著者
滝脇 知也 固武 慶
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.170-178, 2015-03-05 (Released:2019-08-21)

重力崩壊型超新星は,大質量を持つ星がその進化の最終段階に迎える断末魔で,宇宙で最も激しい爆発現象のひとつである.超新星は今後建設が計画されている超大型光学望遠鏡のターゲットとなっているばかりでなく,小柴名誉教授らがノーベル賞と共に切り拓いたニュートリノ天文学や,今後ノーベル賞が期待される重力波天文学の重要な候補天体になっている.また爆発後に残される中性子星,ブラックホールといったコンパクト天体の形成過程そのものであり,爆発時に合成される元素組成は銀河の化学進化を決め,膨張する衝撃波は宇宙線加速の現場にもなっている.このような多面性から,超新星は一天体現象でありながら,天文学や高エネルギー宇宙物理分野において最も注目される天体現象の一つである.このような重要性にもかかわらず,爆発がどのような物理機構で引き起こされるのかについて,極めて長きにわたる研究の歴史を持ちつつも,いまだ完全には明らかにされていない.爆発メカニズムの解明には,超新星の中心核(コア)で起こっている微視的な物理素過程を理解することがまず第一に重要である.さらにその上で,星が爆発していく巨視的なプラズマ・電磁流体現象としての動的な振舞いも同時に明らかにする必要がある.このように自然界の4つの力をすべて含むマルチフィジックス・マルチスケールの現象が非線形に進化していく系の時間発展を追うためには,数値シミュレーションの実行が欠かせない.最も有力視されているシナリオは,コア内で一度は止まってしまった衝撃波をニュートリノで加熱して温め復活させるというものである.超新星コアは,ニュートリノによる物質の加熱・冷却が起きる場所が異なる大局的なシステムであり,この現象をシミュレートするためにはボルツマン輻射輸送方程式を一般相対論的な流体・時空の進化と合わせてセルフコンシステントに解く必要がある.従って非常に高い計算コストが要求され,これを効率的に解くことは数値宇宙物理学のファイナルフロンティアの一つである.そうした複雑な問題を解くのに適しているのはスーパーコンピュータである.近年の超新星理論の急速な進展は計算機の発展によりもたらされている部分が大きい.原子核・素粒子物理の発展に伴うマイクロ物理の精緻化とそれを組み込む流体・輻射輸送の数値コードの改良の末,ようやく空間3次元の超新星シミュレーションが可能になった今,「爆発する超新星モデルが作れない」という長年の問題が解決に向かいつつある.今後の最重要課題は,爆発時に放たれるマルチメッセンジャー(重力波・ニュートリノ・電磁波)のシグナルに関する理論モデルを総合的に解析し,将来の観測と比較できるようにすることである.次世代計算機とマルチメッセンジャー観測という2つのスポットライトに照らされて,長い間ベールに包まれていた壮絶なる星の最期の真の姿がいよいよ我々の前に現れようとしている.
著者
固武 慶 神田 展行 滝脇 知也 端山 和大
出版者
福岡大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は、まず、データ解析に関する研究において、初年度に購入した重力波観測データ解析用計算機上に構築した超新星爆発からの重力波などの突発性重力波検出用の重力波探査用解析ソフトウェアを用いて、2020年2月から2020年4月にわたって行われたLIGOとVirgo、KAGRAによる共同観測で得られたデータの解析を行った。その中で特に、突発性重力波の探査について国際共同観測チームをリードして、解析を進めた。観測結果を論文にする上でも中心となって進めている。また、超新星重力波の円偏光についての検出可能性に関して、世界の独立したグループが行った3Dシミュレーションで得られた様々な重力波形に対して調べ、モデルには寄るが、コアの回転を持つモデルに関しては5kpc程度まで検出できることを示し、論文を投稿し、現在査読中である。また、前年度より準備されていた観測データの本研究のバースト解析サーバへの連続送信を稼働させた。国際観測網のデータを10秒前後の遅延時間で受信した。ラプラス変換を利用した短時間遷移信号の解析フィルタを開発し、重力波波形に対する基本的な挙動の評価も行った。理論研究のハイライトとしては、20太陽質量をもつ大質量星の空間3次元の一般相対論的磁気流体シミュレーションを行い、ニュートリノ加熱とともにコアの高速自転によって増幅された磁場が爆発を後押しする、磁気駆動爆発が起こることを示した。ジェット状の爆発に伴い、いわゆるメモリー効果を伴う重力波波形が生成されることを突き止め、現在、論文として発表準備中である。昨年度から引き続き星震学の線形解析法を原始中性子星に適応する手法を開発し、本年度は3本の論文で重力波のモードの擬交差を利用したモード同定について、流体計算の次元が重力波の周波数を変えるか、一般相対論的なメトリック摂動の自由度が重力波の周波数を変えるかなどについて詳しく調べた。
著者
佐藤 勝彦 橋本 正章 鈴木 英之 山田 章一 長滝 重博 固武 慶 滝脇 知也 渡辺 元太郎 大西 直文 住吉 光介 藤本 信一郎 木内 健太 岩上 わかな 澤井 秀朋 安武 伸俊 西村 信哉 諏訪 雄大 中里 健一郎 長倉 洋樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2007

本研究課題では大質量星が進化の最後におこす重力崩壊型超新星及びガンマ線バーストの爆発機構・源エンジンについて世界最先端の研究を行い、多くの成果を挙げた。大規模数値シミュレーションによる研究を豊富に行い、場合によっては京コンピュータを用いた世界最高レベルの数値シミュレーションを実現した。またこれらの現象に付随して起こる重力波・ニュートリノ放射、r-process元素合成を含めた爆発的元素合成、最高エネルギー宇宙線生成、等々について世界が注目する成果を数多く挙げた。以上の様に本研究課題では当初の予想を上回る、世界最先端の成果を修めることが出来た。また同時にこの分野に於ける将来の課題・展望を提示しつつ5年間のプログラムを終了した。