著者
兼田 康宏 住吉 太幹 中込 和幸 沼田 周助 田中 恒彦 上岡 義典 大森 哲郎 Richard S.E. Keefe
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.913-917, 2008-09-15

はじめに 統合失調症患者の社会機能に及ぼす影響に関しては,その中核症状ともいえる認知機能障害が精神症状以上に重要な要因であると考えられつつある4,5)。統合失調症の認知機能障害は広範囲な領域に及び,なかでも注意・遂行機能・記憶・言語機能・運動機能の領域が注目されている。認知機能の評価においては,認知の各領域を評価するいくつかの検査を目的に応じて組み合わせて(神経心理学的テストバッテリー,NTB)行われている。しかしながら,NTBは通常専門的かつ高価で時間を要する。そこで,統合失調症患者の認知機能を幅広く簡便に評価し得る尺度は日常臨床および研究において大変有用であろう。統合失調症認知機能簡易評価尺度(The Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia;BACS)は最近Keefeら7)によって開発されたもので,言語性記憶,ワーキング・メモリ(作動記憶),運動機能,注意,言語流暢性,および遂行機能を評価する6つの検査で構成され,所要時間約30分と実用的な認知機能評価尺度である。我々はその有用性に着目し,臨床応用のために,原著者の許可を得たうえで,日本語版(BACS-J)を作成したのでここに紹介する。日本語訳にあたっては,まず2名が独立して仮日本語訳を作成し,その後訳者2名に第3者を加えた計3名で協議したうえで日本語訳を作成し,さらにその後,原文を知らない者2名に独立して日本語訳のback-translationを行わせ,この英文のそれぞれを原著者に確認してもらった。なお,BACS-Jの信頼性,妥当性については,すでに検討されている6)。
著者
原田 貴史 中村 明美 友竹 正人 大森 哲郎
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.33-40, 2007-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

看護職は高い専門性や自律性を求められると同時に,確認や清潔などの徹底も要求される.職場適応障害や燃え尽き症候群など心身医学的治療を要する症状を訴える者も多い.女性看護職に対する質問紙調査では強迫傾向が指摘される.われわれは,心身医学的見地より女性看護職の強迫傾向を検討し,強迫傾向と抑うつ度がQuality of Life (QOL)に与える影響の違いを比較した.自己記入式質問紙MOCI邦訳版(Maudsley Obsessional Compulsive Inventory)による強迫傾向群は16.3%と多かった.心身症患者の心理的特徴とされるアレキシサイミア(失感情症:alexithiymia)傾向は,強迫傾向に有意な相関を示した.アレキシサイミアの中でも「感情の同定困難因子」が,強迫傾向の「確認」「優柔不断」「疑惑」の高さと関係していた.抑うつ度は年齢層やQOL構成項目に限定されず,主観的QOLの低さと相関した.しかし強迫傾向は,若年女性看護職では「身体的領域」「心理的領域」の主観的QOLの低さと相関し,熟年看護職においては「社会的関係」の主観的QOLの高さと相関し,年齢や主観的QOLの領域により異なる影響をもたらす可能性が示唆された.若年看護職は強迫傾向と同時にアレキシサイミア傾向も高く,アレキシサイミアの中でも感情の同定困難と主観的QOLの低さとが関係していた.今後,このような若年看護職に対する心理的サポートをどのようなかたちで,どのような方法で行っていくのかが問われ,心身医学的検討が待たれるところである.
著者
中瀧 理仁 大森 哲郎
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.145-152, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
37
被引用文献数
2

N-methyl-D-aspartic acid(NMDA)受容体遮断薬が統合失調症類似の症状を惹起することから,統合失調症の病因としてグルタミン酸機能低下仮説が提唱された。グルタミン酸系とgamma-amino butyric acid(GABA)系には機能的な関連があり,抑制系神経細胞(GABA作動性介在神経細胞)の機能低下がグルタミン酸系神経の脱抑制を起こし,神経毒性をもたらす可能性がある。統合失調症におけるグルタミン酸系やGABA系の動態を検討するために proton magnetic resonance spectroscopy(1H-MRS)が応用されている。1H-MRSは非侵襲的にGABAやグルタミン酸(Glu),グルタミン(Gln)を分離して定量することが可能である。これまでに行われたMRS研究からグルタミン酸仮説と関連する所見を略述した。
著者
大森 哲郎 井上 猛
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

