著者
町田 裕璃奈 日野 麻美 堀 成美 奥村 貴史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.725-732, 2022-03-15

2020年に生じた新型コロナウイルスによるパンデミックは,世界各国に大混乱を引き起こした.日本の行政機関においても,対応のため様々な業務が発生し,とりわけ,保健所ではファックスを中心とした業務慣行の非効率が注目された.そこで厚生労働省は,感染症対策の最前線にあたる医療機関や保健所の負担軽減を目指し,ウェブシステムを新規開発しその代替を図った.しかし,業務知識を欠いたまま設計したシステムは,実際の保健所業務と合致せず導入に時間を要したことに加え,各自治体側が自助努力として進めていた業務支援策とのミスマッチが生じた.結果として,開発したシステムの活用は低調にとどまり,期待された情報集約の迅速化は実現しなかった.一方,地方自治体や医療機関では,国よりも限られた予算や権限において様々なシステムを開発し,感染対策に役立てていった.システム開発において,現場の業務知識を欠いたままトップダウン方針のみを強化すると,実ユーザとの乖離の拡大を通じたシステムの破綻という逆説的な状況が生じうる.デジタル庁の設置を初めとした今後の行政情報化に向け,貴重な教訓の共有とともに,行政におけるボトムアップ型の開発手法の検討が望まれる.
著者
堀 成美 松本 加代
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.170-173, 2021-02-01

本連載で先に紹介した2つの事例では,地域の医療機関がどのように新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)に備えたか,また専門家が不在の中でどのようにクラスター対応をしたのかを紹介した.連載第5・6回は,新型コロナの医療の特徴である,保健所を介在した調整とその連携について紹介する.新型コロナ診療が他の感染症の診療と大きく異なる点は,確定診断となった患者の入院調整に保健所が関わることである.結核やHIV感染症の場合,診断した医師がそのまま自分の施設で診るか,近隣の専門医療機関に紹介する.その場合,どのような現場・経緯の症例なのかは,医師同士で連絡を取り合い,事務的なことは医療連携部門のスタッフが調整するため,患者情報を得るのはそれほど難しいことではない.一方,新型コロナでは,発生届が保健所に送られ(FAXまたはHER-SYS),その後,保健所の職員が電話で患者に連絡し,体調の確認,行動歴の確認と濃厚接触者の把握をしながら,入院調整を行う.件数が少なく,地域の受け入れ医療機関のベッドに余裕があればそう難しいことではないが,急性呼吸器感染症は広がりやすく,無症状者や軽症者を含めて規模の大きな症例群への対応が必要になるのが特徴であり,「稀な少数の症例対応」モデルはすぐに破綻する.重症以外は自宅療養を基本とする国も多い中,日本は当初,「全例」入院対応だった.その後,報告事例が増加し,軽症者がベッドを埋めて新規症例の入院調整が困難になる中,軽症者や回復者は一定条件の下,自宅療養やホテルなどの宿泊施設での療養が選択できるようになった.さらに2020年10月24日からは,年齢(65歳以上),基礎疾患などにより優先的に入院する人たちと,無症状・軽症者を初期に整理して準備した病床が軽症者で埋まらないようにするための運用の変更が行われ,地域事情に合わせて調整できるよう,自治体の判断が尊重されている.連載第5・6回では,筆者がアドバイザーとして支援している東京都港区の経験から,医療機関と患者の間で調整している保健所の取り組み・課題を紹介する.
著者
堀 成美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.82-83, 2018-01-01

2017年1月6日の産経新聞に「国保悪用の外国人急増 留学と偽り入国,高額医療費逃れ 厚労省,制度・運用見直し検討」という記事が掲載された.2016年に筆者が参加した外国人患者受け入れ体制整備関連のセミナーでも,「健康保険証の不適切な使用事例がある」というフロアからの同様の指摘があった. 外国人に限らず,健康保険証の偽造や不適切な使用による診療報酬詐欺といった事件は,メディアでも何度も報じられている.外国人患者が増えると,このような問題が増えるのではないかという指摘は当初からあった.在留・訪日外国人が増えるなかで,今後,医療機関が経験するかもしれない健康保険証をめぐる問題のパターンとその対処について紹介したい.
著者
堀 成美 大西 潤子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.956-959, 2020-12-01

新型コロナウイルスに限らず,市中で感染症が流行すると,医療機関に必ず持ち込まれることになり,それをゼロにすることはできない.それでも,持ち込まれても拡大させないようにする有効な方法はある.それは,持ち込まれたことに気づいてから何とかする特別な方法ではなく,知らず知らずに持ち込まれたとしても広げない環境や予防の手技が実践されているかどうかにかかっている.本連載第3・4回は,感染管理の専門スタッフがおらず,手指衛生やマスク着用といった感染対策への協力が難しい患者が多い精神科病棟で広がった新型コロナウイルス感染症の対策のリーダーとなった武蔵野中央病院・大西看護部長にお話を伺う.
著者
堀 成美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.836-839, 2020-11-25

2020年春ごろに新型コロナウイルスに感染した方へのインタビューを行い,実際に罹った際の当時のことや,ホテルでの療養を経験されて感じたことを語っていただきました。
著者
堀 成美 中瀬 克己 中谷 友樹 谷口 清州
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.166-171, 2011-03-20 (Released:2015-04-06)
参考文献数
19

Human immunodeficiency virus (HIV) 感染症の拡大防止は感染症施策の重要課題であり,流行のフェーズによって有効な介入法,優先順位が異なる.性感染症症例のパートナー (性的接触者) への検査勧奨は低流行国において特に有効とされているが,本邦では制度としては確立しておらず,臨床においてどの程度実施されているのかが明確ではない.そこで,2007 年 9 月から 11 月にエイズ診療拠点病院の HIV 診療担当診療科に所属する医師を対象に郵送での自記式質問紙調査を実施し,その実態および促進因子・阻害因子の検討を行い,エイズ診療拠点病院診療担当科に所属する医師 513 名のうち 257 名から回答が得られた (有効回答率 49.9%).HIV 診療経験を有する群では「ほぼ全員の患者にパートナー健診の話をする」医師は 66.5%,その結果として新規 HIV 症例を把握した経験を有する医師は 37% であり,合計 185 例の新規症例が把握されていた.パートナー健診を実施する際の課題として,時間の不足,法的根拠等の未整備,標準化された説明資料の不足が把握されたが,性感染症のパートナー健診制度が未整備の状況下においても医師の多くは積極的にパートナー健診に関わっていることが把握された.パートナー健診の拡大のためには,根拠となる法律や学会ガイドライン等の整備,および手法や資料の標準化とそれを可能にする研修プログラムの開発,医師の負担を軽減するための他職種の診療への参加が重要と考えられた.