- 著者
-
土井 隆義
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.38, pp.78-96, 2013-10-15
日本の少年犯罪の摘発件数は,2003年から減少を続けている.分母に少年人口を置いても,それは同様である.本論考は,この現象に寄与していると考えられる要因のうち,統制側の摘発態度の変化の可能性については保留し,少年側の心性の変化の可能性から説明を試みたものである.犯罪社会学において,逸脱主体の動機形成に着目した犯罪原因論には,伝統的に大きく2つの流れがある.1つは社会緊張理論であり,もう1つは文化学習理論である.そこで本論考は,この両者の視点から現在の日本を観察し,それらの理論が自明の前提としていた社会状況が,いまや見られなくなっていることを明らかにした.逸脱行動は,社会緊張がもたらすアノミーに晒されることによってノーマルな日常世界から押し出され,逸脱文化への接触とその学習によって逸脱的な下位世界へと引き込まれることで促進される.そうだとすれぼ,社会的緊張が弛緩し,また逸脱文化も衰退してくれば,それだけ逸脱行動への促進力は削がれることになる.それが現在の日本の状況である.現在,そのような状況が見られるのは,すでに日本が前期近代の段階を終え,後期近代の黎明期を迎えているからである.そして,この時代の特徴の一つといえる再埋め込みへの心性から派生した新たな宿命主義が,この現象をさらに背後から促進している.犯罪の多くは不満の発露であり,不満の多くは希望の裏返しだからである.