視察法および赤外線センサー運動量測定装置を用いて移所運動や常同行動を観察し、覚醒剤反復投与による行動過敏性(逆耐性)形成のさいの、グルタミン酸の関与を行動学的に検討した。また覚醒剤大量投与時にみられるドーパミン(DA)やセロトニン神経変性のメカニズムを、DAとグルタミン酸の放出動態を指標に、脳内透析実験を用いて研究した。覚醒剤とNMDA受容体競合的拮抗薬の併用反復投与は、非競合的拮抗薬の場合と同様に、行動過敏性形成を阻止することを明らかにした。このことから行動過敏性形成におけるNMDA受容体の関与が一層明確になった。覚醒剤を大量投与すると、DA放出は線条体と側坐核の両部位で昂進するが、グルタミン酸放出は線条体のみで昂進することを示した。DA神経変性は線条体に限局するので、グルタミン酸放出の昂進はこれと関連する可能性がある。セロトニン神経変性は、両部位において等しく認められるので、グルタミン酸放出の昂進は直接には関連しないと思われる。NMDA受容体拮抗薬は、セロトニン神経変性もDA神経変性と同様に抑制するが、その作用点は今後の検討課題である。さらに、NMDA型グルタミン酸受容体刺激に引き続き細胞内では一酸化窒素(NO)の生成が促進され、これが生理的に重要な意味を有するという最新の知見に導かれて、一酸化窒素合成阻害薬が覚醒剤の急性行動効果や行動過敏性形成にどのような影響を及ぼすかについて検討した。その結果、急性行動効果については、移所運動促進作用および常同行動発現作用ともある程度抑制することを示した。また行動過敏性形成については、移所運動の過敏性には影響がないが、常同行動に関しては、いくぶん減弱させることを見い出した。以上の実験所見から、覚醒剤精神病の発現にグルタミン酸神経伝達が関与していることが示唆される。
著者
大森 哲郎 原田 勝二 日比 望 村田 忠良 山下 格
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.26, no.8, pp.883-885, 1984-08-15

I.はじめに アルコールに対する生体反応には個人差が大きく,小量の飲酒でも顔面の紅潮するflushingを来す人と,多量に飲酒してもその傾向を示さない人がいる。このようなアルコール感受性の差異は,アルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase:ALDH)の個体差によるところが大きいことが指摘されている4)。 周知のようにアルコールは生体内で主にアルコール脱水素酵素(alcohol dehydrogenase:ADH)の作用によってアセトアルデヒドになり,次いでアルデヒド脱水素酵素(ALDH)により酢酸へと代謝され,最終的には水と2酸化炭素に分解される。そのうち飲酒時の酩酊状態に関与するのはアルコールそのものとアセトアルデヒドであり,特にnushingや心悸亢進などの徴候は専ら後者の作用によることが知られている7)。またアセトアルデヒドの血中濃度を規定しているのは主としてALDHの活性である。このALDHには2つのisozymeがあり,日本人の約4割は,アセトァルデヒドと親和性の高いALDH-I(low km AL—DH isozyme, km=3μM)を遺伝的に欠いている。これを持たない個体ではALDH-II (high kmALDH isozyme, km=30μM)が代謝に与るが,ALDH-IIはアセトアルデヒドとの親和性が低いため,その濃度がある程度以上高くならないと効率よく作用しない。したがってALDH-Iを保有する個体に比べて飲酒時にアセトアルデヒドが血中に蓄積され,その直接的あるいはモノアミンなどを介する間接的な作用のために,flushingその他の中毒症状が発現すると考えられる6)。 われわれは臨床的にALDH-Iの表現型(活性の保有または欠損)を検討し,flushingとの相関を再確認するとともに,飲酒習慣およびアルコール症との関連について興味深い結果を得たので報告する。
著者
石井 一夫 大森 哲郎
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

次世代シーケンサーやマイクロアレイなど、多次元データを用いた大規模データ産生システムの医療への応用が進んでいる。これらの多次元データから数理モデルを作成し、臨床診断への応用が期待されている。本研究では、これらの多次元データから、複数のマーカーを選択し、これらを組み合わせた数理モデルを作成する方法を確立することを目的とした。本研究では、精神神経系疾患を対象とし、それらの患者からの血液検体からのDNA、RNA試料を用いて分析を行い、そのデータをもとに、変数選択、モデル作成および最適化などを行い、高精度な数理モデル作成法を確立した。
著者
原田 貴史 中村 明美 友竹 正人 大森 哲郎
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.33-40, 2007-01-01
被引用文献数
1

看護職は高い専門性や自律性を求められると同時に,確認や清潔などの徹底も要求される.職場適応障害や燃え尽き症候群など心身医学的治療を要する症状を訴える者も多い.女性看護職に対する質問紙調査では強迫傾向が指摘される.われわれは,心身医学的見地より女性看護職の強迫傾向を検討し,強迫傾向と抑うつ度がQuality of Life (QOL)に与える影響の違いを比較した.自己記入式質問紙MOCI邦訳版(Maudsley Obsessional Compulsive Inventory)による強迫傾向群は16.3%と多かった.心身症患者の心理的特徴とされるアレキシサイミア(失感情症:alexithiymia)傾向は,強迫傾向に有意な相関を示した.アレキシサイミアの中でも「感情の同定困難因子」が,強迫傾向の「確認」「優柔不断」「疑惑」の高さと関係していた.抑うつ度は年齢層やQOL構成項目に限定されず,主観的QOLの低さと相関した.しかし強迫傾向は,若年女性看護職では「身体的領域」「心理的領域」の主観的QOLの低さと相関し,熟年看護職においては「社会的関係」の主観的QOLの高さと相関し,年齢や主観的QOLの領域により異なる影響をもたらす可能性が示唆された.若年看護職は強迫傾向と同時にアレキシサイミア傾向も高く,アレキシサイミアの中でも感情の同定困難と主観的QOLの低さとが関係していた.今後,このような若年看護職に対する心理的サポートをどのようなかたちで,どのような方法で行っていくのかが問われ,心身医学的検討が待たれるところである.