著者
太郎丸 博
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.41-57, 2006-06-30

1970年ごろに米国で発達した理論構築の考え方は, 理論に対する1つのアプローチを確立した.しかしそれは, 学説研究の価値を不当に低く評価することになっている. Laudanの議論に従えば, 研究伝統の抱える概念的問題を解決したり, 社会学全体を見渡して複数の研究伝統の発展の歴史を概観したり, その長短を判断することを通して, 学説研究は理論を発展させることができる.さらに研究伝統を深く学ぶことで, 解くべき問題をしばしば発見することができるし, 概念的問題の解決の手がかりも, しばしば学説の中にある, しかし, 学説だけを研究しても理論の発展は難しい.概念的問題は経験的問題と密接に連動しており, 経験的問題の解決は, データの収集・分析と不可分に結びついている.概念的問題と経験的問題を同時に追求しなければ, 理論の発展は困難である.理論を発展させるためには, 既存の研究伝統を深く学ぶと同時に, 何らかの経験的問題を追求することが必要である.そのためのコツをあえていうならば, デリベーションと「よい」集団に属して研究することが考えられる.
著者
落合 恵美子 伊藤 公雄 岩井 八郎 押川 文子 太郎丸 博 大和 礼子 安里 和晃 上野 加代子 青山 薫 姫岡 とし子 川野 英二 ポンサピタックサンティ ピヤ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アジアの家族は多様であり、東アジアと東南アジアの違いというような地理的違いにも還元し尽くせないことが、統計的に明らかになった。一枚岩の「アジアの家族主義」の伝統も現実も存在しない。しかし圧縮近代という共通の条件により、国家よりも市場の役割の大きい福祉レジームが形成され、そのもとでは家族の経済負担は大きく、移民家事労働者の雇用と労働市場の性質によりジェンダーが固定され、近代的規範の再強化も見られる。
著者
太郎丸 博
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.287-298, 2000

本稿のねらいは、社会学における合理的選択理論の伝統を概観し、今後の発展の可能性を示すことにある。合理的選択理論は行為の目的合理性を過剰に強調すると同時に、選好と機会構造の形成過程をしばしばブラックボックスのままにしてきたため、社会学の中では異端でありつづけてきた。しかし、マイクロ-マクロ・リンクおよび行為の多元的合理性を梃子にしながら社会批判・政策提言を行っていくことは、社会学の良質の伝統に属する。そして合理的選択理論もそのような良質の伝統に属する。そのことが一見異端とも思える合理的選択理論が社会学の中で発展してきた理由の一つであり、このような伝統を共通の基盤にしながら他の学派との対話も可能であることを示す。