著者
合原 一幸 宮野 悟 鈴木 大慈 奥 牧人 藤原 寛太郎 中岡 慎治 森野 佳生
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

1. 数理モデルに基づく前立腺がんの内分泌療法と他の疾患への展開前立腺がんに関しては、PSA(Prostate Specific Antigen: 前立腺特異抗原)という高感度のバイオマーカーが存在するため、数理モデルの性能を PSAデータを用いて定量的に評価することが可能である。平成28年度は、昨年度までの解析をさらに進めると共に、統計的機械学習理論を用いて、不十分なPSA時系列データからの予後予測を目指した拡張手法の研究および数理モデルによる分類と癌の転移との関係性についての検討を行った。2. 動的ネットワークバイオマーカー理論の発展とその応用本研究では、病態の変化を一種の複雑生体ネットワークの動的な状態遷移としてとらえ、疾患前後で先導して不安定化する生体ネットワークの部分ネットワーク (動的ネットワークバイオマーカー DNB) を効率的に検出する数理手法とアルゴリズムを開発している。平成28年度は、これまでの成果をさらに発展させ、あらたな遺伝子発現情報のビッグデータを解析の対象として DNB の有効性を確認した。また、DNB を効率的に検出する数理手法の理論的基盤の整理、観測データから生命システムの複雑ネットワーク構造を再構築する手法の開発、DNB 検出に応用可能なテンソル解析など機械学習手法の開発、腫瘍内不均一性を含めた癌の進化シミュレーションモデルの構築、構成要素の多様性減少による遷移方式および遷移に関わる少数因子の相互作用を記述した数理モデルの構築と分析などを行った。
著者
中丸 智貴 合原 一幸 奥 牧人
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.261-264, 2016-05-01 (Released:2016-05-30)
参考文献数
10

近年ディープニューラルネットワークが多くの成果とともに再注目され, ディープラーニングに関する研究が改めて活発になっている. 特に多層ニューラルネットワークでは 学習に誤差逆伝播法が用いられるが, この手法は初期パラメータに非常に影響を受けやすいことも知られている. 本研究ではまずReLU (Rectified Linear Unit) を用いた 多層ニューラルネットワークにおいてXavier Initialization の改善を行った. さらに高次元数のニューラルネットワークについてもXavier Initialization の修正を行った.
著者
小泉 桂一 奥 牧人
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-07-18

昨年度までに、以下2つのメタボリックシンドロームマウスに関して、2種類の情報・数理学的な解析方法で「未病」状態を捉える試みを行った。1. メタボリックシンドローム自然発症マウスに対して、DNB解析を行うことで、「未病」状態のタイミングが5週齢で確認された。さらに、このDNB遺伝子は、約147個で構成されていることが明らかになった。今年度、この147個の遺伝子の関連性をGOおよびKEGG パスウェイにより解析した。その結果、GO解析では、炎症反応、免疫反応、細胞接着、ERK1/2カスケード、遊走の関与が、およびKEGG パスウェイ解析では、サイトカイン作用、神経活性化ライガンド作用、ケモカインシグナル、ファゴソーム、補体ー血液凝固系の関与が示唆された。さらに、漢方薬である防風通聖散がこのDNB遺伝子のゆらぎを低下させることも明らかとなった。2. 高脂肪食摂餌によるメタボリックシンドローム発症マウスに対して、超早期の発現変動遺伝子解析を行うことで、「未病」状態のタイミングが3日目で確認された。さらに、脂肪組織において酵素Xの発現が上昇していることが明らかになった。今年度、高脂肪食摂餌によるメタボリックシンドローム発症マウスに対して、酵素Xの阻害剤を投与したところ、顕著な抗肥満効果が確認できた。
著者
中川 拓麻 奥 牧人 合原 一幸
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.271-274, 2016-05-01 (Released:2016-05-30)
参考文献数
8

近年,力学系理論を用いて複雑システムの急激な転移の予兆を事前に検出する動的ネットワークマーカー(Dynamical Network Marker: DNM)の手法が発展しつつある.本研究では,複雑ネットワーク構造を持つ数理モデルを構築してその有効性の解析を行った.これに際して,転移の予兆として従来考えられていた性質の一部は,現実的には多くの場合成立しないことを指摘し,手法の修正を行った.数値解析の結果,システムの性質に応じてDNM を適切に選ぶことで,幅広いシステムにおいて転移の予兆検出が可能であることが示唆された.
著者
奥 牧人 合原 一幸
出版者
東京大学生産技術研究所
雑誌
生産研究 (ISSN:0037105X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.319-323, 2013-05-01 (Released:2013-09-06)
参考文献数
25

本稿では,脳の計算原理を理解する上で近年注目されているベイズ推論の考え方を紹介し,これを用いて脳における二種類の計算(入力に関する計算と出力に関する計算)が統一的に捉えられる可能性があることを説明する.また,これら二種類の計算を,動的ベイジアンネットワーク上の確率推論として定式化した数理モデルについて紹介する.この数理モデルは,出力計算におけるベイズの定理の意味など,脳型情報処理システムの工学的実現にも有用な理論的基礎を与える.