著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = BULLETIN OF NARAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.53-58, 2021-12-17

温泉旅行の効果に関する先行研究の多くは温泉浴の疾病に対するものであり、生活の質への効果やその因果関係を明示するものは少ない。しかし、高齢者に人気のある温泉旅行を、生活の質を向上させるためのソフトインフラとして、新たな視点から理論的に再構築する意義は大きい。日帰り温泉旅行における2つの実態調査からは、要介護高齢者には多様な楽しみ方があることや、多様な思い・感情・変化があることが示唆されている。これらを温泉旅行へ理論的に組み込むことができれば、地域リハビリテーションの新たなソフトインフラになる可能性があると考えられる。本稿では、これらの知見を通じて、温泉旅行をソフトインフラとして理論的に再構築し、多様な工夫や企画等を提案し、その可能性や課題を考察する。
著者
オチャンテ 村井 ロサ メルセデス オチャンテ カルロス
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.167-177, 2017-09-29

本論文では日本のカトリック教会にニューカマーがやってきてからどのように変化したのかを論じる。ニューカマーの増加が教会での信者数へ影響し始めたのは90年代である。その後、外国人集住都市と呼ばれる地域の教会では主にブラジル人、ペルー人、フィリピン人などのカトリックコミュニティ(共同体)が誕生し、数十年の歴史を持っているものも多い。ニューカマーの増加によって多民族化した教会ではミサなどの行事が多言語で行われるなど様々な対応と支援が行われている。本論文で対象にした伊賀市カトリック教会はこれまで多文化共生を課題に発展したケースであり、成功例でもある。
著者
宇津木 成介 野口 智草
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.187-195, 2016-09-30

文系の学部における初等統計学の教育では、標本から母集団の分散を推定する際、標本の偏差平方和をnで割るかわりにn-1で割るべきことを教えるが、なぜそうであるのかを説明することは簡単ではない。本研究では、複数の内外の教科書がこの問題についてどのように対処しているかを概観した。結論として、いずれの教科書においても、わかりやすい説明は見当たらなかった。初学者向けの説明としては、実例を多く挙げて説得を試みること、また、n個の標本に基づく標本平均値の分散の期待値が母分散をnで割ったものに等しいことをわかりやすく説明することが必要であろう。
著者
田中 里奈 若林 たけ子 東中須 恵子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.113-121, 2016-09-30

本研究では、入院中の患者が衣服を選択する理由について明らかにし、その衣服が闘病意欲に与える影響について考察することを目的とした。 対象は衣服の自由選択を前提に病衣貸与体制を導入しているY総合病院に入院中で、研究協力に承諾が得られた患者62名。方法は患者のベッドサイドで質問紙に基づいた聞き取り調査を行った。対象となった入院患者62名中、妊婦を除く男性24名、女性30名の計54名を分析対象とした。分析は Microsoft Excel を用いた統計処理とt検定、χ2検定、及び記述的に分析した。 対象の特性は、病衣選択者74.1%で、t検定5%水準で女性の方が病衣の着用が有意に高い集団であった。これは入院対象者が家族と同居している割合が88.9%と高く、そのうち85.2%が家族に洗濯を依頼していたことが影響しているものと考える。私服を選択する理由は、病衣に対する抵抗感と、デザインやカラー、サイズが選べて動きやすい、着心地が良いために落ち着くなどの私服としての得点に二分されていた。病衣に対して不満を持っている割合は50%であったが、性別では女性のほうが男性よりも20%以上高かった。これは、一般的に合理性を重視するといわれている男性特有の性格的なことが影響しているのではないかと考える。病衣に対する不満理由は恥辱感、個の尊厳の喪失感、不合理性、不快感の4つの因子とその他で構成されていた。これは不満理由として女性から多く挙げられていたことと、清潔、耐久性、利益などの病衣としての特徴を備えていることではないかと考える。衣服と闘病意欲と性別との関係では、男性よりも女性のほうが闘病意欲は高く、病衣と私服と闘病意欲の関係では病衣のほうがχ2検定1%水準で有意に低かった。これは女性のほうが、退院後にも家庭での役割を持つためと考えられる。また、私服は社会性を維持していくために影響しているものと考えられた。 以上から入院中でも、個の尊厳を維持できる衣生活を心がける事が重要である。
著者
岡村 季光 多根井 重晴
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
no.12, pp.23-28, 2020-03-10

