著者
安里 和晃
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.53-64, 2011

候補者は経済動機というよりも、スキルの習得や経験といった社会的動機により来日している側面がみられる。受け入れ機関も人材不足の解消やコストの削減のためというよりも、将来へのテストケースとして受け入れを位置付けており、受け入れ効果としてコミュニケーションや利用者からの評判、チームワークなどについては肯定的な評価が与えられている。こうしてみると候補者と受け入れ側に齟齬はなさそうである。しかし、国家試験や就労に必要な日本語の習得が重要な課題となっているにもかかわらず、教材や標準化されたカリキュラムが不十分であった。課題に対して基盤整備が不十分という矛盾は、現在は大きく改善されつつある。とはいえ、日本語習得の負担が大きく、日本語の習得にどう対処するかは大きな問題であると言える。
著者
安里 和晃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.625-648, 2013
被引用文献数
1

ケアの求心力は人の国際移動を大きく促進した. 1つは香港, シンガポール, 台湾に存在する70万人をはじめとする家事労働者にみられ, 家事の補填のために雇用される途上国の女性である. 労働市場における非競合性, 雇用主にとっての「利便性」もあり経済成長や高齢化を背景として家事市場は拡大した. 外国からの豊富な労働供給を背景に市場は安定したが, 家事労働をめぐる階層化, 性役割分業の固定化を伴った. 次第に高齢化を背景とするケア需要が増大した. 各種補助金や税控除, 老親扶養法など「家族化政策」と連動し家事市場はさらに拡大したが, ケアの社会化は困難となった. 家族主義の問題点は家族形成を前提とするが, 日本, 韓国, 台湾など先進国における高齢者, 障害者などによるケア確保が一義的な国際結婚が増大した. 少子化や家族危機の言説と絡まり, 国際結婚は社会統合・多文化政策のきっかけとなった. 良き家族の一員としての統合は, 伝統回帰型かジェンダー平等型かという点で課題を抱えるが日本を除き政権にかかわらず推進されている. しかし, これらの移動は家事労働者の労働者性の担保, 婚姻過程の経済取引化などは結婚移民の脆弱性の原因となっている. 送り出しに伴う家族構成員の移動と欠如, 受け入れ側の家事労働者の家族接合, いずれにせよ従来とは異なるケアの供給体制であり, 近代家族自体が相対化されるものである.
著者
安里 和晃
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.93-101, 2014

経済成長を背景とした女性の労働力化と高齢化の進行に対応すべく、家事・介護・看護の外部化が多くのアジア諸国で進んでいる。シンガポール、香港、台湾だけで70万人を超える外国人家事労働者が存在し、韓国や東南アジアの受け入れ諸国でもその数を増大させている。日本はやや例外的で性役割分業を前提とした家族モデルが相対的に強く、家事労働などの外部化はそれほど進展しなかった。しかし、幾度か外国人家事労働者や介護労働者、看護師などの受け入れが議論されたことがある。本稿では外国人労働者政策を振り返ることで、介護保険、ポイント制、経済連携協定が議論された際、外国の人材受け入れに関してどのような対応がされたか検討した。日本では労働需給にもとづき外国人労働者を導入するといった補完的論理に基づく外国人労働者政策を取ることができず、研修や日系人、留学生といった形で事実上の受け入れを行ってきた。EPAにおいても看護・介護部門の人材不足は認められないという前提に立ち「候補者」という形で受け入れが行われ、わかりにくい運用となっている。外国人の労働者性に対する懸念は国民主権の論理、治安の悪化や社会保障費用の増大といった社会的コストなどがあげられるが、人口構成の変化に対する新たな社会システムの構築は喫緊の課題であり、労働市場に応じた受け入れというある意味わかりやすい社会政策と関連付けた外国人労働者政策が取れるかどうか検討されるべきであろう。
著者
安里 和晃
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.625-648, 2013 (Released:2015-03-31)
参考文献数
71
被引用文献数
1

