著者
鈴木 広道 石丸 直人 木下 賢輔 中澤 一弘 大西 尚 木南 佐織 多留 賀功 石川 博一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.265-272, 2014 (Released:2014-10-05)
参考文献数
30

白衣・聴診器は多剤耐性菌による汚染源となるが,白衣の交換頻度,聴診器の消毒の有無に関して我が国では実態調査は行われていない.今回,国内の4病院において入院診療に携わる常勤医を対象に2013年7~8月の期間において,アンケート調査を実施した.対象医師314名中312名より協力が得られ,有効回答が得られた308名(98%)において解析を行った.白衣の交換頻度は約半数(48%)で週1回程度であり,毎日白衣を交換している医師は23名(7.5%)であった.聴診器膜面のふき取りは162名(53%)で実施されていたが,患者1人毎の診察でふき取りを行っている医師はその内37名(23%)であった.背景因子との比較において,医師経験年数(10年以上)が白衣の交換頻度の低下と独立して関連を認めていた(p=0.04).男性医師において聴診器膜面の消毒が行われる頻度が低い事が示唆された(p=0.01).いずれも施設間の差は独立因子としては認めなかった.多剤耐性菌の抑制には,毎日の白衣交換,患者毎の聴診器膜面消毒が重要であるが,本研究において適切な白衣交換,聴診器膜面消毒が行われている割合は少数であることが示された.今回のデータを基に対象施設における改善を図ると共に,大規模な実態調査を行い,白衣交換・聴診器膜面の消毒が適切に行われていない要因をより明らかにする必要がある.
著者
大西 尚樹 安河内 彦輝
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.177-180, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
8
被引用文献数
4

九州ではツキノワグマ(Ursus thibetanus)は,1987年に大分県で捕獲されたのを最後に捕獲および生息を示す確実な根拠はなく,現在では絶滅したと考えられている.1987年に捕獲された個体については,野生個体であるとされているが,他地域から移入された個体の可能性も指摘されている.今回,この個体の由来を明らかにすることを目的として,ミトコンドリアDNA解析を行った.調節領域704塩基の配列を決定し,すでに発表されている系統地理学的研究の結果と比較したところ,同個体のハプロタイプは福井県嶺北地方から岐阜県西部にかけて分布しているものと同一だった.このことから,同個体は琵琶湖以東から九州へ移入された個体,もしくは移入されたメス個体の子孫であると結論づけられた.
著者
大西 尚樹 今田 日菜子 一ノ澤 友香
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.21-30, 2022 (Released:2022-02-09)
参考文献数
24
被引用文献数
1

岩手県ではイノシシ(Sus scrofa)は明治期に絶滅したが,2007年以降県内各地で目撃されるようになった.岩手県におけるイノシシの出没情報(目撃,被害,捕獲)をまとめ,分布拡大の変遷を明らかにした.さらに,種の分布モデル(Species Distribution Model)を用いて,今後のイノシシの出没確率を予測した.2007年に奥州市で1件目撃された後,2010年まで岩手県内では目撃がなかったが,2011年より県南部を中心に目撃が増え,2018年には全県的に目撃されるようになった.被害は2012年から発生し,2014年から2017年にかけて増加した.この状況から2007年~2010年を移入期,2011年~2017年を拡大期,2018年以降を定着期と呼べるだろう.種の分布モデルによるイノシシの出没確率は標高,植生,土地利用データを組み合わせて用いることで,高い精度で予測することができた.2017年までの出没データを用いて出没確率を予測し,2018年および2019年に実際に出没した地点と比較したところ,予測確率が高い地点ほど実際に出没していることが確認された.今後は,出没確率の高い地域から生息密度が高まり,イノシシが出没するようになることが予測される.
著者
大西 尚昭 中川 義久
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.654-656, 2016-04-10

ポイント●巣状興奮タイプ(異所性)の心房頻拍の場合は,12誘導心電図でのP波の極性から頻拍の起源を推定することができる.●左房起源か右房起源か,高位起源か低位起源かで大別して考えると理解しやすい.●嚥下誘発性心房頻拍は稀な疾患ではあるが,ときおり臨床現場で認める.薬剤が無効な場合でもカテーテルアブレーションが奏功することもある.
著者
梅澤 佳乃子 大西 尚 湯村 真沙子 藤井 真央
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.233-238, 2019-05-25 (Released:2019-06-10)
参考文献数
18

背景.慢性腎不全患者における難治性胸水例が呼吸器内科に紹介となることがある.胸水貯留の原因の一つとして尿毒症性胸膜炎が知られているが,局所麻酔下胸腔鏡所見に関しての報告は少ない.目的・方法.2012年2月から2014年8月に当院にて局所麻酔下胸腔鏡検査を施行し,尿毒症性胸膜炎と診断した維持透析患者9例を対象とし,その臨床的特徴を検討した.結果.平均年齢は65歳,男性8例,女性1例.胸水量は中等量が7例,大量が2例.透析期間は中央値36か月(12~252か月),胸水貯留指摘から検査までの期間は中央値4か月(1~7か月).淡血性から血性胸水が7例,黄色胸水は2例.胸腔鏡所見は8例でびまん性胸膜肥厚と線維素が形成され,詳細な観察は困難であった.生検可能な8例に対して胸膜生検を施行し,全例で線維素性胸膜炎として矛盾しない結果であり,除外診断として尿毒症性胸膜炎と診断した.結論.慢性腎不全患者における難治性胸水の原因として尿毒症性胸膜炎を念頭に置く必要があり,その特徴的な胸腔鏡所見はびまん性胸膜肥厚と線維素形成であった.
著者
大井 徹 大西 尚樹 山田 文雄 北原 英治
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.17-24, 2008-06-30
参考文献数
23
被引用文献数
1

京都府のツキノワグマは,由良川(福知山市より下流部)の東側に分布する丹波個体群と西側に分布する丹後個体群に分かれるが,丹波個体群では,丹後個体群より若齢のオスがより多く有害捕獲される傾向が認められた.その原因を明らかにするために捕獲方法,捕獲理由,捕獲月,捕獲場所の景観,メスの分布と捕獲されたオスの年齢の関係を検討した.捕獲地点の分布を検討したところ,性成熟したオスは,交尾期になると,性成熟したメスが生息する可能性の高い地域に集まる傾向が示唆されたが,そのようなメスの生息地域の内と外で捕獲されたオスの年齢を比較しても差異は認められなかった.検討した要因の中では,唯一捕獲場所の景観の影響が認められ,森林で捕獲されるオスは若齢のものが多い傾向があることがわかった.丹波個体群ではクマハギ防除のために7~10月に森林中で多くの有害捕獲が行われる一方,丹後個体群では8~11月に農業被害や人身被害防止のため集落・農地近くでの有害捕獲が多く行われており,このことが背景となって丹後個体群と丹波個体群の捕獲個体構成の差異が生み出されていると示唆された.一方,この差異は野生個体群の構成の違いを反映している可能性もあり,留意する必要がある.<br>
著者
大西 尚樹 玉手 英利 岡 輝樹 石橋 靖幸 鵜野 レイナ
出版者
独立行政法人森林総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日本のツキノワグマはアジア大陸から日本に渡来してきた後に、3つの遺伝グループに分岐し、各地域で遺伝的な分化が進んでいることが示唆された。こうした遺伝構造は、近年の大量出没においては一時的に崩れるものの、すぐに回復し維持されることが明らかになり、各地域の遺伝的なまとまりを保護管理ユニットとして適応出来ると考えられた。九州では1987年に捕獲された個体が本州由来であることが明らかになり、1957年以降捕獲がないことから絶滅の可能性が強くなった。