本研究は、各SNSにおけるアカウント保有数に着目し、自己隠蔽傾向との関連を検討することを目的とした。SNSにおけるアカウント保有数について、Twitterは約40%の者が複数アカウントを保有していることが明らかとなった。各SNSアカウント保有数と自己隠蔽傾向の関連を検討した結果、Twitterと自己隠蔽は有意傾向の正の相関、Facebookとは有意の正の相関が認められた。青年期のSNSの利用において、アカウントを複数所持する者ほど、アカウントを使い分けながら、本当の自分は見せないようにふるまっている可能性が示唆された。
著者
小竹 光夫
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
no.11, pp.75-84, 2019-09-30

奇しくも、「昭和」から「平成」に続いて、「平成」から「令和」への改元に遭遇することとなった。元号に対しては、さまざまな立場・思想に基づいて多くの主張があるところである。ある意味で自主・自治が認められている大学という環境下では、頑ななまでに元号不使用を唱える研究者もおり、それは授業資料の日付表記にまで及んでいた。思想がないと叱責されるかも知れないが、論者にはそこまでの主張はなく、元号にしても、西暦にしても、必要に応じて使い分ける、あるいは併記するという形で用いてきたのが実際のところである。明治以降、我々は「一世一元」を通常と考えてきたが、今回の改元は「生前退位」という形をとり、我々が常識と考えてきた形態とは異なるものとなった。歴史を遡れば、「一世一元」の方が稀であり、従前はいわゆる「年号」として扱われていたのであるから、法的な立場を離れればこと珍しいことではない。本論においては、「元号」の思想的な部分に焦点を当てるのではなく、極めて「特殊」な形で提示された「令和」という墨書文字に切り込み、論者が関わる書写書道教育、つまりは文字学習の視点からの問題点を分析し、考察を加えようとしている。なお、新元号の発表が4月1日、改元が5月1日であったことから、掲げる資料の多くがキャプチャー画像によることをお詫びするとともに御理解いただきたい。
著者
山本 美紀 筒井 はる香
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.119-126, 2018-03-10

要旨明治時代後半以降、一部の人のものであった子供と教育への関心は、「こども博覧会」(1907(明治39)年5月4日~16日)をきっかけに、急速に高まりを見せる。博覧会に関わった出版社や新聞社は、子供を対象とした様々な雑誌を創刊したり、教育的イベントを企画したりし、「子供のための」取り組みは大正期に入ってさらに読者を獲得、広がっていく。本稿は、そのような社会的ムードの中で展開した、山田耕筰の童謡観について、山田自身の2つの著述「作曲者の言葉――童謡の作曲に就いて」(『詩と音楽』大正11年11月号ほか所収)、「歌謡曲作曲上より見たる詩のアクセント」(『詩と音楽』大正12年2月号所収)に基づき考察するものである。これらは、前者が概論だとするならば、後者は、実践編にあたる。著述の内容からわかる山田の童謡への姿勢と、そこから生み出された≪あかとんぼ≫の分析から明らかになるのは、「赤い鳥」運動の高い志を保ち芸術的童謡を模索する中で、日本語詩のアクセント論にたどり着き、西洋音楽理論を超えた日本語固有の拍節感から作品を生み出したことである。初期の学校教育と社会教育活動は重なる部分が多い。童謡における山田の活動は、全国各地の小学校で、文部省唱歌の代りに童謡をうたわせることが多くなった時代にあって、初期唱歌教育において目指された共通日本語教育への志向が、芸術家によって一定の見解をみた大きな成果の一つであった。
著者
梶田 叡一
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.15-21, 2017-03-10

潜伏キリシタンの伝承物語『天地始之事』の基本性格や、この物語が発見された経緯などについては前稿で述べた(1)。本稿では、その内容の全体像について検討する。
著者
池田 耕二 山本 秀美 古家 真優 梅津 奈史 大塚 佳世
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = BULLETIN OF NARAGAKUEN UNIVERSITY (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.7-17, 2021-12-17