ケアの求心力は人の国際移動を大きく促進した. 1つは香港, シンガポール, 台湾に存在する70万人をはじめとする家事労働者にみられ, 家事の補填のために雇用される途上国の女性である. 労働市場における非競合性, 雇用主にとっての「利便性」もあり経済成長や高齢化を背景として家事市場は拡大した. 外国からの豊富な労働供給を背景に市場は安定したが, 家事労働をめぐる階層化, 性役割分業の固定化を伴った. 次第に高齢化を背景とするケア需要が増大した. 各種補助金や税控除, 老親扶養法など「家族化政策」と連動し家事市場はさらに拡大したが, ケアの社会化は困難となった. 家族主義の問題点は家族形成を前提とするが, 日本, 韓国, 台湾など先進国における高齢者, 障害者などによるケア確保が一義的な国際結婚が増大した. 少子化や家族危機の言説と絡まり, 国際結婚は社会統合・多文化政策のきっかけとなった. 良き家族の一員としての統合は, 伝統回帰型かジェンダー平等型かという点で課題を抱えるが日本を除き政権にかかわらず推進されている. しかし, これらの移動は家事労働者の労働者性の担保, 婚姻過程の経済取引化などは結婚移民の脆弱性の原因となっている. 送り出しに伴う家族構成員の移動と欠如, 受け入れ側の家事労働者の家族接合, いずれにせよ従来とは異なるケアの供給体制であり, 近代家族自体が相対化されるものである.
著者
安里 和晃
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.10-25, 2009-06-01 (Released:2019-10-10)
参考文献数
43

アジア的な福祉政策といわれる家族ケアの活用は,残余的な福祉サービスの供給体制,性役割分業の維持,女性の労働力率の上昇や家族構成の変化によって困難を抱えているが,シンガポール,香港,台湾では,外国人家事労働者が家族ケアの重要な担い手となっている,台湾の例では「重度」以上の要介護者の半数以上が,外国人家事労働者によってケアを受けているーこれらの地域は高齢化率が10%に達した段階だが,残余的な福祉サービスと家庭内のインフォーマルケアを活用しようとしている点で共通している.家族によるケア供給の活用は,政府による各種の補助金制度や税の優遇制度,老親扶養の法制化,外国人家事労働の雇用許可,モラル教育といった「家族化政策」を通して支えられ,家族の福祉機能を維持・強化しようとしている.外国人家事労働者の導入は市場メカニズムを通じたサービスの供給形態の一つであり,国際労働市場を形成させ,女性の階層化を伴いながら性役割分業を固定化し,経済政策と福祉政策の見えない基礎となっている.ところが家事労働者のフレキシブルな労働力は,労働法令非適用と引き換えに成立していること,ニーズ、に合った人材育成がなく社会的地位が低いといった問題を抱えている目さらに「家族化政策」は家族形成を前提としてケアが確保されるものであり,単身者や結婚を選択しない者は,外国人家事労働者を雇用しない傾向にあることからケア確保の問題を解決することはできない, といった問題点を抱えている.
著者
安里 和晃
出版者
Posse ; 2008-
雑誌
Posse = ポッセ
巻号頁・発行日
vol.34, pp.94-109, 2017-03
著者
落合 恵美子 伊藤 公雄 岩井 八郎 押川 文子 太郎丸 博 大和 礼子 安里 和晃 上野 加代子 青山 薫 姫岡 とし子 川野 英二 ポンサピタックサンティ ピヤ
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

アジアの家族は多様であり、東アジアと東南アジアの違いというような地理的違いにも還元し尽くせないことが、統計的に明らかになった。一枚岩の「アジアの家族主義」の伝統も現実も存在しない。しかし圧縮近代という共通の条件により、国家よりも市場の役割の大きい福祉レジームが形成され、そのもとでは家族の経済負担は大きく、移民家事労働者の雇用と労働市場の性質によりジェンダーが固定され、近代的規範の再強化も見られる。