著者
堀江 薫
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.93-107, 2005-07

本稿は、言語類型論の観点から、日本語と韓国語の文法化の対照を行う。具体的には「名詞の文法化」「アスペクトの文法化」「活用形の文法化」という三つのケーススタディを通じて、両言語の文法化に見られる共通性と相違点を明らかにすることを目的とする。両言語の文法構造の類似性を反映して、文法化に関しても表面的には多くの共通性が認められる反面、詳細に観察すると、両言語の間には、文法化パターンの生産性(拡張の度合い)や具体的な文法化の経路の詳細に関して興味深い相違点が観察された。今後は、適時的観点はもとより、談話に繰り返し現れる言語形式、構文が次第に固定化し、一定の文法的意味を表すようになる動的・共時的現象としての文法化の側面にも着目し、両言語の文法化の対照研究が生産的に行われることが期待される。
著者
堀江 薫 村上 雄太郎
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、日本語、韓国語、ベトナム語という「漢字文化圏」に属し、「膠着語」(日韓語)、「孤立語」(ベトナム語)という異なる形態類型論的特徴を持つ3つの言語における、語彙・文法構造に反映した言語接触現象の実態を明らかにすることを目的として3年間の研究を行ってきた。3年間の研究活動は、(I)「ベトナムにおける現地調査」(II)「国内、国際学会における研究発表」(III)「国内外の学術誌、論文集における成果発表」という3点を中心に行われた。(I)に関しては、SARSの流行などのため、当初の計画通り毎年共同で実施することはできなかったが、平成17年3月には代表者(堀江)、分担者(村上)でホーチミン、フエにおいて共同調査、資料収集を行うことができた。(II)に関しては平成15年11月8日に「東アジア言語・東南アジア言語の多機能化の共通性と相違点」フランス語談話会ワークショップ「文法化をめぐって」(京都会館)で共同の研究発表(招聘)を行った。また、この他に、関西言語学会、日本言語学会、社会言語科学会、言語処理学会、言語科学会(JSLS)、日本認知言語学会(JCLA)等での研究発表(招請を含む)を行った。国際学会としては、国際日韓言語学会(JK)、概念構造・談話・言語学会(CSDL)、国際認知言語学会(ICLC)、国際語用論学会(IPrA)、国際文法化学会(NRG3)、国際実用日本語学会(ICPLJ)等での研究発表を行った。(III)に関しては、「11.研究発表」にあげたものをその一端とする論文発表を国内、国外において行った。これらの研究活動の結果、日韓語とベトナム語の間には、言語接触、借用語、文法化に関して形態類型論的な相違を反映した顕著な相違が見られることが分かった。他動性(transitivity)という現象を例に取ると、日韓語は「対格助詞」という助詞に関して「対象」である名詞(句)をマークする用法から「逆接」の名詞節をマークする用法を派生するプロセスが見られるのに対して、ベトナム語や中国語においては、基本的には語順によって目的語をマークするが、それに加えて、「物理的動作」を表す他動詞が「介詞」的な品詞に機能的に転じるという現象が見られるという平行性が観察された。この研究成果は「11.研究発表」の最後にあげた「堀江・村上(印刷中)」として公表することになった。
著者
藤井 洋子 井出 祥子 阿部 圭子 片岡 邦好 片桐 恭弘 堀江 薫 植野 貴志子 菅原 和孝 石崎 雅人
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

この3年間の研究成果は、(1)2009年3月、2011年2月の東京国際ワークショップにて、「場の理論」についての理解を深められたこと、(2)アラビア語のデータ収集とその分析をしたこと、(3)国際語用論学会にて、日本語と英語とアラビア語の比較研究を発表したこと、(4)2009年にJournal of Pragmaticsの『解放的語用論』特集号第一号を発行できたことなどが主な成果といえる。
著者
小野 尚之 堀江 薫 上原 聡 ハイコ ナロック 中本 武志
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、語彙意味論モデルと構文研究を基に語彙情報と事象構造の融合に関する日英語の比較対照研究を行うものである。中心課題は次の3つに集約される。(1)生成語彙意味論によるレキシコン研究の推進。生成語彙意味論モデルのクオリア(語彙情報)が事象構造の解釈をどのように決定するかという問題の解決を目指す。(2)言語における主観性(subjectivity)問題の解明。主観性が事象構造の解釈(例えば、心理状態述語など)にどのように影響するか。そして、構文選択にどのように影響するか。(3)語彙化・文法化における語彙情報と構文の融合についての新たな提案。語彙情報が構文に融合しさらに文法化していく過程には、類型論的に捉えるべき普遍性があることを示す。