株式会社ハーフ・センチュリー・モアが運営しているサンシティ木津ロイヤルケアにて新たにリハビリテーションうららかを開設するにあたり、筆者ならびにサンシティスタッフが共に取り組み、約2年間にわたりリハビリテーション(以下、リハビリ)を実践してきた。今回、これらの振り返りを通して、介護付き有料老人ホームにおけるリハビリの効果や役割、その可能性、課題を考察した。その結果、筆者とサンシティスタッフが共同で取り組んでいる介護付き有料老人ホームのリハビリは、リハビリスタッフと入居者、家族とのコミュニケーションや関係性を基軸に、喜びや安心感という感情表出、全身調整機能や生活リズムの再構築、集団リハビリというコミュニティ、環境変化からくる多様な効果や役割が総じて、入居者や家族の生活の質(Quality of Life:QOL)向上の可能性を高めていると考えられた。これらを考慮したリハビリが実施できれば多様な障害像を有する入居者のQOL向上が図れると期待することができる。これらについてはさらに検証を加える必要があり、今後の課題となった。
著者
森瀬 智子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
vol.13, pp.105-116, 2020-12-21

本稿は、唱歌の始まりである明治期から現在までの学校音楽教育における、歌唱技能の発声と合唱についての変遷を辿り、学校教育で現在求められている児童・生徒の発声指導と合唱活動について考察したものである。呼吸については合唱活動が盛んであった時期に出版された品川三郎の『児童発声』における発声指導を『日本声楽発声学会関西支部学会誌』¹⁾(2015年度)に基づき妥当性を検討した。本研究によって明らかになったことは、音楽の授業時間削減と教育の転換よって音楽の技能習得重視から主体的に技能を活用することに重点が置かれるようになり、学校教育での音楽関連の行事削減も相まって、指導に時間を要する発声法等の技能に関わる内容や合唱についての記述の減少である。特筆すべきことは、中学校において3年間で60時間音楽の授業時数が減少した平成10年度改訂からは、日本の伝統音楽の発声と従来の歌唱の発声を一緒に扱い、学習指導要領では「曲種に応じた発声」と記載され、合唱に至っては、記載がなくなったことである。このような現状況により児童生徒の合唱の機会は減ったが、NHK主催の学校音楽コンクールによる魅力ある合唱曲の発信によって、急激な合唱離れは回避できている側面もあり、今の児童・生徒に合った曲を提供することが、今後の学校教育で合唱活動を推進していくことの一助になることも分かった。また、時数削減の中児童・生徒が技能を身に付けるには、医学的根拠に基づいた呼吸法・発声を教員が理解し指導することがより必要である。発声指導の内容に関しては、本稿で採り上げる品川(1955)は現在医学的根拠に基づき発表されている日本発声学会関西支部の歌の呼吸の考え方と同じ部分が多く、実践した際には効果が期待できる呼吸実践法であることが明らかになった。
著者
池田 俊明 杵崎 のり子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-12, 2016-09-30

我が国においては、以前より、児童生徒の学習意欲および自己評価の低迷が指摘され、いわゆる「やる気のなさ」が問題視されている。しかし、筆者が複数の小学校で行った児童からの聞き取り結果を、古典的動機づけ理論および近年の無意識研究の成果に照らして鑑みると、彼らの状況は「やる気はある、しかし取り組めない」と評価する方が妥当であると考えられる。そこで、無意識主の行動決定モデルのもと、意識、無意識両方に働きかけ、児童らが既に持っている学習意欲を抑え込まれた状態から解放し、行動へと繋がりやすくすることを目的に、学習ゲーム体験を軸とした一連のワークショップをデザインし、これを「やる気解放指向アプローチ」と名付けた。このアプローチを児童(小学4、5年生140人)に試みた結果、アンケートにおいて82.9%の児童に勉強観・自己評価の前向きな変化が見られ、48.6%の児童が、以前よりも勉強を頑張れるようになったと回答した。これらの結果は、やる気解放指向アプローチの有効性、およびその実施のためのツールとしての学習ゲームの有用性を示唆している。
著者
熊田 岐子 岡村 季光 オチャンテ カルロス
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
vol.10, pp.55-61, 2019-03-10

