育むことは,他者に思いやりを持つ力を育むことと同意となる。思いやりは後天的な遺伝的要因以外の部分のほうが影響するといった報告がある(Varun Warrier 2018)。また,米グーグル社は2012 年から始めた研究(プロジェクトアリストテレス)でも思いやりに近似する心理的安全性がサービスの質を向上させると結論づけ,その形成に効果が証明されているマインドフルネスなど内観的プログラムを開始している。このような報告を応用し,在宅分野の理学療法士を含む医療福祉職における思いやりを育む教育を実践し,その効果を検証することが今後の課題である。【結論】職員が上司から感じている思いやりと,職員が利用者に意識している思いやりには,関係性を認めた。
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>理学療法士の声かけは患者の意欲を向上させるといわれているが,その具体的な方法は明らかではない。声かけにはフレーミング効果という概念があり,それは意思決定場面において論理的に同値であっても表現方法(言い回し)の違いにより選好結果が変わるという概念である。我々はこのフレーミング効果に着目し,肯定的言い回しが一部の理学療法想定場面で患者の意欲を向上させることを示唆したが,ランダム化した研究的枠組みではなかった。本研究の目的は,理学療法想定場面でのフレーミング効果を意識した声かけが,患者の意欲に与える影響をランダム化した研究的枠組みで検証することである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,理学療法実施中の入院患者102名(男性31名,女性71名,年齢75±12.3歳)とした。方法は,紙面による回答方式とした。手順は,理学療法を進める上で重要となる1)トイレ練習,2)歩行練習,3)痛みへのリハビリ,4)理学療法全般に対する取り組み,5)退院に向けた取り組みの5つの場面を想定し,各場面における声かけの肯定的,否定的言い回しを作成した。次に,紙面には5つの場面ごとに肯定的,否定的のどちらかの言い回しをランダム化したうえで記載した。患者には紙面を無作為に選択させ,5つの場面にあるどちらかの言い回しを読み,意欲を感じるかどうかを5件法(やる気を失うからやる気が出るまで)によって回答させた。分析は回答を1~5点で点数化し,場面ごとに言い回し別の平均値を算出し,比較検討した。統計処理にはウィルコクソンの符号順位検定を採用し有意水準はp<0.05とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各場面における肯定的,否定的な言い回しは結果的に51名ずつに分かれた。1)における肯定的言い回しの平均値は4.49±0.83,否定的言い回しの平均値は3.54±1.29であり,肯定的言い回しが有意に高かった。次に,3)では4.63±0.6,4.04±1.28,4)では4.51±0.88,3.75±1.26,5)では4.37±0.94,3.75±1.31の3項目についても肯定的言い回しは有意に高かった。一方,2)では4.55±0.64,4.26±1.15と有意な差は認められなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>結果から,歩行練習を除き,トイレ練習,痛み,理学療法に対する取り組み,退院に対する理学療法想定場面において,肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に有効であることが示唆された。肯定的な言い回しは患者に肯定的な結果を直接想起させるため,患者の意欲が向上したと考えられる。歩行練習で言い回しに違いがみられなかったのは,すでに歩けるようになる等の説明を受けていたことが要因となり,意欲が左右されなかったと考えられる。以上より,いくつかの理学療法想定場面ではフレーミング効果を意識した肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に効果的であることが示唆された。今後はさらに声かけの言い回しやタイミング,患者の心身状態等にも着目し,有効な声かけや関係性作りについて知見を検討していきたい。</p>