本稿では、熊田・岡村(2018)で着目した「基本的自尊感情を育む共有体験」(近藤、2010)を応用し、英語スピーキングの共有体験に関する調査を行った。「自尊感情を育む共有体験」として、英語スピーキングを場面と定め、他者とのコミュニケーションにおける英語スピーキング不安を検証した。具体的には、ペアワーク、グループワーク、クラス発表を場面として設定した。考案した項目を因子分析した結果、ペアワーク、グループワークにおいては「肯定承認」、「安心」、「忌避」、クラス発表においては「肯定承認」、「不得意」の構造を見いだした。さらに、英語スピーキング不安、対人不安傾向、自尊感情、自己受容、他者受容との関連を検討し、他者からのフィードバックが得られるグループワークが有効である可能性が示唆された。今後の展望として、他者からのフィードバックとして、信頼する人、すなわち教師がすべきフィードバックについて検討することが課題として残された。
著者
辻井 直幸 大西 雅博
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
no.11, pp.113-123, 2019-09-30

私が教師として務めさせて頂き、携わってきた音楽教育は、わが国の学校教育法の目標のもと学習指導要領が示され、その目標を達成すべく30有余年が過ぎた。その間に、私が体験した、学習指導要領の変更は大きく3回(平成4年の改訂も含めると4回)行われたことになる。まず平成10年に告示された、いわゆる「ゆとり教育」なるもので、平成14年から実施された。平成15年には一部改正が行われ指導が進められた。そして、平成17年に「教育課程の基準全体の見直し」等について文科大臣から要請があり、中央教育審議会が審議を開始した。2回目は平成18年に教育基本法の改正があり、平成19年に学校教育法の一部改正がおこなわれた。そして平成20年に「脱ゆとり教育」として「生きる力」を育む理念とともに答申が発表され、現行の指導に至っている。さらに、今回3回目にあたるのが、平成29年に中央教育審議会の答申を踏まえ、中学校学習指導要領の改訂が示され、平成30年から移行措置として先行実施されることになった。この改訂は令和3年を目指し完全実施される予定である。このように教育の土台となる学習指導要領は、約10年ごとに見直され、時代に合わせて編成し直されていることになる。実際、私が携わっている音楽教育においても、たとえば「鑑賞」の領域について見てみると、30年前は単に幅広く曲を聴かせて感想を書かせるようなものが多かった。それが「主体的・能動的」に鑑賞できる活動が提案され、「音楽文化の理解を深め、音楽を尊重する態度」の育成に努めるよう変わってきた。さらに、「曲想と音楽の構造の関わり」を理解し、その背景にある「文化」や「歴史」を知ることも含め「根拠」をもって他者に音楽の良さや美しさを伝え説明できる能力を培うことを義務付けられている。また、今回の改訂では、「生活や社会における音楽の意味や役割」「音楽表現の共通性や固有性」といったものについても考えるように示されている。ただ、この能力は、ほとんど専門家の領域に近く、学問としては音楽美学で扱うようなテーマだ。一般のしかも中学生が持てる能力としてはかなり高度なものと言える。現在、悪戦苦闘しながら日々、授業を行ってはいるが、なかなか文科省の狙う能力にはまだまだ遠い気がしてならない。しかし、その能力を伸ばすべく音楽教育が本当に楽しく有意義に展開されるなら、その活動の過程にこそ必ず「本物の音楽」に触れることができるものと信じている。そのことを期待して、この改訂をきっかけにさらに研究を深めていきたいと考えている。
著者
辻下 聡馬 涌井 忠昭
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
vol.12, pp.159-165, 2020-03-10

高齢化とともに平均寿命と健康寿命との差が課題となっている。この差を短縮することは高齢者の生活の質を高めるだけでなく、社会保障費の削減も期待できる。健康寿命の延伸に向けて高齢者が運動や健康づくりを行う際には、人生の目的を考え、そのうえで実施可能な運動や活動を行っていく必要がある。高齢者の運動や健康行動の変容に関する研究では、外発的・内発的動機づけの有効性や、運動がQOLの向上に及ぼす影響などについての報告は見られるが、高齢者の人生の目的に着目し、人生の目的と健康状態、生きがいおよび肯定的な感情との関連性に関する研究は筆者らの知る限り見受けられない。そこで本研究では、高齢者の人生の目的と生きがい、前向きな態度および健康関連QOLとの関係を明らかにすることを目的とした。調査対象および方法としては、大阪府A区に居住する65歳以上の高齢者で、老人会の運営を行っている18名(男性15名、女性3名)に対して、人生の目的、生きがい、前向きな態度および健康関連QOLに関する質問紙調査を行った。その結果、健康関連QOL(SF-8日本語版)における身体的サマリー(身体的QOL)と精神的サマリー(精神的QOL)、生きがい、前向きな態度の値は、人生の目的の高い群が低い群より高値を示し、身体的サマリーのみ高い群が有意に高い値を示した(p<0.05)。人生の目的が高い者は、健康的な行動を促進し、健康に対する肯定的な意識が高いと示唆された。高齢者が人生の目的を高く持って運動することは、健康寿命の延伸の一助になると推察される。
著者
小竹 光夫
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
vol.11, pp.75-84, 2019-09-30

奇しくも、「昭和」から「平成」に続いて、「平成」から「令和」への改元に遭遇することとなった。元号に対しては、さまざまな立場・思想に基づいて多くの主張があるところである。ある意味で自主・自治が認められている大学という環境下では、頑ななまでに元号不使用を唱える研究者もおり、それは授業資料の日付表記にまで及んでいた。思想がないと叱責されるかも知れないが、論者にはそこまでの主張はなく、元号にしても、西暦にしても、必要に応じて使い分ける、あるいは併記するという形で用いてきたのが実際のところである。明治以降、我々は「一世一元」を通常と考えてきたが、今回の改元は「生前退位」という形をとり、我々が常識と考えてきた形態とは異なるものとなった。歴史を遡れば、「一世一元」の方が稀であり、従前はいわゆる「年号」として扱われていたのであるから、法的な立場を離れればこと珍しいことではない。本論においては、「元号」の思想的な部分に焦点を当てるのではなく、極めて「特殊」な形で提示された「令和」という墨書文字に切り込み、論者が関わる書写書道教育、つまりは文字学習の視点からの問題点を分析し、考察を加えようとしている。なお、新元号の発表が4月1日、改元が5月1日であったことから、掲げる資料の多くがキャプチャー画像によることをお詫びするとともに御理解いただきたい。
著者
川崎 聡大 荻布 優子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
vol.9, pp.59-63, 2018-09-30

本稿では、まず自閉症スペクトラム障害の定義、症候について概説するとともに、DSM-5定義の改定とともに診断基準に明記された感覚過敏について、特に最も頻度の高い聴覚過敏をとりあげてレビューを行うとともに、その機序を生理学・病理学的観点から検討を加えた。その結果、聴覚過敏が一次聴覚皮質から聴覚連合野由来の要因と辺縁系由来の要因に起因し、症候の程度や予後は知的障害の程度の影響を受けることを示唆した。聴覚過敏の機所は一様ではなく、複数の要因に起因し、環境要因をはじめ、多くの要因がその後の経過に交絡している可能性を示した。よって、過敏に対する効果的な対処方法を検討する際には背景要因を見極め、機序に応じた対処が必要となる。
著者
山田 明広
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.97-109, 2017-09-29

台湾道教の死者救済・追善供養の儀礼(=功徳儀礼)を構成する儀式の一つに、「打城」という儀式がある。この儀式は、亡魂を地獄より直接的に救い出すことを目的として行われ、その中では、道士が実力行使により地獄の中にある城門を打ち破り、そこから亡魂を救出するということが演劇的に表現される。本稿は、このような台湾道教の「打城科儀」の実施される条件や使用される糊紙製の地獄の城、科儀の内容、構成といった基礎的事項について、台南地域のものと高雄・屏東地域のものを相互に比較することで地域的差異にも留意しつつ考察したものである。本稿における考察により、現代の台湾南部地域で見られる打城科儀の具体像および台南地域と高雄・屏東地域の打城科儀の共通点や相違点が明らかとなった。
著者
森 基雄
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.97-108, 2018-03-10 (Released:2018-04-11)

要旨古英語において‘go’を意味する動詞であった長形gangan(<Gmc*gang-a-)と短形gānのうち、ganganは強変化動詞7類として分類され、その過去形としては本来の強変化動詞7類としての重複形*gegang-に由来するġēongを有したが、gānは不規則動詞として分類され、不規則な過去形ēodeを有した。またēodeはganganのもう1つの、しかも散文ではむしろ一般的な過去形でもあった。同様に、OEganganに対応するGogagganは不規則な過去形iddjaを有した。このように‘go’の過去形としてはまったく不規則な形態を成すēodeとiddjaの成り立ちと両者の語源関係についてはこれまでにさまざまな提案がなされてきたが、本稿ではこれらの提案に基づき、歴史的な観点からēodeとiddjaの成り立ちとその真の姿に迫った。